AIは企業発信の情報品質をいかに向上させるのか|WD ONLINE

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特別企画 [PR] Web Designing 2017年12月号

AIは企業発信の情報品質をいかに向上させるのか TC協会25周年記念特別イベントレポート

インターネットの浸透により情報伝達のスピードは爆発的に加速し、その量も激増した。そんな時代にあって企業は自らが発信する情報の品質と信頼性をどのように担保すべきか。この命題に真っ向から取り組み続けている一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会が創設25周年を記念して、2017年8月25日、東京・東京学芸大学小金井キャンパスで「AI&ICT活用と情報の品質と信頼性の向上」をテーマに特別イベントを開催した。昨今注目が集まっているAIとICTはテクニカルコミュニケーションの向上、そして日本産業界にどのような影響を与えていくのか。
Photo:黒田彰

哲学を持たねばAIは危険な存在となる

製品やサービスの使用説明(マニュアル)を扱う専門家の団体「一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会(以下、TC協会)」が創設されて、今年で25周年になる。それを記念して、トークイベントが催された。現在の潮流や最先端技術を取り上げ、それが彼らの業務領域でいかに活用できるかを日々追究している同協会だが、この記念すべきイベントでテーマとして掲げたのは「AI」だった。

黒田聡 一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会  公益活動企画会議 議長

本イベントはまず「AI技術~今、私たちが知っておくべきこと、考えること~」と題し、富士通(株)でAIブランド「Zinrai」の開発などに携わる永井浩史氏が登壇。最新のAI技術である「ディープラーニング」に関する話題を主軸に、企業はどのようにAIを活用していくべきかを語った。

AIがバズワードになる一方で、“AIは人の仕事を奪うのでは”という印象を抱き、懐疑的な思いを抱く人も少なくない。その点について永井氏は「実際に人の仕事を奪い、AIが人を支配する側面は出てきてしまっている」とし、だからこそ「AIの導入・活用を検討する際には“哲学”を持たないと危険な状態に陥る」と指摘した。そして、そのためには“AI”という言葉の再定義が必要だと言う。

永井浩史 富士通(株) AI基盤事業本部 ビジネス戦略室 室長

「AIは“Artificial Intelligence(人工知能)”の略ですが、私は“Amplified Intelligence”、つまり“人間の知恵を増幅するもの”として捉え直すべきだと思います」

現在これほどまでにAIが注目されているのは、“高齢化社会”の進行がひとつの要因としてある。高齢化社会が進行すると生産年齢人口が減少し、技術者たちの知恵が途絶えることになる。製造現場などの場合は、ベテランが蓄えた知恵を若手に伝承していくことでその循環が生まれていくが、高齢化社会においては現場に若手が入って来なくなるため、知恵が伝承されていかなくなってしまう。そこでAIを活用して知恵を収集・分析をする、つまり“人間の知恵を増幅させる”という役割を与えることで、この危機を回避しようというのだ。

AIが拡がっている背景を理解し、“なぜ自分たちがAIを必要としているのか”という根本を認識しておかないと、AIに踊らされ、“支配”されることにつながってしまうというのが、永井氏の言葉の真意である。

AIを「Artificial Intelligence(人工知能)」ではなく「Amplified Intelligence(増幅知能)」と再定義すべきだと永井氏。それが人間とAIの共生に必要なことだと話す
富士通が開発を行うAIブランド「Zinrai(ジンライ)」。「人間をサポートするAI」を目指し、企業内で埋もれてしまったデータの再活用や営業力強化などに利用できる。実際に多くの企業に導入されているという
ディープラーニングの活用例として紹介した「猪と狸の識別」の事例。従来の画像処理と違い、たった3日間で認識レベルを引き上げた。「認識のフェーズではシンギュラリティ(人工知能が人間を超える)が起きている」と永井氏

 

人間にしかできないことをAIにサポートさせる

AIはすでに、「情報の収集」と「判断」という部分では人間以上の力を持っている。その好例として永井氏が紹介したのは「猪と狸の識別」だ。

「ある地域から、夜中に暗視カメラで撮影した見づらい映像でも猪と狸を判別し、猪だけを罠にかけられるようにしたいという相談を受けました。そこでディープラーニングに猪の画像を覚えさせたところ、90%以上の確率で猪と狸を判別できるようになりました。人間ではそこまで高確率で識別することはできません」

この事例でキーとなるものが「ディープラーニング」だ。簡単に説明すると、膨大なデータを投入すると自動的に特徴を発見する技術で、人間が定義しないと特徴を抽出できなかった従来の機械学習の課題を克服しており、現在では自動運転などにも応用されている。

とはいえ、現在のところ言語の認識や翻訳は得意なものの、現段階ではAIの読解力は低いため、ユーザーが理解しやすいように情報をまとめる力はまだないという。だがディープラーニングは日進月歩の進化を遂げており、今後もそのレベルに留まっている保証はない。では近い将来、マニュアル作成の現場で人の仕事がAIに奪われてしまうのかというと、そうではない。永井氏は次のように話した。

「時代が移り変わる中で、プロダクトやサービスの形態も変化していきます。その中でTCがマニュアル作成を通してすべきことは、ユーザーとサービス、そして技術者をつなぐということ。先に話したように、AIは“人間の知恵を増幅させる”には適した技術です。その利点をうまく活かしていくことが必要です」

AIは現場の問題を解決するために活用し、人間は人間にしかできないことに注力する。それこそがAI活用の際に忘れてはならないポイントであり、TCに限らず、すべての業界に共通することだろう。

小野良太 AI TOKYO LAB(株)
野村元伯 アベイズム(株)
豊島崇泰 (株)富士通ラーニングメディア

 

AI導入に欠かせない「場のデザイン」と「哲学」

セッションの後半では、「ビジネスへのAI適用」に関してパネルディスカッションが行われた。

AIをどのような領域で活用すべきか、AIには今後どのようなことが期待できるのかといったテーマでディスカッションは進められていったが、その中でも盛り上がりを見せたのは「企業がAIを導入するとき、誰が中心となって推進していくべきか」というテーマだった。

企業がAIの導入をするとき、最終意思決定者は経営者であることがほとんどだというが、「それが日本でのAIの発展の遅れを招いている」と永井氏は指摘する。

「将来的には現場部門の人間がAIの導入を決定するようにならないといけません」

AI TOKYO LAB(株)の小野良太氏によると、現場がAI導入を提唱するボトムアップ型で推進をしていくほうが最終的に成功につながるケースが多いという。ただし、「ビジネスモデルの発展のためにAIを活用するのであれば、現場よりも上のレイヤーであるマネジメント層が中心になるべき」(アベイズム(株)野村元伯氏)という考え方もある。つまりAIを業務の利便性を向上させるだけのツールとして捉えてしまうと、そのポテンシャルを存分に活かし切れない恐れがあるということだ。では真の意味でAIをビジネスに活かすにはどのようなことが必要なのか。永井氏が挙げたのは「場のデザイン」と「哲学」という2つのキーワードだ。

「現場は“場のデザイン”をしながらAIの導入を推進し、経営層は“哲学”を持ってビジネスモデルを捉え、AIを考える。この両輪をうまく回すことが必要です」

そして、場のデザインを構築していくためには、自分たちが開発したサービスや製品を利用するユーザーのニーズを理解し、解決策を再定義する“デザイン思考”が必要であると永井氏は締めた。

TC業界においてはまだまだAIの導入は進んでいないが、その波はいつか必ずやって来る。来る時にAIに“支配”されることなく、うまく活用し、ビジネスを加速させる。そのために必要なことが詰まったセッションだったと言えるだろう。

ディープラーニングの適用範囲は画像と音声に限定されていたが、今は手書き文字を認識することも研究されている。実験では97%認識できるようになったというが、それではまだ産業的に活用は難しいという
高齢化社会をはじめ、異常気象や災害など、多くの社会課題を解決するためにAIは存在する。だからこそ「AIと人間が共生していくための“哲学”は欠かせない」と永井氏は強調した
プレゼンテーションに続いて行われたパネルディスカッション。AI、そしてTCの第一線で活躍する方たちによって、より実務に沿った議題が話し合われた

 

TCのこれまでとこれからが詰まったイベント

IoT先進国ドイツの知見を紹介

ドイツ・カールスルーエ大学から招かれたヴォルフガング・ジーグラー氏は、「技術情報のためのコンテンツマネジメント技術の深化」と題した発表をした。製品やサービスに関する情報(コンテンツ)をデータとして効率的・効果的に作成・運用するTC技術において、コンテンツの管理は非常に重要。クラシフィケーション技術など、コンテンツ管理の最新事情をIoTやIndustry4.0で日本の一歩先を行くドイツの事例で紹介した。

カールスルーエ大学のヴォルフガング・ジーグラー氏。ネットで発信する情報の作成や配信、品質担保にとって意義深い事例の共有が行われた

3D印刷技術の教育利用という新しい挑戦

会津大学のデボプリオ・ロイ氏は、「3D印刷を教材にしたテクニカルライティングに関する言語(英語)教育の紹介」というプレゼンテーションを行った。

3D印刷技術を人材育成の現場に導入し、工学的応用能力と文書作成能力の同時習得に役立てるという取り組みを行ったロイ氏。あくまでも学術的な事例の紹介であったが、注目の技術であるだけに、多分野の人々から注目を集めたようだった。

会津大学のデボプリオ・ロイ氏。情報作成の担当者や、その育成に関わる人に向けた3D印刷技術の教育への貢献について語った

企業からの発信情報をいかに管理するか

Industry4.0時代に求められるコンテンツ管理は「いかにコンテンツ管理とそのプロセスを自動化させるかが重要である」とジーグラー氏は語った。今後日本でのコンテンツ管理の進化を考える上で、貴重なヒントが詰まった講演だった。最後に、再びジーグラー氏が登壇し、「企業からの発信情報の管理と配信を支援する基本コンセプト」というタイトルでプレゼンテーションを行った。

イベントの最後を飾ったジーグラー氏。ドイツでのコンテンツ管理の状況を交えながらプレゼンテーションを行った

トリセツ20年の歴史が凝縮された展示イベントも開催

本イベントが開催されたこの日は、TC協会で毎年実施している「日本マニュアルコンテスト」において1999年以降に優秀賞以上を受賞した取扱説明書を展示する「日本の取扱説明書の20年」も開催。時代を彩ったBtoC向け製品や、知る人ぞ知るBtoB向け製品など、148点のマニュアルが展示された。一般にはさほど知られていないコンテストだが、コンテストに応募することは有識者からのフィードバックが受けられることを意味するため、企業にとっても大きなメリットがあるとのこと。

企画協力:一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会

掲載号

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