2019.10.23
解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2019年12月号
SNSマーケティングは顧客体験の場
近年SNSマーケティングという言葉が浸透してきた。プロモーション活動の一環として、SNSやソーシャルメディアの活用を考えているのであれば、それは本当の意味におけるSNSマーケティングとは言えない。プロモーションの場として活用することはもちろん効果的だが、人々の日常生活のシーンとしてSNSは利用されているため、より顧客視点で活用を考えて行くことがこれからの企業の課題だと考えられる。
プロモーションだけではないSNS活用の設計
多くの企業がマーケティング活動の中でSNSやソーシャルメディアを活用しているが、それらの多くはプロモーションの一環として活用されているのではなかろうか。しかし、本来、SNSやソーシャルメディアは生活者主体の場であることを忘れてはならない。そこで重要になってくるのが、UGC(User Generated Contents)である。これまでの広告プロモーションは、人が多い「面」に広告を掲載するのが一般的であった。視聴率やPV数といった指標を評価された広告掲載面にて、企業やサービスの伝えたい情報を生活者に届けてきたのがこれまでであるとしたら、SNSやソーシャルメディアは利用者が自由に情報を発信できる媒体であり、ユーザーが主役のメディアであるため、その声を無視できないのが実情である。
つまり、SNSマーケティングで考えるプロモーションは企業が一方通行に情報発信するのではなく、SNSやソーシャルメディアを活用しているユーザーに「企業のプロモーションを応援してもらう」視点が必要となる。この関係を築けるかどうかが企業にとって重要になってきている。
顧客が体験したことをSNSやソーシャルメディアで投稿してもらうことができると、企業やサービスに対するポジティブな口コミが蓄積されていく。そして、ポジティブなユーザーのクチコミがSNSで拡散されることで、他のユーザーのもとにも情報が伝播する。SNSマーケティングで欠かせないのは、まさしくこういった設計を考えることだ。言い換えれば、UGCをうまく創出する仕掛けが重要となる。ここでは好例を紹介してみたい。

UGCとは、ユーザー作成コンテンツ(User Generated Contents)の略称で、企業ではなく生活者が作成した写真や動画などのコンテンツのこと。企業発進のコンテンツとは違い一般ユーザーが自分の手で撮影した写真の方が親近感を得ることができ多くの企業がUGCを活用している。Instagramに代表されるビジュアル中心のSNSの普及が、UGCの増加を加速させた
顧客体験を念頭に入れた「#ティファニーカフェ」の施策
一つ目は、ユーザーがハッシュタグをつけて投稿することで、クチコミが増え、来店促進に繋がる事例である。ティファニーが原宿キャットストリートに期間限定でオープンしたカフェ「ティファニーカフェ」。ティファニーブルーで統一された内装はフォトジェニックで、人気のあまりオープン直後にカフェの予約が取れなくなったり、テイクアウトが2~3時間待ちになるなど注目を浴びた店舗だ。店内のいたる所にフォトスポットを設置することで、女性客はInstagramを中心にSNSに「#ティファニーカフェ」というハッシュタグとともに投稿を行う(https://www.instagram.com/explore/tags/ティファニーカフェ/)。
良質なハッシュタグ投稿が数多く生まれるような店舗設計にすることで、口コミが新たな口コミを生み、ティファニーカフェを体験した顧客の情報が新たな顧客の来店に繋がった好事例であるといえる。
ユーザーによる投稿の数々は、一見するとティファニーカフェのプロモーションに見えつつも、「SNS映えする店舗設計」や「内装のデザイン」で自然な形でユーザーの口コミが誘発される仕掛けとなっている。
ユーザーが主役であるSNSという場を意識したティファニーカフェという店舗設計は、SNSマーケティングがプロモーションだけではなく、プロダクト開発やプレイスにも影響を与えている事例といえ、「インスタ映え」を念頭に置いた顧客体験を最優先に考えた施策である。

ティファニーカフェはUGCが生まれる仕掛けを設計した成功例。ティファニーカフェを体験したユーザーがInstagramに投稿したくなるような店舗設計や内装にしたことで、その顧客体験は「#ティファニーカフェ」というハッシュタグとともにSNS上で口コミとして拡がる。良質な口コミが更なる来店促進につながる好事例といえる

SNSマーケティングは理想の形として、左図のような循環型を意識すると良い。SNSアカウントの運用を軸に考えると、まずはSNSアカウントの存在を知ってもらうために自社サイトやメルマガ、店舗での告知などを行いアカウント自体の認知を獲得する。アカウントを認知したユーザーに対して日々のSNSでコミュニケーションをとり、商品やサービスの理解・共感を獲得し、実購買や体験してくれたユーザーがファンとなりUGCを投稿する事でファンの口コミが新規ユーザーの獲得に繋がっていく。この循環型のマーケティング施策に必要なのが実購買や体験してくれたユーザーの口コミであり、ハッシュタグ投稿が口コミの拡散に適している
時代とともに変容するインフルエンサーの起用法
二つ目の事例は、一般化してきた「インフルエンサー」についてである。SNSやソーシャルメディアで多くのフォロワーを抱えるため、影響力を持つユーザーはインフルエンサーと呼ばれる。InstagramやYouTube、Twitter等でインフルエンサーに商品情報を投稿してもらう手法が、インフルエンサーマーケティングだ。
しかし、最近はインフルエンサーマーケティングも過渡期にあると感じられる場面がある。というのも、特定のインフルエンサーがさまざまな商品を紹介しており、企業プロモーションのひとつの「面」として機能してしまっているような印象が強く残り、まるで広告枠の媒体のようにインフルエンサーマーケティングが実施されているケースが多いのである。こういった施策が増えてきたことで、インフルエンサーによる投稿は徐々に広告として認識されるようになってきている。
こういった背景から、近年はインフルエンサーマーケティングの変革期であるとも考えられる。SNSの投稿だけでなく、インフルエンサーとともに商品・プロダクトを協働で開発し、インフルエンサーが自ら開発に携わる商品・プロダクトについてSNSで投稿して告知していく。これからはそんな座組が増えていくのではなかろうか。

インフルエンサーとは、SNSをはじめとした特定コミュニティにおいて他のユーザーへの「口コミ」の影響力が大きい人物のことを指す。個人の情報発信・コミュニケーションの場としてSNSやソーシャルメディアが普及した昨今、多くのフォロワーを持つ一般人も増えインフルエンサーマーケティングがトレンドになった
顧客体験としてのSNSやソーシャルネットメディア
丸井はプライベートブランドである「ラクチンシューズ」をインフルエンサーとともに開発を進めた。キャスティングされたインフルエンサーはファッションに関して造詣が深く、自身のフォロワーにもファッションに関する情報を伝播させることができる高山都さん(@miyare38)。高山さんは、ご自身が開発に携わる商品をInstagramで告知投稿をしているのが垣間見え、商品だけでなくイベントについてもInstagramで告知し、イベント集客を行っていたのである。イベント当日は、Instagramアカウントでライブ配信も行っており、SNSの場を顧客体験としてうまく活用した事例といえる。
高山さんへの憧れを抱いているフォロワーが多く、彼女が開発に携わったならば、その商品についてもっと知りたいという気持ちが強くなる。そのため、フォロワーは高山さんの情報発信に対して積極的に反応し、商品購入やイベント来場も熱心に検討してくれる。このことは、企業からではなくインフルエンサーの力を借りながら顧客体験を導き出すことができた好例である。
インフルエンサーマーケティングはスポットで投稿を依頼するだけの手段ではなく、商品開発にも及んでおり、SNSやソーシャルメディアを活用したマーケティング施策は、すでにプロモーションの場だけではなくなってきていることがよくわかる。
心地よい顧客体験こそSNSマーケティングの真髄
これらの事例を踏まえて、新規でSNSマーケティングを検討している、あるいは進行中の施策について改善点を模索している読者ができることを考えてみたい。
ファーストステップは、自社で扱っている商品やサービスがSNSやソーシャルメディアでどれだけ投稿されているかを確認してみると良いだろう。
既にユーザーの投稿が散見されるようであれば、さらに投稿数が上がる仕掛けを考え、投稿数が少ない場合はユーザーがどうしたら投稿したくなるかを考えていく。もちろん、商品によっては、SNSやソーシャルメディアとの相性に良し悪しがあり、商品やサービスの認知度合いによって投稿数の指標は異なるが、「投稿数を上げる仕組みを考える」ことは一致する。
ユーザーの顧客体験が口コミとして投稿されやすいように設計していくと、ユーザーとコミュニケーションが生まれ、企業のマーケティング活動を応援してくれるようになる。ユーザーが主役のSNSやソーシャルメディアでは、企業のプロモーションとしての活用だけではなく、ユーザーにとっての心地良い顧客体験を意識していくことが、今後のSNSマーケティングの真髄となってくる。

「これまで」の起用法
直近でもこの形でのインフルエンサーマーケティングが主流。ファッションやコスメ、旅行などの特定ジャンルでフォロワーを多く抱えるインフルエンサーに商品のPRを行ってもらう手法で、人の言葉が介するため企業が直接一般ユーザーに情報を伝えるよりも、より「広告」という印象が少なくなり、情報を受け入れられやすい

「これから」の起用法
これからは、旧来のインフルエンサーマーケティングの形だけではなく、インフルエンサーと協働開発するコラボレーション商品が増えていくと予想される。企業から依頼を受けて数回にわたり商品のPR投稿を行うよりも、インフルエンサー自身が開発に携わった商品のほうがSNSで投稿する際に自身の言葉で語りやすくなる

- Text:脇 僚平
- 株式会社オプト ソーシャルメディアマーケティング部 部長。2012年オプト入社。一貫してソーシャルメディア関連事業に従事。国内大手のナショナルクライアント等のソーシャル企画やインフルエンサーマーケティング、SNSアカウント運用の戦略立案、施策実行を担当。2019年からソーシャルメディアマーケティング部部長に就任した。

- Text:一般社団法人ウェブ解析士協会
- 事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。