2018.04.18
解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2018年6月号
【PR】「データ解析ありき」を導くコンセプトダイアグラムとは TC協会×ウェブ解析士協会?ワークショップレポート
Webサイトを通じて閲覧者の行動データを取得することは当たり前の時代となった。しかし、得られたデータを効果的に活用できている企業はさほど多くはない。では、企業はどのような姿勢でデータに向かい合っていくべきか、そしてデータを上手に活用するには何が必要か。2018年2月20日、「閲覧者行動の仮説から、最適な情報発信戦略を探る!! 上流工程編」と題されたワークショップが開催された。ワークショップでは「コンセプトダイアグラム」という手法を軸に、これからのデータ活用としての解析のあり方が探られていった。
Photo:黒田彰
仮説から解析をスタートすることで目的に近づく
製品やサービスの使用説明(マニュアル)を扱う専門家の団体「一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会(以下、TC協会)」と、アクセス解析の知識とスキルを有する人材を育成する「一般社団法人ウェブ解析士協会」がコラボレーションして開催されたこのワークショップ。TC協会の黒田聡氏は、その企画意図を次のように説明した。
「我々はWebを通じて情報提供することが多くなっています。それが成果に結びついているのかを知るために、解析技術を学びたいという願いを持っています。しかしWebの専門家の方々と我々の間には、目標設定に対する考え方において微妙なズレが生じることが多かった。彼らは売上アップや、そこに到達するために訪問者数や滞在時間を増やすという目標を設定することが多いのですが、我々からするとそれらは必ずしもプラスのコンバージョンとはなりません。製品が使いづらいから訪問者が増えているのかもしれないし、マニュアルがわかりにくいから滞在時間が増えているのかもしれないのです。そこでウェブ解析士協会と連携し、解析の考え方や手法について学び、一方で解析士の方々にも我々の状況をご理解いただく場を企画しました」
解析にまつわる重要キーワードはいくつかあるが、今回フォーカスされたのは「仮説」だ。この日の講師を務めたウェブ解析士マスターの小杉聖氏は、「仮説を立てた上でデータを収集・解析することで目的に近づける」と話す。その意味を説明するために小杉氏が取り上げたのが、「マーケティング・サイエンスの古典」とも呼ばれる『販売の科学』(唐津一著/PHP文庫)で紹介された「豆腐屋の事例」だ。これは、戦後間もない東京・高円寺で豆腐の行商を営むある商人が著者のアドバイスを受け、豆腐の売れた時間や経路といったデータを収集・解析し、その結果に基づいて販路や販売時間といった販売計画を再構築し、売上アップを実現させたというものだ。
「当時の高円寺はサラリーマン世帯が多く、人々の行動も時間どおりでした。そのため、実際に売れる場所と時間、その経路がわかれば、売れる可能性が高いポイントを見極められるという仮説を立てることができます。あとはデータを解析して実行に移すだけになります」(小杉氏)
このように仮説からスタートする解析のことを、小杉氏は「攻めの解析」と呼ぶ。
「一般的な解析はCAPDの順番で行われます。得たデータを解析・検証(Check)し、データから問題を発見するという行動(Act)をとる。仮説ベースで改善案を計画(Plan)し、実行(Do)に移す。これはデータを得ることから始まるので“待ちの解析”と呼べるものです。一方、攻めの解析はPDCAの順で流れていきます。データと施策の仮説を計画し、施策を実行する。そこで得られたデータを解析・検証し、結果を受けて調整(Adjust)するというものです。そもそもこのPlanは"計画"ではなく"戦略"と言えるほどのボリュームなので、攻めの解析を行うのはリニューアルなど戦略転換が必要な場合に有効です」
攻めの解析は現状と未来を同時に考えるところからスタートするため、解析のサイクルをたどっていくと自分たち(企業)と対象者(顧客)との距離を縮めることが可能になる。つまり対象者の態度変容を促すことができる手法と言えるのだ。
態度変容を可視化して納得解を導き出す「コンセプトダイアグラム」
対象者の態度変容の様子を可視化すると、Webサイトやコンテンツ、指標や施策の必要性と必然性を明確にできる。これらが明らかになれば、企業は納得感を持って事業を展開していけるようになる。そのために効果的な手法が「コンセプトダイアグラム」というものだ。
コンセプトダイアグラムは、(1)企業にとって理想の対象者のあり方(ゴール)、(2)対象者の現在の状態(スタート)、(3)スタートからゴールへ成熟度を深める2つの要因、(4)対象者の態度変容(状態の変化)ステップ、(5)態度変容を促すための施策、(6)各施策の指標という6つのポイントを、順を追って構築していく。対象者がゴールに向かっていく上で必要になるのは知識量と機能への期待であり、レイアウトや文章の改善といった施策を実行することでだんだんと成熟度を深めていくことができる。
「コンセプトダイアグラムをつくると、自分たちにとって何が一番重要で、何が足りていないかを明らかにすることができます。足りない部分を補うために新たな施策を考え、見るべき数値を見ていける。つまり、Webにおける企業活動のブラックボックスをなくすものです」(小杉氏)
さらに小杉氏は続ける。
「コンセプトダイアグラムを描く上で大切なのは、絶対解ではなく納得解を導き出すことです。納得解が導き出されれば、チームで意識の共有を図ることができる。同時に目的のデータも取れるようになるのです」(同氏)
ポイントは対象者の心の声に寄り添い、曖昧さをなくすこと
続いて、実際に参加者がコンセプトダイアグラムを作成するワークへと移った。その題材は、ヤマハが発売するアナログミキサー「MGシリーズ」のWebマニュアルについてだ。同製品はもともと独立して使用される製品であったが、近年、パソコンと接続して使用されることが徐々に増えてきたという。とは言っても製品のメインの機能ではなく、パソコンとの接続方法を紙のマニュアルに追記すると費用対効果が悪くなるという課題があった。そこでWebマニュアル上でユーザーニーズを担保するようになったという。ヤマハが設定した対象者の状況と目指すゴールについて、制作を手がけた石川秀明氏は次のように話した。
「対象者は製品を購入したユーザーで、“製品とパソコンを接続する方法を知りたい”というニーズを持っています。企業としては、サイトを見てもらうことで対象者が必要な情報をすべて得られ、自分ひとりで作業を完結できるようにする。仮にわからないことがあっても問い合わせまでスムーズに導けることも目指しました。最終的には“ヤマハのサイトに来れば大丈夫”という安心感や信頼感を抱いてもらい、顧客満足度を向上させることをゴールにしています」(石川氏)
前提を共有したところで、まずは参加者が個々人でコンセプトダイアグラムを描き、次いで各チーム内で意見を持ち寄り、メンバー全員が納得できる形へと落とし込んでいった。
全体共有の場では、あるチームは対象者が「面倒なことをしなくちゃいけない」という感想を抱いたところをスタート地点においたが、「コンセプトダイアグラムは綺麗な言葉で飾る必要はなく、“めんどうくさい”というような心の声を入れるのは非常に良いこと」と小杉氏は評価。また「サイトが使いやすいということは、段階を踏むことでワクワク感や安心感を得られるということ」と、“使いやすさ”を定義したあるチームに対しては、「曖昧な言葉を明確に定義することはコンセプトダイアグラムを描く上で非常に重要なこと。そうすることで納得できるコンセプトダイアグラムが出来上がる」と評していた。
ヤマハの石川氏は、「このサイトを制作する上で深く考えていたつもりでしたが、皆さんのコンセプトダイアグラムを見て、いかに自分たちが限られた視野で物事を捉えていたかを感じました」と語った。
コンセプトダイアグラムの本質は「コミュニケーションツール」
最後に小杉氏は、データ活用のポイントとその中でコンセプトダイアグラムを使う意義について次のように語った。
「データに踊らされると良い解析をすることはできません。そうならないために本日紹介したように、仮説を立て、対象者の行動と企業の目的をつなげることが重要です。企業としては、全員が納得した上でゴールを目指す必要があります。そこで、コンセプトダイアグラムを描き、共通認識を合わせていく。本質はコミュニケーションツールであり、チームの羅針盤となるものなのです」
そもそも多くの企業でデータ解析がうまく浸透していかないのは、解析にかかる負担を敬遠していることも一つの要因としてあるだろう。だがコンセプトダイアグラムを用いれば、「解析ありき」で行動を起こしていかなくてはならないことに気づき、その意思をチーム内で共有することも容易になるはずだ。データ活用がうまくいっていないと感じる担当者は、まずはこの手法を採り入れ、チーム全体で納得解を導くことに取り組んでみてはいかがだろうか。
企画協力:一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会