2020.05.06
データとコメントで読み解くクリエイターの現在地 キャリア意識とどう向き合うべきか
いま、Web業界は人材に何を求め、Web制作者は自分のキャリアと働き方をどのように考えているのでしょうか。データと現場の声からひもといていきます。
仕事そのものが変わり続ける業界における「仕事観」
上の数字は、「マイナビ『転職動向調査』2018年」(※)においてクリエイター・エンジニアが選択した「転職活動を始めた理由」上位3項目です(複数回答)。いずれも転職者全体の平均より10ポイント以上高く、特に「経営者の事業戦略や経営理念に合わなかった」は、他の業種であまり高くないのとは対照的です(P093表6)。
いま、Webは情報提供の場からビジネス成果を上げる場へと変容を加速し、多様なマーケティングツールや手法が混在しています。成果を出すクリエイティブを構築するためには、ビジュアルからユーザー体験、ビジネス理解まで、幅広いセンスが求められるようになりました。人手不足が長期的な課題になる中、優秀な人材にどう能力を発揮してもらうか。企業と社員との関係も変わり始めています。
仕事の形そのものが変わり続ける業界で、携わる人の働き方はどこへ向かっているのでしょうか。まずはデータを起点に考えてみましょう。
働き方改革と仕事に対する意識の変容
時間は削減、仕事は複雑化 変わり続ける「成果」の意味
かつて、デザイナーやエンジニアの長時間労働は当たり前のことでした。現在は、職務内容の面で難しさはありながらも、確実に是正の方向へ動いています。デジタル制作プロダクションでつくる業界団体 I.C.E.(Interactive Communication Expert)では「デジタルクリエイティブ業界の働き方改革」を宣言し、方針を策定して取り組みを進めています。
同団体が2018年に行った調査では、長時間勤務をする人が前年に比べて減少したことがわかりました❶。また別の設問では、労働時間や残業時間を「かなり意識している/意識している(78.2%)」人が増加していました。
経済産業省の調査によると、2018年のBtoC-EC市場規模は前年比+8.9%の約18兆円に達しました。一方、BtoB-ECは成長率こそ緩やかなものの、市場規模では344兆円を超え、さらなる成長が見込まれます❷。
これを背景に、企業ではマーケティングオートメーションの導入が進むなどWebビジネスのシステム化・効率化の動きが進んでおり❸、バナーひとつ取ってもビジュアルだけで仕事が完了することはありません。ビジネスは拡大と同時に複雑さを増しているのです。
次のビジネス課題とされるDX(デジタルトランスフォーメーション)では、単にレガシーシステムの更新にとどまらず、根本的なビジネスモデルや企業文化の変革が求められます。企業が自らのあり方を再定義するとき、Webにおける存在価値をいかにデザインするかは大きな課題になるはずです。今後、より大きな視点でビジネス成果に貢献するWebサイト/システムが求められることが予想されます。
スキルアップの手段としての転職
マイナビの「転職動向調査」によると、転職率はこの数年微増傾向が続いています❹。人手不足が続く中、新卒だけでなく転職も比較的“売り手市場”であることに加え、転職をポジティブに捉える考え方が社会的に浸透してきたことなどが理由と推測されます。
デジタル制作プロダクションでもスタッフの半数近くが入社3年未満であり、一定数の入れ替わりがあることがうかがえます❺。
そんな中、先にご紹介したように、クリエイター・エンジニアの転職理由には転職者全体の意見とは異なる傾向が見られます❻。特に「事業戦略や経営戦略に合わなかった」は他業種の回答に比べて特に高いのが特徴です。また、「給与」や「会社の将来性・安定性」など全体の回答で上位に入っている項目に対しても、より強い意思表示が感じられます。
さらに「仕事のやりがい」では、1位の「スキルアップ・自己成長」と同率で「自分の裁量で仕事を進めることができる」が挙がっていることも特徴です❼。
ただ単に、「やりたい仕事」「生活のための仕事」という理由だけではなく、自身のキャリアを自覚的に捉え、目的を持って選択をコントロールする、そんな様子が読み取れます。では、実際に現場の人々はどう考えているのでしょうか。声を聞いてみました。