2019.05.13
ABEJA、Sansan、freeeに学ぶブランディング施策の3つのポイント BtoBスタートアップの雄たちが語る「ブランディングを加速させるには?」イベントレポート
4月19日、株式会社ABEJA、Sansan株式会社、freee株式会社の3社で企画された「BtoBスタートアップのブランディングイベント #01」が、freee本社にて開催されました。
同イベントは、ブランディングを推進したい企業、とりわけBtoBやスタートアップといった特徴を持つ企業が対象。ABEJAプロジェクトマネージャー・遠藤 哲生さん、Sansan執行役員CBO(Chief Brand Officer)ブランドコミュニケーション部 部長 クリエイティブディレクター・田邉 泰さん、freeeブランドコミュニケーション部クリエイティブディレクター・小川 哲弥さんの順で各社のブランディング事例が紹介され、その後、3人が登壇して「スタートアップのブランド担当者がブランディングを加速させるには?」というテーマでパネルディスカッションが実施されました。
当日は、「ブランディングのあり方」「ブランディングを推進していく体制の整え方」など、BtoBやスタートアップに限らず、あらゆる企業規模・業種でも応用できる内容が盛りだくさんでした。今回イベントで語られていた話をもとに、編集部として感じた「自社や自社製品・サービスのブランディング施策におけるポイント」を、「導入」「基本方針」「社内体制」という3つの観点から、紹介していきたいと思います。
1. ブランディング施策の導入
「ただカッコよくしたい」ではなく「目的を明確にする」
「カッコいい会社だと思われたい」「おしゃれな製品というイメージを与えたい」といった動機のみでブランディングをはじめるのは、施策を進める中で「やる意味あるの?」となりかねません。
「ブランディングに取り組む際、なぜやるのかを考えるのが大事」とSansan・田邉さんは話します。今、Sansanがやっているブランディングの目的は、大きく「採用」と「事業成長」。企業としてのミッションを出発点に、その目的に向かって施策を実践する必要があるといいます。ミッションをターゲットに向けて適切に伝えることを意識するだけでも、ブランディングの質は向上するはずです。
また、ABEJA・遠藤さんは、「2018年のリブランディング施策は、代表の『Webサイトをリニューアルしたい』という希望からはじまったが、代表からヒアリングしていく中で、サイトリニューアルは一つの側面に過ぎなかった」と振り返ります。「Webサイトのリニューアル」は、あくまで手段なので、「なぜやるのか」を突き詰めていくことが必要です。ABEJAの場合、突き詰めた結果、抜本的なブランディングに踏み切りました。軸になったのは、創業当初から掲げている、テクノロジーとリベラルアーツの両輪を、アントレプレナーシップによって循環し、非連続なイノベーションの実現を目指す企業の行動指針「テクノプレナーシップ」。ロゴの刷新に留まらず、1,000名超の来場があった初のABEJA主催AIカンファレンス「SIX 2018」の企画を行い、より幅広い施策の実現に至りました。
社内においても、目的が明確にある有意義な施策として認められることで、ブランディングの取り組みを堂々と推し進めることができます。「ブランディングは企業活動のための手段」ということを忘れずに、「なぜやるのか」を常に頭の片隅に置きながら取り組みたいものです。
2. ブランディング施策の基本方針
「権威アピール」ではなく「想いに共感してもらう」
「業界No.1」「10年連続大賞受賞」といったフレーズは効果的な印象があります。できれば、こういった「誇れること」をブランドとして打ち出したいと考えがちです。
しかし、「自慢ばかりしてくる人と仲良くなりたいか」と問いかけるのはSansan・田邉さん。「好きなものを語って、周囲を巻き込むのが基本」と続けます。自社の優位性を推すのも一つのやり方ですが、特にスタートアップでは自社のミッションや世界観を伝える方が相性も良さそうです。
freee・小川さんは、自身のfreee入社時のエピソードを紹介し、「複数回の面接で、面接官みんなが同じ想いを語っている。ミッションの浸透度が高い企業だと思い入社を決めた」と振り返ります。前述したように、採用に関わる社員が同じ方向を見ていたこと、そして、ミッションをベースに想いを語っていたことが、入社の決め手になったということで、人を動かす“想い”の重要性がわかります。
採用であれば、ミッション自体やミッションへの想いを求職者に伝え、共感してくれる人を募り、仲間になってもらう。ミッションフィットを重視することで、入社後のミスマッチを防ぐことにもつながり、企業と入社した人がWin-Winの関係で結ばれます。「うちは〇〇がすごい」ではなく、「〇〇を成し遂げたい」「〇〇のような人と働きたい」という想いを伝え、共感を生み出すブランディングが、今求められているのかもしれません。
3. ブランディング施策の社内体制
「ルールの徹底」ではなく「目線を揃えてもらう」
ブランディング施策を推進するうえで、社内体制の話は欠かせません。
freee・小川さんは、「ブランディングを推進する体制として、トップダウンで経営層から一方的にブランドルールを周知させるのではなく、ブランドコミュニケーション部が経営層と現場のハブとなり、対話しながらブランド戦略を遂行することを意識している」と語ります。小川さん自身も代表と直接話しながら、また、現場全体も見渡して、個別施策とブランドがうまく連動するように動いているとのことです。その中で、freeeでは、文字の大きさや背景色といったクリエイティブガイドラインを見直したり、営業資料やLPで使うアイコン・素材の統一を図りましたが、それらは会社全体を俯瞰したからこそ生まれた、「freeeらしさ」を表す成果物だといえるでしょう。「議論への投資は行なったうえで、ブランディングの軸になるものは提供していきたい」と小川さんはいいます。
「トップダウンではなく議論を」というのは3人が口を揃えて強調しており、Sansan・田邉さんは、「ルールを明文化しなくても、社員全員が同じ方向を見ている状態をつくるのが大切。そのために、弊社では全社員が参加し、1年間議論した後で、企業ミッションの刷新を行なった」といい、ABEJA・遠藤さんも「例えば、弊社タグラインの『ゆたかな世界を、実装する』の『ゆたか』という言葉ひとつとっても、社員の捉え方は異なる。答えとしてルールを教えるのではなく、ある程度の自由度を設けた上で、個々人から自然発生的に企業としてのメッセージが出てくるのが理想」と話しています。
ルールを徹底することで、社員が思考停止してしまっては、企業の成長も望めません。ブランディングのための体制づくりでは、あくまでも「社員の目線を揃える」という点を意識すべきでしょう。ブランディングの担い手は、社員一人ひとりであり、各々が同じ方向を見ながらも、個性を活かして働けることが、企業のブランド力向上のためにも重要です。議論を重ねてワンチームで動く発想はスタートアップならでは、と感じるとともに、ブランディング施策を中長期的に進めるうえで、多くの企業にとって参考になる考え方だと思います。
登壇した3社は、それぞれ意識的かつ積極的にブランディングに取り組んでおり、各社の先進的な事例からは多くの学びがありました。同イベントは、今後のシリーズ化も視野に入れているとのこと。ブランディングを推し進めたい企業にとって、大きなヒントを得られる場になっていきそうです。