2015.09.10
サイト改善基礎講座 Web Designing 2015年9月号
自社のシナリオ磨きは恋愛術の成長のごとし 効果的なデジタルコミュニケーションを知るための分析と対策
分析視点が曖昧なままでは、アクセスログの画面を見てもただ時間ばかり過ぎてしまう。分析視点が決まっていれば作業は効率的になるが、本質を見過ごすと機械的な作業となりかねない。分析は片想いの恋を成就させようとする挑戦に似ている。分析視点はどのように見出されるのか、そして分析の本質についての考え方を紹介しよう。
分析の出発点は何か
Googleアナリティスクスの集計画面を見ると、途端に眠くなる症候群に悩まされるという方もいるのではないだろうか。集計結果やユーザー行動をただ漠然と眺めても、分析結果として得るものは少ない。Webサイトの目的と目標が明確になっていれば、チェックすべき指標や注目すべき事象が浮かび上がってくる。
たとえば、コーポレートサイトの主目的を「新卒採用における応募者数の向上」、目標を「エントリー数の前年比20%増加」としていたとする。そして、目標達成のためには「応募意向者への強い動機づけ」を問題と捉え、解決のための施策として「新卒向け自社の魅力訴求コンテンツの拡充と閲覧の促進」を行ったとする。この場合、見るべき指標は何になるだろうか。集客、回遊、コンバージョン、リピートと仕分けると考えやすい。たとえば、集客はターゲットの新規訪問数やコンテンツへの到達数。回遊はターゲットの初回訪問時における魅力訴求コンテンツの閲覧ページ数。コンバージョンは、エントリーページへの訪問数や入力フォームの離脱数。リピートは、コンバージョンが起きるまでのリピート回数やリピート時における魅力訴求コンテンツの閲覧ページ数が挙げられる。このようにWebサイトの目的と目標が明確であれば、定義された問題に対して実行した解決策がうまくいっているか、評価する視点が導かれる。
全体像とシナリオを描く
Webサイトは企業にとって有用なコミュニケーションツールだが、全体でみれば一つのチャネルでしかない。企業のマーケティング戦略にさかのぼってコミュニケーションの全体像とシナリオを整理しておくことで、Webサイトの目的や目標が明確になってくる。先人によってそのためのさまざまな手法が編み出されているが、マーケティング戦略をひもとけば、自社が利益を得るメカニズムを知ることができる。ターゲットとする相手、他社による脅威、自社が優位となる理由を把握できるからだ。
戦略を整理する枠組みとして、3C分析※1、SWOT分析※2、4P分析※3、STP※4がよく用いられる。ターゲットを深く知るためには、マーケティングリサーチが役に立つ。日常的な生活行動、消費行動のきっかけや理由、価値観やライフスタイルに迫っていけるため、相手の心を動かし顧客化していくためのヒントを得ることができるだろう。戦略やターゲットを理解した上でカスタマージャーニーマップを用いれば、コミュニケーションの全体像やシナリオが把握しやすくなる(01)。ターゲットの心理変容プロセスに沿って、コミュニケーションのチャネル(タッチポイント)と施策を紐づけることで、コミュニケーションの全体像と心理変容のメカニズムに自社がどのようにアプローチを試みているのかを俯瞰できるからだ。マーケティング戦略との整合性、チャネル間の関係性を踏まえることで、Webサイトの目的や目標が的確に、明確に設定されるのだ。
シナリオの評価指標=KPI
KPI(Key Performance Indicato/重要業績
評価指標)は、施策の効果をWebサイトの目的や目標に結び付けて把握するための指標である。ビジネス成果は後追いで来ることが多いため、すでに展開している施策がうまくいっているかどうか事前に見極めて対処することが成功の布石となる。その際にKPIは先行指標として活用される。KPIはKGI(Key Goal Indicator/経営目標達成指標)、CSF(Critical Success Factor/重要成功要因)、施策との関係性で理解するとわかりやすい(02)。
冒頭で記述したコーポレートサイトの例を用いれば、KGI=「新卒採用におけるエントリー数」、CSF=「応募意向者への強い動機づけ」、施策=「新卒向け自社の魅力訴求コンテンツの拡充と閲覧の促進」、そしてKPIは集客、回遊、コンバージョン、リピートで記した各指標となる。カスタマージャーニーマップを併用するならば、心理変容プロセスに沿って、認知、興味関心、行動とフェーズを分けてKPIを設定したり、Webサイト以外の施策による影響も考慮して設定をしてもよいだろう。施策を実施した後、KPIを短期的、定期的に観察することで施策の成否を見極める。もしうまくいっていないならば、KPIがよくなるように施策を調整していけばよい。
シナリオを磨く
これまで記述してきた考え方や方法は、コミュニケーションの全体像やシナリオを明確にするための単なるツールとプロセスに過ぎない。分析に携わる者に「適切な手法を選択し、正しく使いこなすこと」が求められることは前提であり、「問題を正確に見極め、的確な解決方針を導くこと」が本質である。Webサイトへの訪問者を顧客とするために、いったい何を訴求すればよいのだろうか、どのようなシナリオを描くのが適切なのか。自分(自社)に興味や好意を持ってもらうためには、いまは何が足りなくて、相手にどのようにアプローチすればうまくいくのか。
恋愛にたとえるなら、中学生の頃の恋は、はちきれそうな自分の想いをストレートに相手にぶつけがちなものだ。そして、玉砕することが通例だった。少し成長して高校生の頃になると、相手の好みを探ったり合わせたりできるようになって、成功確率は高まる。しかし、長続きはしないことが多い。もう少し大人になると、相手の想いに寄り添うことの重要性に気づく。相手の想いや心の機微を察知してそれを認め、尊重することで関係性が深まっていくというのと似ている。いずれにしても相手は人である。データやリサーチを通じて(場合によっては実際に会ってみて)相手のことを詳しく知り、意中の相手をどのように導くのか、ひたすら妄想しイメージをブラッシュアップしていくことが求められる。ターゲットに対する洞察力を高めてコミュニケーション・シナリオを磨く努力を怠らないことが、成功の必要条件となるのである。
※1 顧客(Customer)、競合他社(Competitor)、自社の強み・弱み(Company)の視点で整理し、自社のビジネス状況を把握すること。
※2 自社のサービスや商品について、内部環境である強み(Strength)・弱み(Weakness)と、外部環境である機会(Opportunity)・脅威(Threats)を整理することで、自社のビジネス状況を把握すること。
※3 自社のサービスや商品について、製品(Product)、価格(Price)、プロモーション(Promotion)、流通(Place)に着目することで、ブランドとしての一貫性や競争力を把握すること。
※4 共通のニーズを持つ消費者をグループ化していき(Segmentation)、顧客対象とするグループを選んでいく(Targeting)。そして、競合他社との違いを具体化する(Positioning)こと。