りんご農家と歯科医院をつなぐ、りんご販売の新しいカタチ|WD ONLINE

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プロモーションの舞台裏 Web Designing 2016年3月号

りんご農家と歯科医院をつなぐ、りんご販売の新しいカタチ

「りんごをかじると歯茎から血が‥‥」というテレビCMに見覚えがある人もいるだろう。りんごと歯の組み合わせから着想を得て、成果を上げた施策が「Dentapple(デンタプル)」。長野県松本産のりんごブランド「ふじ」と歯科医院という異業種のタッグが、いかに販売促進を呼んだのか?

Dentapple
□クライアント:松本りんご協会
□企画/制作:(株)博報堂ケトル、(株)博報堂、(株)博報堂アイ・スタジオ、(株)博報堂プロダクツ、(株)テー・オー・ダブリュー
□PR:(株)マテリアル

 

直販の売上155%増を生んだ施策

「Dentapple(デンタプル)」は、長野県の松本りんご協会が、りんごブランド「ふじ」の認知拡大および販売促進のために手がけた施策。Dental(歯)とApple(りんご)の造語から生まれたDentappleは、歯の健康状態をテストできるりんごで、ECサイトもしくは東京都内8カ所の旬八青果店にて販売された(01)。

01 Dentappleでできることとは?
長野県松本産のりんごブランド「ふじ」の認知拡大と販売促進を兼ねた施策。2015年11月8日の「いい歯の日」から、歯の健康状態をテストできるりんごの販売を開始した。価格は1個200円(税込)。りんごをかじりながら、専用アプリ経由で歯の健康テストを受け、りんごをかじった断面写真を送付すると、24時間以内に歯科衛生士からテスト結果が届く

 

りんご協会と歯科医院という異業種の協業、デジタルアプリと連携したりんごの販売というユニークな企画は、昨年11月8日(いい歯の日)の発売早々から話題が拡散。目標の2倍以上の売上とアプリのダウンロード数(3,000強)を記録した。ふじの収穫期にあたる11月~12月初旬の間で、直販の売上が前年比155%増と確かな実績を残し、次年度への期待も高まっている。

今回のユニークな施策が実現した背景には、国内全体のりんごの収穫高が減少傾向にあるという、厳しい現実がある。加えて、長野県のりんご収穫高は全国第2位(約2割)ながら、国内シェアで5割を超える第1位の青森県との差を縮めたいという問題意識も関係する。

「全国のりんご購入量が、ここ20年で約25%減という状況のなか、TPPという社会的な要因も重なり、クライアントは大きな危機感をお持ちでした。将来を見据えた“攻めの農業”を展開する覚悟こそ、企画の原動力です」(博報堂・上條氏)

 

歯科医院が監修、唯一無二のりんご

そこで、成果の伴う施策の創出が求められた。

「松本産ふじの特長は、しっかりした歯ごたえと、みずみずしくて甘く香りがいいこと。ただし、“おいしい”を売りにしても、他品種のりんごに埋もれてしまう。“りんごを食べること”に焦点を当てながら、気づきを導く企画を模索したところ、かつての練歯磨きのテレビCMでりんごをかじる場面を思い出しました。りんごと歯の組み合わせで何かできそうだと感じ、りんごをかじることで歯の診断に応用できないかと考えたわけです」(博報堂ケトル・畑中氏)

「りんごやアプリの組み合わせだけでは、できることに限界があり、正確な“診断”はできません。ですが、りんごをかじった後のユーザーの感想や断面写真を通じて、“簡易テスト”ならできる感触もつかめました。最終的に、歯周病、虫歯、顎関節症の3つについて、健康リスクをテストできる形を用意しました」(さとうデンタルクリニック・佐藤悠野氏)

02 施策を巡る全容について
松本りんご協会が、りんご「ふじ」の認知拡大と販売促進を目的に、歯の健康テストを受けられるりんごの販売と、テストのためのアプリを公開。さとうデンタルクリニック(東京・恵比寿)の佐藤悠野院長がアプリを監修し、別に歯科衛生士がテスト結果を担当。テストを元に提携した歯科医院に行き、実際に診断も可能に。ECサイトと旬八青果店にて販売された。11月8日(いい歯の日)にあわせて、PR戦略も進められた

 

こうした歯科医院との協働に、ふじの“歯ごたえ”という特長が実現を加速させた。

「りんごに固さがないと健康テストができないことがわかったのです。品種によって柔らかなりんごもあるなか、偶然にも、ふじの特長である固さがテスト向きだったのです」(畑中氏)

こうして歯科医院の監修のもと、ふじの特長を活かした企画が、実現することになる(02)。

 

歯医者に行くきっかけも提供

りんごをかじれば、誰でも簡単に歯の健康テストが受けられること。つまり、購入からテストの通知までを、誰もが迷わずストレスなく進められる設計は施策の生命線だ(03)。

「テストは、りんごを持ちながら片手でスマホを操作できる必要があります。そこで、音声ガイダンスを採用したり、設問間の時間をやや空けぎみにして検証を重ねました」(上條氏)

りんごの生産から流通においては、シールを貼るほかに、通常と異なる作業は発生しない。

「農家のみなさんに余計な手間が発生しないことも、企画段階から強く意識してきました。継続性を視野に入れると、新たな負担が最小限にとどまり、良質なりんごづくりだけに専念いただく形こそ、ビジネススキームの構築につながると考えます」(畑中氏)

03 「スマホを片手に」りんごによる歯の健康テストを実現
りんごに貼ってあるシールの二次元バーコード経由で、専用アプリをダウンロードして起動すると、健康テストが始まる(A)。テストは片手にりんごを持っているという想定で、片手でも使いやすく、かつ操作に迷わないナビゲーションを心がけたインターフェイスを採用(B~D)し、音声ガイダンスとともに進行する。「実際にりんごをかじりながらテストを受けやすくなるよう、用意した5つの設問を、意図的にややゆったりしたペースで進められるようにしています」(上條氏)

04 24時間以内にテスト結果がプッシュ通知
03で最後までテストをつづけたら、かじった後のりんごの断面写真を送る(E)。すると、24時間以内に健康テストの結果がアプリに届き、通知される。虫歯、歯周病、顎関節症についてのリスクを6段階判定するほか(F)、歯の健康状態について詳細なコメントも添えられる(G)。施策は好評で、合計で2,000件以上のテストが行われた。「提携した歯科医院がお近くにないユーザーも意識して、位置情報を登録すると、近隣の歯科医院がすべて表示されるようになっています(H)」(佐藤院長)

 

歯科医の立場からも、ユニークな施策にとどまらない効果を期待しているという。

「自発的に歯科医院に行くという方は、けっして多くはいらっしゃいません。少々歯が痛くても我慢できるうちは行かないことが多いと思います。Dentappleによって、日常の場面から気軽に“歯医者に行こう”というきっかけにつながってほしいですね。位置情報を登録すると、Dentappleとの提携の有無に関係なく、近くの歯科医院が地図上に表示されるようにしたのも、全国的に歯科医院への来院動機が高まればという願いからです(04)」(佐藤院長)

 

目指すはDentappleエコシステム

Dentappleは1個200円(税込)。少し高めに感じる値段かもしれないが、箱売りしているふじのりんごを1個あたりで計算すると150円前後だという。健康テストという付加価値を考えれば、手を出しやすい現実的な価格設定に抑えたことや、店頭では1個ずつ売るl方法にも対応できた柔軟性も、施策の成果を後押しした。目的の根幹である「松本産ふじが売れること」を促しながら、次年度を見据えた動きもはじまっている(05)。

05 今後の展望
初年度の話題化や実績をさらに飛躍させるために、次年度以降の継続に向けて(検討段階も含む)プランが進行している(A~E)。目指すは、松本りんご協会と全国の歯科医院、ユーザーが三位一体となった、継続的なDentappleエコシステムだ(F)

 

「自分のお店でも取り扱いたいという青果店からの声も多数ありました。次年度は、取扱店を増やすと同時に、供給を支えるためにも協会加入者数の増加にも貢献したいです」(上條氏)

「初年度はトライアルの側面もあったなかで、高い利益還元率を残せることがわかりました。次年度は、もっとDentappleとして売るふじの個数や比率を高めたいですね」(畑中氏)

そのほか、企業の福利厚生として導入を検討したいという問い合わせも来ているそうだ。企画チームは今後、Dentappleエコシステムのような循環も視野に入れる。

異業種の協業がもたらす可能性という観点からも、Dentappleの成功には、大きなビジネスチャンスの可能性を感じてならない。

Interview with>>
左から、クリエイティブディレクターを務める(株)博報堂ケトルの畑中翔太氏、さとうデンタルクリニックの院長 佐藤悠野氏、プロデューサーを務める(株)博報堂の上條圭太郎氏

掲載号

Web Designing 2016年3月号

Web Designing 2016年3月号

2016年2月18日発売 本誌:1,559円(税込) / PDF版:1,222円(税込)

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