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プロモーションの舞台裏 Web Designing 2017年4月号

SNSでも話題化“夜だけの文房具店”が成り立つ理由

千葉県本八幡にある「ぷんぷく堂」は、夜だけの営業というニッチなスタイルを貫く文具店。各種メディア、SNSで話題を拡げる、知る人ぞ知る文具店で、今春で開店5年を迎える。独特な特徴を保ちながら店舗経営が成り立つ秘訣とは何か?

ここで取りあげている施策の共通クレジット
ぷんぷく堂​

 

夜開店は戦略ではなかった

2017年1月8日、Yahoo! JAPANのトップページにあるトピックが掲載される。「夜だけ開く文具店 SNSで評判」の見出しに引きつけられ、千葉日報から配信された記事を読むと、夕方17時から22時まで営業し、店主が選んだ文具だけが並ぶ「ぷんぷく堂」のことが紹介されていた(01)。

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01 2016年7月からは17時より営業
2012年4月、19時~22時に開店する“夜だけ営業するニッチな文房具店”としてスタート。2016年7月からは好評に応える形で17時からの営業に。開店時間のほか、店主が目利きした文具だけを取り扱うなど、ユニークな特徴が話題を呼び、各種メディアやSNSで話題に

記事にはオリジナル商品の販売についても言及があったり、SNSで話題にしたくなる独自性が伝わってくる一方で、基本は単価の低い商品を多く扱う文具店である。しかも夜に限った営業時間となれば、なかなか成果(黒字)を出すのは困難なはず。いったい、どのように運営しているのか?

もし、小規模でも特徴を活かした店舗経営のあり方やSNSでの話題化をしていく経緯を知れば、自社の強みの活かし方に悩む小中規模のWeb担当者に何かヒントが提供できるはず。そんな仮説のもと、筆者は開店前のぷんぷく堂を訪れた。

店主の櫻井有紀さんは、お子さんの高校卒業を機に、「夫婦で店をやりたい」という前々からの腹案を具現化するべく、動き始めたということだった。それにしても、なぜ夜? 櫻井さんによると、けっしてユニークさを求めてというわけではなかった。櫻井さんには本業があり、副業で営める時間帯が夜。じつはそれ以上に理由はなく、営業時間は必然的に19時から22時までとしたという。

 

成功を引き寄せた「5年やり抜く」覚悟

もともとの開業とは別に、櫻井さんは製造中止となって久しい「ヨット鉛筆」を多数収集していた。「ヨット鉛筆の1本売り」という発想から、きちんとビジネス化が検討できる文具店へと考えを拡げて、2012年4月に夫婦一緒に営む文具店を開店。

櫻井さん自身は店主として、夫は在庫管理など裏方の仕事を、と役割分担しながら船出するが、進む前から厳しい道のりへの覚悟があったそうだ。だからこそ、開店に際し「知名度の浸透を考慮して、5年は必ずやり抜く」「趣味ではない。ビジネスを追求する」「店主の目利きに適った文具だけを扱う」という3点の遵守を決意。練られた戦略のように映った特徴は、偶然も多分に占め、趣味の世界にも見える店舗スタイルを貫きながら、厳しくビジネスを追求していく。店舗運営が生易しくない覚悟と、知名度そのものの育成を考えて、5年以内に収益が上げられる形を模索。かつ櫻井さんが目利きした商品という背骨を据えて、運営の芯を曲げない心がけが実を結び、今日がある(02)。

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02 ぷんぷく堂を巡る話題化の構図
独特な実店舗の特徴がフックとなって、各種メディアへの掲載やSNS発の拡散で認知が拡大し、オリジナル文具などの販売も始めてさらなる話題化、といった循環が生まれている

 

遠方からでも行きたくなる店づくり

ぷんぷく堂は、一切Web広告をやっていない。話題化や、今回の本誌の特集テーマでもある顧客との「エンゲージメント」は、夜開店をフックにしつつ、草の根でじっくりと育成してきたのである(03)。

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03 ぷんぷく堂と顧客をつなぐ要素
各種メディアが取材したくなるのは、さまざまな特徴が連関しあっているから。これらの要素が顧客=ファン化し、顧客とのエンゲージメントを高めている。来店客が「つぶやきたくなる店づくり」に成功している

例えば、ネーミングセンスが伝わるオリジナル文具の数々は、他にはないここだけの文具店を印象づけている。一部の名を挙げれば、「半分鉛筆」「メモッパチ」「スキマメモ」「過保護袋」「競馬新聞の紙で作ったレポート用紙」「1日100文字したたメモ」など、役割を想像させつつオリジナル感が漂うそれら文具は、個性派店舗の特徴をさらに際立たせる。もちろん、すべて店主自らが考案している。

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鞄の中の紙類の折れを保護する「過保護袋」(左)と隙間におさまるリングメモ「スキマメモ」(右上)
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ペンケースに収まる半分サイズの「半分鉛筆」
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万年筆も裏抜けしないという「競馬新聞の紙で作ったレポート用紙」
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Instagram投稿用という発想から生まれた正方形の用紙「1日100文字したたメモ」

「商品はどれも、私自身が日々の生活で“こんな道具があれば便利”と感じる思いから生まれています。基準は、“私が欲しいと思うもの”。ですので、あれが欲しい、これが欲しいと言われると困ってしまう(笑)。それらは、ぜひ他のお店で買ってほしいと正直にお伝えしています」(櫻井さん)

他で買えるモノは置かない。リクエストには応えない。実際、ファンは「この店主が選んだ文具、作った文具」という付加価値を目当てにしている。店主が辿りつき、継続する姿勢が、ファンの期待に応えるカタチとなる。櫻井さんは「実店舗に行きがいがある」状態や「SNSでつい、つぶやきたくなる」お店を作り出しているのである。

 

貫いた5年、新たなステージへ

ぷんぷく堂のWeb、デジタルまわりの取り組みはどうか? 現状は、ブログで店に関する情報や雑記を公開し、FacebookページやTwitterとも連携。並行して、TwitterやInstagramでは直接的な店舗情報のほかに、店主のペースで日々感じたことがつぶやかれたり、写真がアップロードされる。LINE@は月に一度を目安に、休日情報などをアナウンスし、特に遠方のお客様への配慮を怠らない。各種SNSそのもののトーンにあわせて、ゆるやかな使い分けをしている。櫻井さんに話を向けると、かつてパソコン通信をやっていたそうで、受発信の空気感をつかみ、SNSを対話のように大事にしていることが伝わってきた。

2016年7月からは、営業開始時間を17時に変更。多数を占める遠方のお客様とともに、近隣のお客様も増えてきた。東京や埼玉、神戸などでのワークショップイベントにも参加するほか、オリジナル文具の取り扱い問屋もいくつか決定したとのこと。5年と決めて訪れた2017年、ぷんぷく堂が新たなステージを歩み出している(04)。

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04 2017年、ぷんぷく堂の第二ステージへ
2012年の開店以来、個性的な特徴がSNSの話題化などを通じて拡がりを見せている。オリジナル文具も着々と数を増やし、いよいよ流通の本格化へ向けて動き出している

 

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掲載号

Web Designing 2017年4月号

Web Designing 2017年4月号

2017年2月18日発売 本誌:1,530円(税込) / PDF版:1,200円(税込)

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企業のIT推進担当者やネット運営者に向け、ネットビジネスの課題を解決するノウハウや最新情報をお届け。徹底した現場目線とプロへの取材&事例取材で、デジタルマーケティング施策に取り組む上での悩みや疑問、課題を解決するヒントを紹介します。

4月号のテーマは「エンゲージメント」です。

競合他社のひしめく中、顧客に自社商品・サービスを選んでもらい、さらにリピートしてもらうのはなかなか難しい現在。
価格競争に巻き込まれることなく安定した収益を見込むための戦略の1つとして「エンゲージメント(愛着・共感)」向上があります。
顧客に自社商品、ひいては会社自体に興味を持ってもらい、贔屓にしてくれる「上客」を育てるにはどうすればいいのでしょうか。

本書では、「安定した収益を見込むための顧客エンゲージメント向上」をベースに、
顧客エンゲージメントを高めるとどんないいことがあるのか?
エンゲージメント(愛着・共感)を高めるには?
顧客のエンゲージメントは今どうなっているかを把握するには?
現在の顧客の声をデジタルをベースに聞き出すには?

と、段階と施策に分けて丁寧に解説します。



【Chapter01】
安定収入を得るためには?
_エンゲージメントを上げることのメリット
_顧客の共感や満足度を高めること
_顧客の満足度とはどういうことか
…etc

【Chapter02】
共感や満足度を高めるためには?
_カスタマーサクセスで成功のプランを設計する
_顧客を知るためのカスタマージャーニー
…etc

【Chapter03】
現状を知るには?
_指標を持つことの重要性
_NPSで測れること、わかること
_CESで測れること、わかること
_なにを改善するかを理解する
…etc

【Chapter04】
顧客の声を聞くには?
_各種アンケートで顧客の声を聞く
_SNSを利用する
…etc


SNSのエンゲージメント率とは?

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