「AI」と「やる気」=人間らしさ|WD ONLINE

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せかいと未来 Web Designing 2017年6月号

「AI」と「やる気」=人間らしさ 未来食堂にとってのAIとは?

東京・神保町に位置する定食屋「未来食堂」をご存じでしょうか? エンジニアとして勤めた小林せかいさんが、オープンソースの概念を飲食業で実践する素敵なお店です。そんな小林さんの頭のなかをオープンにするこの連載。はたして、どこにたどり着くのでしょうか!

東京・神保町に開店した“ふつう”をあつらえる、ふつうじゃない定食屋。「まかない」「ただめし」「あつらえ」といったオープンな仕組みと、店主(女将)の想いに共感する人たちが日々集う“場”として、食事をメインに、新たな「価値」と「出会い」、「居心地の良さ」などを提供し続ける。 http://miraishokudo.com/

こんにちは。“あなたの「ふつう」をあつらえる”未来食堂のせかいです。

今回のお題は「人工知能」。

先日、コンピュータや人工知能の研究で知られる、筑波大学助教授の落合陽一さんの著作を読んだのですが、その中でひときわ印象に残ったのは「人間がインターフェイスとして適しているポストは、機械に置き換えられず人間の仕事として残り続けるだろう」という一文でした。「人間らしさ」という言葉で曖昧に定義されているものを、単なる“インターフェイス”と捉えるとは…。衝撃でした。

私は、定食屋の店主というものすごく“人間ぽい”ことをしていますが、以前はIBMやクックパッドで働くエンジニアだったこともあり、人工知能について「人間の仕事を奪う不気味なもの」とはまったく思っていません。人間なんてミスが多いし、コンピュータの方がよほど正確です(プログラミングを書いていた私が実感を込めて申し上げます)。たとえ、未来食堂という定食屋の仕事がすべて人工知能に取って代わられたとしても、私は良いと思っています。やさぐれているわけではなく、単に、人間がやるに及ばないことは、コンピュータにやらせればいいと考えているだけに過ぎません。ただ、どんなにコンピュータが進歩しても、どうしても人間にかなわないところが一つだけあるようです。

落合さんの本によると、「やる気」です。

その一節を読んだ当初は「やる気かあ、そんな精神論みたいなことどうでもいいなぁ」と素通りしたのですが、「いやいやこれは重要なことだ」と後になってじわじわ気がついてきました。というのも、私自身も『やる気』によって“人間らしい創造的なこと”をしていると思い当たったからです。

例えば未来食堂の仕組みである“まかない”。これを生み出した背景には「一度は来店した事のあるお客様が『お金がなくてもう未来食堂のご飯が食べられない』と呟いたとしたら、絶対に一食は出してあげたい」という強い想いがあります。50分の手伝いで一食無料。お金ではなく、時間で支払ってもらうこの形は、強い想い、言い換えるなら、それこそ「やる気」がないと実現しなかったものでした。

私はここに、人間がまだ人間としてできることを見るのです。「絶対にこうしたい」「これを実現させたい」という強い衝動、ルールを突き破るような強い感情、そういったものは確かにコンピュータにはないものでしょう。

「誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所」を目指す未来食堂は、果たして人工知能を“受け入れる”のでしょうか。よくわかりません。ただ、彼らがそう願うのであれば、それをどこまでも受け入れたいと思います。そこに私の魂からの「やる気」があるからです。そしてその姿、人工知能と共生するあり方はきっと、徹底的に効率的な定食屋が見せる「人間らしさ」にほかならないのです。

 

※この連載のネタ帳はGitHub Gistにて公開しています。
http://miraishokudo.com/neta/web_designing
内容についてご質問、アイデアのある方はお気軽に。

Text:小林せかい
東京工業大学理学部数学科卒業後、日本IBM、クックパッドで6年半エンジニアとして勤めた後、1年4カ月の修行期間を経て「未来食堂」を開業。自称リケジョ。その他、詳しいプロフィールは公開されている情報をご覧ください。 https://goo.gl/XpwnMQ

掲載号

Web Designing 2017年6月号

Web Designing 2017年6月号

2017年4月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

サンプルデータはこちらから

企業のIT推進担当者やネット運営者に向け、ネットビジネスの課題を解決するノウハウや最新情報をお届け。徹底した現場目線とプロへの取材&事例取材で、デジタルマーケティング施策に取り組む上での悩みや疑問、課題を解決するヒントを紹介します。

6月号のテーマは「AI」です。「え!?」と思った人、ぜひ本書ですでに直面している現実をご覧ください。

現在、ビジネスのキーワードとして飛び交っている「AI(人工知能)」。人間の脳の代わりとなり、さまざまな仕事をAIが賄ってくれる未来像がネット上でも飛び交っています。「人間の仕事を奪うのではないか」「人間を支配するのではないか」そういって煽るメディアも多々ありますが、果たして現在のAIとは、本当にそんなSFのような話なのでしょうか?
答えは「今はNO」です。
むしろ、AIはインターネット、そしてSNSといったものと同じ、現在のマーケティングを加速させる「新しいマーケティングツール」なのです。

一方、AIの導入は巨額の開発費を投資できる大手企業の話であり、自分たちのような中小規模の企業には関係ないと思っていませんか?
答えは「NO」です。
むしろ、時代の流れに少なからず影響を受ける中小企業こそ、大手との仕事のため、企業成長のため、正しい理解と認識が必要です。

AIは今すぐに、多額の投資をしなくとも活用できる状況がすでに作られています。
人工知能によってマーケティングにおけるあらゆるコミュニケーションが変わっていく可能性があり、そんな時代はもうすぐそこまで来ています。仕事の効率化、人件費削減など中小企業が抱える長年の課題に対する解決の道筋をつけてくれる可能性が大いに有り得ます。
御社の競合がAIを使った施策を行っている、そう聞いてからでは遅いのです。
本特集では、今、現場で活用できるAI技術を使ったWebマーケティングの方法と、それによるリソース面、予算面のメリットまで追求します。

第1部 【中小企業Web担こそ!】いますぐAIを検討すべき理由
●いますぐ使えるAIの基礎理解
●図解・AIがマーケティングで注目される理由
●AIの仕組み~要するに、何をしてるの?~
●AIをビジネスツールとして活かすには

第2部 AIを現場の即戦力にするメリット
●AI搭載型botでオペレーションコスト低減へ!スモールスタート可能なチャットボット活用法
●AIの機能は「分析」ではなく「分類」だ!AIの導き出す「答えの見方」
●実録・AIでFAQを作る
●こんな身近にある!AIツール

など