2015.09.10
ECサイト業界研究 Web Designing 2015年9月号
越境EC~海外市場で成功するために乗り越えるべき5つの壁
海の向こうには、無数の顧客がいる‥‥海外の顧客をターゲットにする「越境EC」というキーワードを耳にすることは多いと思います。技術の進化から国内外の分け隔てなく商売ができるようになった今、海外に可能性を求めるショップは確実に増えてきました。しかし、海外を相手にするには「5つの壁」があります。ここでは、越境ECの本質やメリットを解説し、その5つ壁の考え方を解説しましょう。
越境ECってなに?
北海道のお土産が1日600万円売れた! 子供服が2日で450万円売れた! 日本の文房具が中国で爆買いされている!‥‥EC界隈において、このような熱い話題が飛び交うキーワードとなっているのが「越境EC(クロスボーダー取引)」です。越境とは国を超えて取引することをいいます。
経済産業省のデータによると、2020年には2013年の4倍の越境EC流通額が生まれるとしています。越境ECはなぜ、こんなに盛り上がってきたのでしょうか?
越境ECは、実は5~6年ほど前に一度盛り上がったことがあり、企業が揃って中国やアジアに進出したことがあります。その頃の売れ筋商品といえば、日本の安全や信頼といった日本文化を全面に出した商品が売れていました。例えば、赤ちゃんの粉ミルクや紙おむつ、日本メーカーの炊飯器が有名です。
では現在の越境ECはどうでしょうか? 日本のサブカルチャー系の商品も非常に良く売れていますが、特に最近では、ごく普通に日本国内で売れている商品が販売されてきています。例えばユニクロや無印良品などの商品は、現地(海外)で買うより日本から直接取り寄せたほうが結果的に安く手に入れられる「内外価格差」と、さらには日本から送られてくる「本物」を手にすることができる「本物品質」志向により、市場が大きく広がっています。日本から普通に日本の商品を購入できることがわかった海外ユーザーがリピーターになって、さらに購入が広がるということが起きているのです。
海外ユーザーというのはどのような方々で、どのような商品を購入しているのか見てみると、越境ECで購入する顧客層は計1,550万人以上と推計され、図02のように4つに分けることができます。広義にはさらに大きな規模で存在するものと想定できます。
このそれぞれの顧客層は何を購入しているのか、在外邦人(個人と法人)、外国人(個人と法人)の4つに分けて見てみると、在外邦人の個人、外国人の個人・法人で実に95%を占めています。それぞれ求める商品は変わってくるので、越境ECで狙うならどこの顧客層を狙うかを決める必要があります(03)。
と言っても、誰もがどんな商品でも売れる、というわけではありません。そこには乗り越えなければいけない「越境ECの壁」が存在します。逆を言えば、この壁をクリアできれば、海外という大きな市場を相手に成功する可能性が高まるわけです。では、それぞれの壁の考え方、乗り越え方を解説しましょう。
5つの壁「システム」&「顧客対応」
まず最初の壁は、カートや決済、配送などにおけるシステムの問題です。何を採用するのが自社の店舗に都合がよく、安全か。さまざまなシステムがすでに登場していますが、大切なのは「インボイス(商品を輸出する際の送り状。輸入品の仕入れ書として税関に提出する)が作成できる」「EMS(国際スピード郵便)とのAPI連携ができている」「英語で入力できるカート」で、この3つがあればスタートできます。現在お使いのシステムでもオプション対応している可能性もありますので、問い合わせてみるとよいかもしれません。とはいえ、導入してもすぐに画期的な成果が上がるわけではないので、運用にあわせて徐々にシステム化しましょう。
決済は、クレジットカードが多く、次いでPayPal、中国ではアリペイ(支付宝)での決済が多く使われています。カートシステムでどのような決済が可能かは確認しておきましょう。PayPalは約190カ国、2億3,000万人の方が使っている決済システムで、不正検知に優れています。中国へ販売する場合にはアリペイは必須です。GMOやソフトバンクグループなど、日本EC店舗での導入をサポートするサービスを展開しています。
次に、「顧客対応」です。海外のお客様との対応は、基本はすべて英語対応で大丈夫です。中国向けでも、まずは英語です。なぜなら、わざわざ海外から注文する方はもともと言語のスキルが高いので、英語で十分やりとりができるからです。さらに日本の商品を購入する方は日本語が読めることも多いのです。このためわざわざキャッチコピーや商品名を無理やり多言語に変換しなくても日本語のままが一番良かったりします。
顧客対応の好例を挙げると、 「北海道お土産探検隊」(07)では中国人からの注文が多いため、中国人を雇用してチャット対応をしています。中国人はメールを信用せず、チャットがメインなのです。もう一つの例として、現地で有名なECモールに出店するという方法もあります。和気文具では以前から日本の文具を越境ECで販売している実績もあり、すでに中国に進出し、アリババ社グループが運営するECモール「タオバオ(淘宝)」でも販売を行っています(08)。海外の方にもスピード対応が必要なので、チャット対応が最善ですが、できない場合でもできる限り素早い対応が望まれます。
5つの壁「発送」
3つ目が「発送」です。商品の発送はほとんどの場合、郵便局のEMSが利用されています。EMSならばAPIも公開されていますので、システム連携も簡単です。海外発送の場合には、梱包した状態でのサイズと重量で配送費用が決まるということが日本国内配送と違うところです。越境ECの場合、この手間が大変な要素になります。そして梱包はお客様からの要望もあるため、梱包が難しい場合や、やりとりが多い場合などはショップでの購入品をまとめて、海外に配送する手続きを代行してくれる「転送業者」に依頼したほうが早いかもしれません。海外からよく購入する方は転送業者経由で注文をする場合も多く、彼らからすると安心して任せられるということです。
送料は、重量と地域によって変わります。例えばアジアへEMSで運ぶ場合には、300gまで900円で送れます。これは、北海道や沖縄に送るより安価です。個数によって10%~20%程度の割引があります。SAL便はさらに安く、同じ300gでアジアなら320円、イギリスなら380円で届きます。SAL便は紛失や破損に対する保障がないですが、現在クレームや紛失ということもほとんど聞かないため、商品によっては選択肢の一つでしょう。
ちなみに消費税は日本の税金のため、お届け先が海外の場合には消費税分を免税してお客様へ請求します。EC店舗側は申告して還付を受けるようにします。キャンセル率は、実は結構高くなっています。ちなみに、アリペイの未入金、カードエラーを含めたキャンセルは20%程度(筆者独自データ)です。
越境ECでは受注処理・発送業務ともに、国内販売より3倍程度手間がかかりますので、この費用を考えておく必要があり、国内の金額より少し高めに設定するのが通常です。平均客単価は1万5,000円以下が多く、国内より客単価が高いのが特長です。この理由の一つは、中国向けでは1万5,000円くらいまでは関税が掛からないためです。なお、関税が発生する場合は受け取り人が支払います。関税は国によって異なりますので調べるか、専門家に確認しましょう。
5つの壁「集客」&「商品」
4つ目の壁である「集客」には、Google AdwardsやFacebook広告がメインになります。海外向けSEOという施策もありますが、コンテンツがしっかりしていれば何の問題もありません。まずは英語にしっかり翻訳して、英語ページを充実していきましょう。ただし、前述したようにキャッチコピーや商品名などは日本語そのままの方がウケることが多いようです。ちなみに、中国向けの集客は中国のSNSである「微博(ウェイボー)」を使うことが多くなっています。
最後の壁は、「何の商品が売れるか」です。以前に比べて日本国内のいろんな商品が売れるようになってきています。しかし、そうはいっても総花的に越境ECを進めるのはオススメできません。自社の強みがどこにあるかをもう1度確認して、海外のどのお客様にアタックしていくのかを決めながら、まずは少し広めのカテゴリで反応を見ていきます。
その後、反応が出始めたら売れ筋商品を在庫して、露出を高めていくのがよいでしょう。当初は、顧客対応や運用フローの確認、マニュアル化に時間が割かれますが、売れ筋商品が見つかってくれば、集客の窓口を拡大し、本格運用ができるようになってきます。今どのような商品が売れているのかの情報を追っていると、市場の動向が探れます。
なお、商品で注意をしなければならないのが、輸出が規制されている商品があることです。税関のサイト※に詳細があるので確認しましょう。また、メーカー都合の海外販売制限がある場合が多くなってきており、いきなり販売中止にされた事例もあります。
越境ECは、世界で広まっています。そして日本にとっては、新たな市場を開拓できるかもしれない「光」なのです。グローバルでの物流や決済というインフラが整い、インバウンド(国内への観光)も増えてきています。これをチャンスと捉えるかピンチと考えるかは、まさに経営手腕に掛かっているのです。
※http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/extsukan/5501_jr.htm