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雨宮編集長のコゴト@升田幸三賞

2015.04.04 | 週刊将棋編集部

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升田幸三賞と名局賞、そして将棋大賞の選考会が1日にあり、発表の通り決定した。まだご存知ない方は、日本将棋連盟のホームページをご覧ください。
筆者はすべての選考会に出席した。詳しい経過は「将棋世界」6月号に掲載されるので、ここでは升田幸三賞についての個人的な感想を。

升田幸三賞と名局賞の選考会は、棋士3人と記者3人が選考委員だ。棋士は飯塚七段、勝又六段、金井五段(週刊将棋4月8日号から、相矢倉▲4六銀vs△4五歩をテーマにした講座を執筆)。さすがに研究家として名高い棋士がそろう。記者は日本経済新聞と共同通信の将棋担当記者、それに筆者の3人。どう見ても筆者の棋力が一番低い。

升田幸三賞の選考は、まず各委員が推薦する戦法、指し手などを説明し、その上で「さて、どうしましょう」という討議に入る。表彰するのは人間なのだが、賞の性格上、入口は戦法の話になる。

中飛車左穴熊については、実は1年前の選考会で筆者がひとりだけ推薦した。そのときは「もう少し様子をみて」ということで選外だったが、1年たって状況が変わった。
「中飛車左穴熊が有力なので、先手が初手▲5六歩とつきやすくなった」という効能があるらしい。風が吹けば桶屋が儲かる的な話だが、要はこういうことらしい。

「中飛車に対しては相振り飛車に持ち込むのが有力」
「なぜなら中飛車は金銀が左右に分裂しやすいので、玉の堅さで不利」
「そのため初手▲5六歩からの中飛車は形を決めすぎて損」
「ところが、中飛車が左穴熊に囲えば相振りになっても玉の堅さで負けない」
「ならば堂々と初手▲5六歩と突ける」

つまり、実際には左穴熊になっていない中飛車でも「左穴熊有力」がベースになっているわけだ。これがプロアマ問わず、振り飛車に大きな影響を与えている。

実際に升田幸三賞を受賞したのは、菅井六段だ。中飛車左穴熊は菅井六段の発明ではないが、その研究、創意工夫は、現代の振り飛車定跡に多大な影響を与えている。そのため受賞理由の説明が長くなってしまっているが、それだけの評価がプロ棋士の中でも定着しているためとご理解いただきたい。升田幸三賞にふさわしい受賞者である。

菅井六段については島九段から印象的な話を聞いた。あるとき、菅井六段から島研について質問攻めにあったらしい。羽生世代と自分と何が違うのか、修行時代には何をやっていたのか、必死に問い続ける姿勢に島九段は好感を持ったという。

一方、久保九段との共著『久保&菅井の振り飛車研究』(マイナビ刊)を読むと、「あとはチャンバラ攻撃で勝ち」など、意外にアナログな感性も見せている。山田定跡を全然知らないところは微笑ましいやらなにやら。オジサンタチハコノジョウセキヲズイブンベンキョウシタノニ…。

タイトル争いになかなか加われず、いまひとつアピールの機会がない。この受賞を契機に、大活躍を期待する。