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行動デザイン塾 Web Designing 2016年10月号

オウンドメディアに求めたい「アクセシビリティ」

人はエネルギーコストの支出に敏感。リアルな行動に比べてエネルギー負荷の低いWeb行動でも、行動コストを下げるための「アクセシビリティ」の確保は重要で、オウンドメディアにもそれはあてはまる。

アクセシビリティの低下が「行動」を阻害する

UI、UXの改善に取り組む企業は多いが、問題となる点がある。Webサイトのつくり手側の評価と受け手(生活者)側の評価にギャップが生まれやすいことだ。企業が「工夫はしてみたが、いろいろと制約があるし、このあたりで」と判断することがある。しかし、この「微妙な段差」がじつはユーザーには意外に大きなハードルになるのだ。

これはWebに限らずリアルな行動でも、つくり手側が知らないところでユーザーの行動が阻害されている状況が考えられる。例えば、「最近、愛機がマンションの駐輪場で埃をかぶっている」というバイクユーザーに理由を聞くと、「駐輪場が再抽選になって、愛機の停める場所が前よりちょっとだけ奥になったから」だとわかった。たかだか数十cmの変化でも、微妙にバイクが出しにくくなり、「ちょっとした負担感」が積もり積もって、バイク行動を阻害していたというわけである。

当研究所では、こうした要因を「アクセシビリティ」(接近容易性)と呼んで重視している。研究所が行った自主調査でも、「快感要素」や「自分にとっての効用感」と同時に「アクセシビリティ」が人間の習慣行動を支える柱であることがわかった(01)。

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01 アクセシビリティ(近さ・買いやすさ)は習慣行動を支える
博報堂行動デザイン研究所「習慣行動に関する調査」(2014年)より。人の習慣行動を支える上で、自己効用や快感といった要素のほかに「手に入れやすさ(アクセシビリティ)」も重要な支柱の1つであることがわかった

アクセシビリティには先述のような距離の要素以外に、「いつでも使える」(時間)や「安価で買いやすい」(価格)という要素も含まれている。つまり、ユーザーが支出するトータルコストをどれだけ抑えられているか、なのだ。コストというと、すぐ「価格を下げれば」と考えがちだが、「心理的な近さ」を確保できれば、価格がそれほど気にならなくなる可能性もある(02)。

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02 コストはお金(価格)だけにあらず
心理的な負担感(面倒だ、馴染みがない etc)もコスト。心理的な距離感を縮めることが、行動を阻害する「行動ブレーキ」の解除につながる

 

オウンドメディアもアクセシビリティが重要だ

この号で特集している「オウンドメディア」も例外ではなく、ユーザーがそこに到達するまでのアクセシビリティを考える必要がある。デジタルに限らず、近年人気の「工場見学」もリッチな体験を提供するオウンドメディアといえるが、問題はアクセシビリティだ。工場は遠隔地にあり、見学人数も制限されていることが多い。リッチなコンテンツを持っていても、体験者の量(アクセス数)の確保が難しいのだ。

ここで紹介したいのが、「ポップアップ・ストア」だ。これは、人通りの多い都心に企業の店舗を期間限定でイベント的に出店するマーケティング手法のことで、オウンドメディアへのアクセシビリティ対策に効果的だ。

スーパーやコンビニエンスストアで売られる商品は、アクセシビリティが高そうな反面、定番ブランドほど次々に登場する新商品に埋没して、目立たなくなることが多い。そういう商品を都心のポップアップ・ストアで提供すれば、ブランドの再発見~自社サイト誘引につながる可能性があるというわけだ。

例えば、森永乳業のアイスクリーム「ピノ」は、昨年東京・原宿にポップアップ・ストア「ピノフォンデュカフェ」を展開(03、04)。

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03 ピノフォンデュ体験
東京・原宿の「ピノフォンデュカフェ」(2015年)では、パレットに乗ったピノに、チョコレートソースなどを自分で自由につけて楽しむ「ピノフォンデュ体験」を提供した。有料(350円)ながら、若い世代を中心に好評で、SNS上で体験の様子や仕上がりの写真が数々アップロードされた
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04 ピノフォンデュカフェは長蛇の列
ワイドショーなどメディアにも広く取り上げられ、開店から閉店まで行列が絶えず、約2カ月の営業期間中で約5万人の来場を記録。今夏は8月31日まで、東京・原宿と大阪・梅田に「ピノコーディネート」をテーマにした第二弾が展開されてい

これは、ピノが最近の若年層に届いていないという課題意識から生まれ、大きな売上成果につながった施策だ。積極的にターゲットがいる街中に出て、アクセシビリティを確保した好例といえる。同様のコンテンツが擬似体験できるサイトをつくっても、多数のユーザーが訪問するかは定かでない。同時に、アクセシビリティの低下が企業に大きなリスクになることを忘れてはならない。

 

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Text:國田圭作
博報堂行動デザイン研究所所長。入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数手がける。2013年4月より現職。 http://activation-design.jp/

掲載号

Web Designing 2016年10月号

Web Designing 2016年10月号

2016年8月18日発売 本誌:1,530円(税込) / PDF版:1,200円(税込)

サンプルデータはこちらから

■ 特集:“小さく始める”オウンドメディアのつくり方

「ブランディング、集客、ひいては売上を伸ばすための施策としてさまざまな企業が実践している「オウンドメディア」。競合がはじめているから、いまの時流だから、自社の利益に繋がるならば、などとオウンドメディアをはじめようと思っている方も多いはずです。けれども「Webサイトをつくり、クオリティの高い記事を毎日更新していくのはムリ…」と思われている方、決してそんなことはありません。SNS、ブログ、自社サイトなど、すでにある“コンテンツ”を活かして自社の利益へとつなげることができるのです。オウンドメディアは、大きな会社だけのものではありません。予算をおさえながらも、大きな効果を生むオウンドメディアについてご紹介していきましょう。

第1部 効果的なオウンドメディアの制作→発信術

#新人まこちゃん、インターンとしてあのLIGブログに!
今さら聞けないオウンドメディア
#大事なのは「愛」と「戦略」
基礎の基礎から理解するオウンドメディア
#スピードこそが正義だ!
オウンドメディアは2週間で立ち上げよ!
#重要なのはアクションしてもらうためのスイッチ
“拡散”の秘訣は導きたい結果からの逆算
#スモールスタートで成果を出す
担当者ひとりでもできるオウンドメディアのはじめ方

#【座談会】担当者だから話せる“現場”の話
オウンドメディアの大変なこと、やってよかったこと

#構築後の改善アクションで、他社をリードする
「目標設定」と「効果測定」

#ふたたび新人まこちゃんが登場! 先輩オウンドメディアを紹介
あれも? これも!? オウンドメディア

第2部 事例から学ぶ“小さく始めて”成功する方法

【Case Study #01_河内屋】自社で運営するメリット
特殊印刷の事例で“魅せる”世界観を社内で発信

【Case Study #02_一俊丸】業界不振も、売り上げは2倍に
老舗釣船店メディア3つの掟

【Case Study #03 _Happy Maker!】自社の強みでユーザーとつながる
オタク向けに特化した婚活コンテンツ

【Case Study #04 _町田美容院の知恵袋】意外な手段で記事を量産
自前サイトで勝ち取った集客の極意

【Case Study #05 _SMASH WATCH】新たなコミュニケーション
ECサイトと連携したオウンドメディア
【Case Study #06 _箱庭haconiwa】Webのプロから学ぶ
共感を得る“好き”の気持ちとノウハウ
【Column】海外のSNSはいまどうなってる?
_オウンドメディア㊙記事“作成術”
_うまく活用したい補助金・助成金

■ WD SELECTION
マジョリ画/ Bascule Inc-βver. /ジムナストコロン/水曜日のカンパネラ OFFICIAL SITE/踏み台上等。dof のサマーインターンシップ/ユニコーンNEW ALBUM「ゅ 13-14」特設サイト/ ayanomimi /武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科/MIKIYA TAKIMOTOPHOTOGRAPH OFFICE - 瀧本幹也/ DeNARunning Club /ストリアクリニック/ illion"Water lily" Connected JamVideo / Gallery Site「SHINYA KIYOKAWA」/ ECHO 50V BATTERY SERIES

■ ビジネス・EC
□ ECサイト業界研究
「わさび式」記事作成法で集客力アップ!

□ モバイルビジネス最前線
MagicPrice:アドテクの活用でホテルの最適料金を予測

□ 知的財産権にまつわるエトセトラ
店内のBGMと著作権

□ Bay Area Startup News
ビットコイン技術で護るBlockai社の試み

■ マーケティング・プロモーション
□ データのミカタ
企業におけるクラウドの普及はどこまで進むか

□ デジタルプロモーションの舞台裏
面白法人カヤック:自らの強みを最大限アピールしたコーポレートサイト

□ 行動デザイン塾
オウンドメディアに求めたい「アクセシビリティ」

□ 解析ツールの読み方・活かし方
ベンチマーキングで市場を見ながら自社の評価を行う

■ コラム
□ One's View
今月のお題【オウンドメディア】
育てるための3つのポイント by 白井明子
オウンドメディアの副作用 by 土屋尚史
“リアル” な空間や体験の価値 by 峰松加奈

□ 未来食堂の「せかいと未来」
自ら発信するためのメディア

編集部よりお詫びと訂正のお知らせ

本誌P67「Case Study01 河内屋」記事内におきまして、誤記がありました。関係者の皆様にお詫び申し上げます。以下に正しい表記を掲載いたします。

× Web制作会社の(株)ナイルはコンサル事業を行っており
○ Webコンサルティング事業を行うナイル(株)が

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