2017.01.17
事例:Webだからこそできる、複数動画でA/Bテスト [Case Study]利用率の低い世代に向けた大手飲食店チェーンの挑戦と勝算
全国規模のファミレスチェーン・ガストの新商品「オニオンリングハンバーグ(オニバーグ)」のプロモーション動画。「動画を今後の武器にする」ため、潤沢な予算がない中でも2種類の動画を制作し、ロジックに裏付けられた挑戦をした。
Photo:黒田彰
動画PRの礎になるA/Bテスト
(株)すかいらーくが運営する「ガスト」は、全国に1,357店以上(11月末時点)、全都道府県を網羅する業界唯一のファミリーレストランチェーンだ。子どもからお年寄りまで利用層も幅広く、従来はテレビCMや折り込みチラシなどを中心に広告を打ってきた。その同社が、ガストの限定メニュー「オニオンリングハンバーグ(オニバーグ)」の発売に際し、新たに動画を導入した。
実は、同社の動画への注目度はかねてより高く、2014年頃から食材紹介などのオリジナル動画制作や自社SNSでの公開、CMの流用などさまざまな手法を試みてきた。新聞やテレビを観ずなかなかリーチできない20~30代に対する新たなPR施策を探し、次の一手を打ちたいとの思惑があったからだ。マーケティング本部の小林大祐さんは語る。
「この世代にはデジタル分野が有効と捉え、そこでは動画がプロモーションの柱になるはずだと注目してきました。ビジュアルやシズル感を一目で伝える力は、私たち食のブランドにとって大きな強みになるからです」
しかし、過去のテストプロジェクトでは、動画活用の方法や知見などは得られたものの、最終目標である「来店客数増」への効果は判断できない結果が続いていた。そこで今回は、最終目標の一歩手前にある、ユーザーの行動や反応など中間KPIのデータ取得を目的とした「A/Bテスト」の導入を考えた。この動画制作を請け負ったのが、(株)Viibar(ビーバー)だ。
クリエイティブと企業視点
小林さんは、Viibarに「新商品オニバーグをテーマとしたWeb動画で、2種類の毛色の違う動画」の制作を依頼。KPIは2本あわせてオーガニック再生50万回とした。予算は潤沢ではなかったため、最初に金額を明示しその枠内で制作してもらう形を取った。Viibarの冨永千晴さんは、「オーガニックリーチの最大化」「Webオリジナル動画の機能を検証する」というミッションを受け、“シズル”と“シェア”を意識した動画を提案した。
「すかいらーくさんは、オーガニック再生の伸びをKPIに設定されていたので、SNS上でのシェアやコメントなど反応を引き出す企画を5本ほどご提案しました。Webは能動的に見てもらうメディアだけに、あえてツッコミどころを用意して興味を惹き、実行動を促すよう意識しました」
その場で「ギャル語篇」「シズル篇」の企画が採用に。同時に公開場所としてシェアに強いFacebook広告が提案され、ガストが専用チャンネルを持つYouTubeと2つのプラットフォームで展開されることになった。しかし、詳細を詰める過程で、かなり頻繁な意見交換が行われた。
「ギャル語を捲し立てる案自体は、クリエイティブとして非常に面白い。ですが、企業目線で見ると裏側でどれだけロジックを組めるか、弊社の言いたい内容が最低限入っているかコミュニケーションの機微などが少し弱く感じました。そこでフックになる仕掛けを整理して入れてほしいとお願いしたんです。会社を説得するには、ストーリーとロジックの両方で、『この仕掛けがあるとこの反応が起こり、話題になる』と説明できる要素が不可欠です。続編をつくることになってもPDCAを回す判断軸となります」(小林さん)
動画に面白さを導く原因や理由を明示する。この課題に冨永さんは「バズらせる仕掛け」の要素を整理して提出。クリエイティビティとビジネス的要素をつなぐ下地づくりを行った。
「例えば、目を惹くために辞書のようなインターフェイスと広辞苑風の字幕で映像に派手さをつけ、初見では追いつけない怒濤の会話で勢いを出すといった演出を加えました。シナリオもオニバーグの食レポに変更しています。なぜその行動に繋がるかという理由づけ、そしてその理由をいかに落とし込むかはかなり考えました」(冨永さん)
小林さんと企画を進めてきたすかいらーくの堤雅さんも、今回の調整の難しさを語る。
「弊社としても今回は必ず結果を出す必要がありました。だからこそ、様子を見つつですが今までにない挑戦に臨んだんです。マスリーチのCMなどでは到底できないクリエイティブですが、Web専用だからこそ実現できたものです」