iMac Pro大量導入の訳は「エンジニアには最高の開発環境を」|MacFan

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iMac Pro大量導入の訳は「エンジニアには最高の開発環境を」

文●牧野武文

Apple的目線で読み解く。ビジネスの現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を運営する株式会社ビズリーチでは、エンジニア/デザイナー向けにiMac Proを最終的に300台配付するという大型導入を進めている。その目的は、世界で最高の開発環境を用意し、世界で最高の人材を育成することにあった。

 

高機能化する開発環境

株式会社ビズリーチ(以下、ビズリーチ)は、転職サイト「ビズリーチ」を中心に、戦略人事クラウド「ハーモス」、挑戦する20代の転職サイト「キャリトレ」など、数々のサービスを展開している。これらのインターネットサービスはすべて内製で、エンジニアとデザイナーからなる「ものづくりチーム」が約300名いる。転職サイトの運営というと、人材紹介業のように思えてしまうが、ビズリーチはマッチングサービスの開発を行い、運営しているIT企業なのだ。

開発チームは、これまでMacBookプロ(2015年発売)を使っていた。MacBookプロは一般的な開発にも十分な性能を持ち、さらに社内の好きな場所、カフェなどに移動しても仕事ができるというモビリティも兼ね備えている。「スウィフト(Swift)」「iOS」「MacBookプロ」は、もはやエンジニアの「三種の神器」とも言える存在になっている。

しかし、開発ツールが進化して高機能化し、開発効率は飛躍的に高まっているものの、その代償としてマシンへの負荷は年々重くなっている。ビズリーチでも数年前のMacBookプロでは開発作業が効率的に行えなくなってきていた。

「たとえば、最近のiOSアプリはとても高機能化しているので、ビルド作業に時間がかかります。短くても30秒、長いと数分とか10分以上かかることもあります。時間の有効活用を考えると、決して望ましい状態ではありませんでした」(株式会社ビズリーチ取締役・竹内真氏)

エンジニアは開発の最終段階になると、ソースコードを一箇所直してビルドし直し、動作確認を行う。そして再びソースコードを修正するというサイクルを高速回転させる必要が出てくる。特にスウィフトで書いた大型アプリのビルト、 ジャバスクリプトで書くWEBのフロントエンド部分のコンパイル、高機能化したWEBアプリの開発環境などが重くなってきているという。最先端の開発をするには、すでに数年前のMacBookプロでは、快適な開発環境を構築することが難しくなりつつあるのだ。

もちろん、アイデア志向の小さなアプリ開発であれば、数年前のMacBookプロでも十分に開発ができる。しかし、ビズリーチは他社との差別化戦略として、リッチなフロントエンドを持つ高機能なサービスを提供している。また、ビズリーチのサイトも公開されてからすでに10年近く経ち、その間、機能が日々追加されてきて、巨大なプロダクトとなっている。リッチというベクトルを追い求める開発戦略を取ると、どうしてもMacBookプロ以上に快適な開発環境が必要になってくるのだ。

「私たちだけではなく、他社さんでもおそらく開発環境に関しては切迫した状態だと思います。社内でも面白いことにスキルの高いエンジニア、デザイナーほど切迫しているんですね。密度高く、仕事をしますから。そこで最高の投資として、『開発チーム全員に最高峰のiMacプロを貸与すること』を決めました」

 

 

モビリティ重視のMacBook Pro、速度重視のiMac Proのデュアル環境が希望者全員に用意されている。自作PCを除いた製品版による開発環境としては、世界最高水準になる。

 

 

ビルド時間が4分の1

一般的に、開発業務に使うマシンとして候補に挙がるのが、MacBookプロ、iMac、iMacプロ、Macプロのいずれかだ。なぜ、Macプロをもしのぐ高性能なモンスターマシン、iMacプロを選んだのだろうか。

「当時最新のiMacを購入して比較してみたところ、ビルド時間はMac Bookプロの半分近くにまでなりました。これで十分かもしれないのですが、iMacプロで検証してみたところ、ビルト時間が4分の1程度にまでなったのです。コスト対性能を考えるとiMacが一番優れていますが、私たちはコストはかかるものの性能がずば抜けたiMacプロを選びました」

その決断の決め手となったのは、会社のあるべき姿として、どの開発環境が最適かを考えた結果だったという。

「今後人口が減少していくことははっきりしています。その中で、優秀なエンジニアを採用するには、最高の開発環境を用意するべきですし、生産に必要な要素である『ヒト』『モノ』『カネ』の中で、これからは特に『ヒト』がもっとも貴重となります。ですから、ヒトのパフォーマンスがモノによって制限されているという状態はあってはならないと思います」

こうして、iMacプロの社内配付が経営陣から承認された。導入の第一弾は、希望者のみにiMacプロを貸与するという方式で、およそ300名中約130名が希望した。デザイナー、エンジニアといっても、ディレクション業務を中心に行っている人などの場合は従来のMacBookプロでも十分事足りる。また、中には27インチという巨大ディスプレイを机の上に置くのは威圧感があると感じている人もいたという。

「ただ、実際に導入が始まって同僚がiMacプロを使い始めると、やっぱりいいなあという空気感になっています。これから第二弾の希望を取るのですが、かなりの人が希望するのではないかと予想しています」

ちなみに、Macではなく、ウィンドウズPCという選択肢はなかったのだろうか。コスト対性能という観点で見ればウィンドウズPCの中には優れている製品がいくつもある。

「弊社の場合、その選択肢はありませんでした。サーバがリナックスで動いているので、macOSでないと整合性が取れないからです。また、今の開発環境のグローバルスタンダードはリナックス+macOSだと思います。もちろん、弊社のエンジニアには弊社の中でいい仕事をしてほしいと思っていますが、本人が望むのであれば世界で活躍して素晴らしい仕事をしてほしいという気持ちもあります。その観点からも、世界標準の開発環境を用意するのは当然なのです」

また、性能の割には静音性が高いのもiMacプロの特長だという。ウィンドウズPCの多い開発ルームでは、高性能のマシンが100台、200台が同時に動くとファンの音がかなりうるさくなるそうだ。

 

■MacBook Pro 13'

Year:2015
CPU:3.1 GHz Intel Core i7 - 2 Core
GPU:Intel 6100 1536 MB
Memory:16 GB 1867 MHz DDR3

 

■iMac Pro

Year:2018
CPU:3.2-4.2 GHz Intel Xeon W - 8 Core
GPU:Radeon Pro Vega 56 8 GB
Memory:32 GB 2666 MHz DDR4

ビズリーチが使っていたMacBook ProとiMac Proで同じアプリのビルト時間を測定すると、46秒対185秒という差が出た。4.02倍になる。

 

 

一流の人材は一流の環境で育つ

2018年4月にiMacプロを導入し、ビズリーチではすでに大きな効果が上がっているという。竹内氏が導入効果として一番に挙げるのが、「クリエイティビティがつながる」ということだ。エンジニアの仕事は、ソースコードを修正し、ビルドやコンパイルを行い、動作確認をする。このサイクルを何度も繰り返すことで、プロダクトの質を高めていく。しかし、動作検証をしてみて、思いどおりの動作をしないということも多々ある。

「こういうとき、エンジニアはやっぱり気持ちが切れますよね。特にビルドに長い時間待たされると、その待っていた時間が無駄になってしまいます。iMacプロを導入して、ビルド時間が4分の1程度に短縮されることで、気持ちが切れない。クリエイティビティを仕事中ずっと維持することができるようになったと実感しています」

とはいうものの、iMacプロ導入は大型の投資だ。300名全員導入で予算確保をしているため、合計投資金額は2億円弱になるという。それでも、決断したのは、「世界で通用する一流の人材を育てたい」というビズリーチとしての強い思いがあるからだ。一流の人材を育てるためには、一流の環境がなければならない。

 「今回のiMacプロを含む開発環境の追加コストは1人あたり100万円程度です。これを5年で減価償却すると考えると、年20万円のコストとなります。この金額を給与に割り当てて年収を20万円アップしたとしても、さほどインパクトがあると思えません。開発環境を充実させるほうが、投資対効果は高いと思っています」

実際、iMacプロを導入したことを聞きつけて採用面接にきたというエンジニアもいたそうだ。ここで重要なのは、そのエンジニアは「iMacプロが使える」から来たのではなく、「最高の環境をエンジニアに用意するという企業姿勢に惹かれた」という点だ。

投資というのは、自分たちがどういう姿でありたいかと定め、そこから逆算して決定すべきであるという。ありがちな、複数のプランの投資対効果を計算し、どちらが得かと考えるやり方では、いつまで経っても「自分たちのあるべき姿」にはたどり着くことができない。

 

 

第一弾は、iMac Pro 137台を配付。全社員の3割弱をエンジニア、デザイナーが占めるビズリーチでは、彼らの持つ技術力やデザインの力が会社を支えている。

 

 

株式会社ビズリーチ取締役の竹内真氏。今回のiMac Pro導入の狙いは、「高速=作業効率」ではない。作業の阻害時間を短縮することにより、集中を持続させる=作業時間の短縮化という狙いだ。

 

ビズリーチのココがすごい!

□エンジニアやデザイナーへ最高の開発環境を提供する
開発環境を充実させるほうが、投資対効果は高いと判断
世界で通用する一流の人材を育てたいという強い思いがある