2016.06.24
これならできる! SNSマーケティングの第一歩 SNS運営リアル体験レポート
費用を大きくかけずに広告・宣伝ができるSNSマーケティング。しかし、その仕組や運営方法をよく理解できていない人も多いはず。そこでSNSマーケティングの戦略立案・運営を行う(株)コムニコの長谷川直紀さんにやさしく解説してもらう。
Photo:黒田 彰
SNSマーケティングの仕組みを理解する
今では規模の大小を問わず、多くの企業が取り組むようになったSNSによるマーケティングですが、どんな目的を持ってどう取り組めば自分の会社のビジネスに活きるのか、よく理解できていないという人は意外と多いのではないかと思います。SNSマーケティングは、これまでの広告とは異なる考え方で運営すべきもの。その基本を理解しないまま取り組んでも、思ったような成果を出すことはできないでしょう。そこでここでは、SNSマーケティングの知っておくべき「基本」について、順を追って解説していきたいと思います。
話の本題に入る前に、SNSマーケティングを始めるにあたって頭の片隅に置いておきたい“心構え”を一つ紹介します。それは「SNSマーケティングは筋トレのようなもの」だということです。即効性はないけれど、日々、継続して取り組んでいくことで、いつしか会社にとって大事な資産になっている、そういうものなのです。コツコツと諦めずに続ける。それが一番大事なことだと覚えておいてください。
さて、本題に入りましょう。まず覚えておいていただきたいのは、SNSマーケティングには3つのステップがあるということです。まず、下の図を見ていただきたいのですが、最初のステップは「いいね」を増やす、つまり自社のSNSアカウントの「フォロワーを増やす」ことになります。まずは投稿を見てくれる人を増やさなければ、話になりませんよね。その次が、自社のSNSアカウントを見てくれるようになった人たちに親しみや信頼感を持ってもらうこと。そして3つめが商品を購入する、サービスを利用してもらう、という段階になります。
この3つのステップを理解せずにSNSマーケティングを始めても、自分たちが何を目的に運営しているのかも、目標に向けて正しい道を進んでいるのかも判断することができません。また、周囲の協力も、社内の承認も得られないでしょう。ここからはこの3つのポイントがそれぞれどういうもので、何をすればいいのかを丁寧に説明していきたいと思います。
第1段階 自社のSNSアカウントに人を集める
最初に自社のSNSアカウントを作成したら、まず着手しなければならないのは人を集めること、つまりフォロワーを増やすことです。では、どうすればいいのか。まず簡単にできるのが、既存の資産を利用する方法です。例えば自社のWebサイトやメールマガジン、広報誌などで告知をしてみる。それなりに名の通った企業であれば、それだけでかなりの人が、あなたの会社のSNSアカウントを見に訪れフォローをしてくれるでしょう。そこまで知名度がないというなら、社員やスタッフが個人で運営しているSNS上で告知をしてもらうのがいいでしょう。この方法、「知り合いのいる会社なら」ということで、「いいね!」をしてもらえる確率が実は高いんです。まずは会社がもともと持っている資産を利用しよう、というわけです。
ただし、見ず知らずの人を集めるためのメインの方法はというと、やはり「広告」になります。SNSでは「投稿が拡散して多くの人が見にくるようになる」というのが理想ではありますが、そういったことはなかなか起きません。そこでFacebookやTwitterに用意されている、人を集めるための広告機能を利用しよう、というわけです。
SNSを使っている方は思い浮かべていただきたいのですが、FacebookやTwitterの自分のタイムラインには、「いいね!」をしてフォローした友人やショップなどの投稿に混じって、フォローしていない企業やお店、サービスの投稿が、「◯◯さんがいいね!をしています」などといったメッセージとともに掲載されることがありますよね。これがSNS広告です。これは、自社のSNSを見てもらう、フォローしてもらうために掲出されている広告です。
この機能、例えばFacebook広告は1,000円からと、非常に安価に始められますので、ぜひ試してみてほしいと思います。ただし、当たり前ですが、お金をかけたほうが、広告が多くの人のタイムラインに表示され、人が集まります。SNS広告では、業種によっても異なりますが1人のフォロワーを獲得するために200~300円が必要だと言われています。しかし、これはあくまで平均値。中には100円でフォロワーになってくれる人もいれば、600円かかる人もいる。当たり前ですが、100円で取れる人のところに狙って広告を出したいですよね。そこで必要となるのは、広告を出す先をコントロールをすることです。
SNS広告には、どういう人のタイムラインに広告を出すか細かく設定する機能が用意されていますが、中でも効果的なのが、「類似オーディエンス」と呼ばれるターゲット設定方法です。これまで「いいね!」をしてくれた人と「似た属性を持った人」や、その人と「友達になっている人」といった、関心を持ってくれそうな人のタイムラインに広告を表示する設定です。その層を狙って、まずは月に数万~10万円程度の広告費を投じてみるといいと思います。では、フォロワーは何人獲得すればいいのでしょう? それを考える際にお勧めなのが、競合他社のページを参考にする方法です。どの業界でも、競合している企業同士のフォロワー数は似た数値になる傾向があります。まずはそこに目標を置きましょう。
ところで、どんな広告記事をつくるのがいいのでしょう。業種によっても異なりますから、一概にこれというアドバイスは難しいのですが、複数の写真とコピーを組み合わせ、数タイプの広告をつくって投稿する、いわゆる「A/Bテスト」の手法で行うことはお勧めできます。多くの「いいね!」がついた広告投稿を元に、さらに新しい広告をつくり、テストを繰り返す。こうして広告のクオリティを上げていこう、というわけです。
第2段階 “フォロワーのために”何を投稿をするか
フォロワーになってくれたユーザーは、あなたの会社やブランドの日々の投稿を目にするようになります。今度は、その中身を充実させて、読んでもらえるような内容の投稿を定期的に行うことが重要です。投稿が面白かったり、役に立つような内容であれば、ユーザーは「いいね!」をして投稿を拡散してくれるだけでなく、あなたの会社やプランドに対して親近感や信頼感といった感情(共感)を抱き、ゆくゆくは商品の購入、サービスの利用といった行動につながるのです。
では、どんな投稿をすればいいのでしょうか。そう言われてもなかなか難しいですよね。そこでまず最初にSNSがどういう場所なのかを考えてみるのがいいでしょう。そもそもFacebookやTwitterといったSNSは、友達と話をするための、公園のような場所です。ちょっとイメージしてみてください。そんな公園にいきなりスーツを着たセールスマンが入ってきて、「この商品を買ってください」と商売の話を始めたとしたら…。普通は引いちゃいますよね。「空気が読めない奴」なんて言われてしまうかもしれません。その前に、例えば自己紹介をしたり、そこにいる人が興味を持つような楽しい話題を提供する必要があるでしょう。それが「作法」というものですよね。
下の図は、SNSでどんな投稿をするかを、その特性から紐解いてみたものです。SNSでは、企業として伝えたいことを直接訴えかけるのではなく、そこにユーザーのメリットとなるような要素、例えば「楽しい」「役に立つ」「驚き」「感動」といった要素を組み合わせ、さらにはSNSならではの、トレンドやリアルタイム感を加えよう、というわけです。こちらが投稿したい商売の話ばかりではなく、ユーザーの立場に立った内容を考えていくようにしましょう。
例えば、全日本空輸(ANA)は「CAさんがどうやって髪を簡単にまとめるか」をテーマとした動画をSNSに公開し、好評を得たそうです。航空会社のCAさんだから知っている、“ならではの知識”を「役に立つ情報」として提供したところがポイントです。直接的な商売の話をせずとも、「さすが!」「面白い!」といったようなポジティブな反響を得ることができたというわけです。
他にも例えばIBMが、社内の電話会議のノウハウを公表して大きな反響を呼んだことがありました。国際企業だから、遠隔地間で会議することが多いのでしょうね。何年も何十年も積み重ねてきた電話会議のノウハウ。ちょっと読んでみたいと思いませんか?
「そんな人が喜ぶような情報、うちの会社にはないよ」などと言わないでください。フラットな目線で見てみると、いろいろなヒントが隠れているはずです。弊社でも、会社のある東銀座の、社員がよく訪れる「ランチの美味しい店」を紹介する内容などをまとめて投稿しています。本業にまつわること、その周辺のこと。いろいろとネタはあると思います。
「役立つ」以外にも、SNS投稿に適したテーマはいろいろとあります。例えば、「驚き」や「感動」でいうと、ブランドや商品のヒストリーをテーマとした投稿や、ものづくりの現場を紹介するような投稿は人気を呼ぶことが多いですね。自動車メーカーのマツダは、自社のプレス工場の現場を紹介するコンテンツをつくって投稿し、大きな反響を得ました。自社の技術力に加え、ものづくりに向かう姿勢、思いなどもアピールできる内容は、親近感や信頼感を得るためのコンテンツとしてとても力があると思います。
このほかにも例えば占いやクイズのような「楽しい」コンテンツや、夏休み、ハロウィン、クリスマスなど旬な話題を扱った投稿も多くのユーザーの興味・関心を集めることができます。Twitterのトレンドワードは、今、多くの人が関心を持っている内容を端的に示しています。それらをうまく織り込んだ内容などは、フォロワーの反響を呼ぶことが多いといえるでしょう。
ここまで読んでお気付きかと思いますが、SNSの投稿を続けていくのはなかなか大変です。ですから、ユーザーの立場に立った投稿内容を考えていくこと、広い視点で取り組んでいくこと、そして複数の社員・スタッフで協力しながら続けていく。そういう体制を構築できるといいのではないかと思います。
では、こういった投稿の成果をどう計測するのか。その一つの方法に「エンゲージメント率を計算する」という方法があります(右ページ図)。これは、全フォロワーのうち、どれくらいの人が反応をしてくれたかを数値化して理解するための基準です。時折、エンゲージメント率を計算して、今の自分たちの状況を確認するといいでしょう。
また、折にふれてフォロワーのアンケートをとってみるのもいいと思います。右ページのグラフは、弊社がKFCと一緒に、SNSの効果に関するアンケートをとってみた結果です。このようしてグラフにすることで、状況を認識できるだけでなく、運営しているチームのモチベーションづくりにもつながると思います。
また、数値以外の部分でも、ユーザーのコメント内容などの「質」が変わってくることを実感できるタイミングがくると思います。投稿内容への感想を書いてくれたり、感謝の言葉をいただいたりすることもあるでしょう。そこまでロイヤリティを高めることができれば、次のステップで紹介する、商品購入・サービス利用といったところにも変化が出てくるのではないかと思います。
第3段階 商品の購入にどうつなげるか
さて、ここまでSNSのファンやフォロワーを増やし、親近感を持ってもらう、といったプロセスを進めてきたわけですが、この次にすべきこととしては、フォロワーのみなさんに商品購入やサービス利用を促す、ということになります。そこで効果的なのがソーシャルメディア限定のキャンペーンですね。親近感を抱いてくれているフォロワーに対し、わかりやすいインセンティブを提供することで、軽く肩を押すといった感覚でしょうか。こういうきっかけを作ってあげることはとても大事なことだと思います。
例えばショップなどの場合は「SNS投稿に記載した合言葉を言ってくれたら割引き」などというのがありますね。サービス事業者やBtoB企業であれば、「初回利用料10%オフ」「見積もり無料」なんていうのもいいでしょう。ビジネスの仕組みとマッチするアイデアで提案をしていくといいと思います。
ただし注意してほしいのは、こういった購買だけをSNSマーケティングのKPIとして設定するのはやめたほうがいい、という点です。ユーザーの購買行動は、さまざまな施策の複合的な結果です。先にも述べたように、SNSマーケティングに即効性はありません。ここだけで一喜一憂するよりも、先ほど紹介した「エンゲージメント率」や「リーチ数」「クリック数」、つまりどれくらいの人が投稿を見てくれているか、といった部分にも注目したほうがいいでしょう。例えば昨年はエンゲージメント率が2%だったのを2.5%にしようとか、1投稿を見てくれていた人の数を1万人から1万2,000人にしよう、といった具合です。なお、この場合の目標は、先ほども紹介しましたが、競合他社を参考に立てるのが一つの方法です。
冒頭でもお話したとおり、SNSマーケティングは“筋トレ”のようなものです。すぐに目に見える結果は出にくいのですが、エンゲージメント率やリーチ数を積み重ねていくことでいつか花が開きます。一時のコンバージョンの良し悪しだけで止めるなどという判断をしないでください。こういったSNSの特性を理解している企業の中には、SNSをユーザーサポートの場として活用している企業があります。例えば動画配信サービスの「Hulu」は、Twitterでハッシュタグ「#huluお願い」をつけてつぶやくと、サポートチームが回答する仕組みを作りました。ユーザーの信頼感を得るためにはとてもいい考え方だと思います。エンゲージメントを大事にした一つの考え方として覚えておくといいと思います。
さて最後に、SNSマーケティングは、どのくらいのスパンで取り組むのがいいか、という点に触れておきたいと思います。私としては、結果がどうあれ少なくとも1年はしっかりと取り組むことをおすすめします。1年やると、数カ月ではわからないことがいろいろと見えてくるからです。ユーザーの反応はもちろん、社内の意識も変わってきます。数カ月でエンゲージメント率やコンバージョンに動きが大きく出なくても、腰を据えて取り組む。そう考えてもらえるといいと思います。