LINEで医師に相談できる親の不安に寄り添ったサービス|MacFan

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LINEで医師に相談できる親の不安に寄り添ったサービス

文●朽木誠一郎

Apple的目線で読み解く。医療の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

子どもが突然、火がついたように泣き出し、止まらない―――。ネットで検索? 救急病院に駆け込む? ネット上にはデマ情報も多く、実際子どもの緊急受診は「9割が軽症」だという。小児科医にスマホで医療相談ができる「小児科オンライン」は、親の不安を解消するサービスだ。

 

9割が軽症の救急受診

「安心して子育てができる社会」というスローガンがある。裏を返せば、子育てには不安があることを意味している。子育ての不安というと、経済的な面がよく注目されるが、「情報」の面でも深刻だ。

近年「ママサイト」と呼ばれる育児情報を掲載するサイトに、嘘や不確実な情報が多いことが問題になっている。このようなサイトでは、閲覧数を稼ぐために、親の不安につけ込むような情報が掲載されることがあるのだ。

子どもは日一日と成長しながら、泣き止まない、すぐに熱を出すなど、大人とは異なる反応を示す。特にはじめての子どもであれば、どう対処していいかわからないこともあるだろう。

実は子どもの救急患者は、9割以上が当日のうちに帰宅する軽症者だ。親に子育ての不安があることの証拠であり、残り1割に重い病気が隠れていることもあると思えば、仕方のない行動ともいえる。

インターネットはその不安の受け皿になっているが、信頼性が高いとはいえないのが現状だ。このミスマッチを解消するポテンシャルのあるサービスが、「小児科オンライン」である。

小児科オンラインは小児科に特化した遠隔健康医療相談サービスだ。LINEか電話で専門の医師に子どもの病気について相談することができる。受付時間は平日の夜18~22時、個人ユーザの場合、料金は月額3980円の定額制で、時間は1回10分。回数の制限はない。

親の不安を解消できるだけでなく、不要な救急受診が減少すれば、人手不足が指摘される小児科の医療現場の負担軽減にもつながる。2016年5月に提供を開始し、厚生労働大臣賞や経済産業大臣賞を受賞するなど、今注目されているサービスだ。

運営の株式会社キッズパブリック(Kids Public)代表・橋本直也氏は、現役の小児科医。自身の医療現場での経験から、子どもの健康は親のリテラシーや孤立など、さまざまな社会構造によって規定されていることを知り、起業に至ったという。

「各家庭にリーチすることを考えると、ネットを利用しない手はないでしょう。特に、今はスマホ時代で、親御さんの手元には1人1台、ネットにつながるデバイスがある。これを応用して、自分なりに何かできないか、と」

その結果、生まれたサービスが小児科オンラインである。現在同社では同様のシステムで、産前産後の女性が産婦人科医や助産師に健康医療相談できる「産婦人科オンライン」(代表=重見大介氏)もテストサービスとして提供している。

 

 

株式会社Kids Publicの代表取締役/医師である橋本直也氏。2009年日本大学医学部卒。聖路加国際病院にて初期研修、国立成育医療研究センターにて小児科研修を行ったあと、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修士課程に進学。現在は小児科オンラインの運営をしながら、都内小児科クリニックにも勤務。

 

 

安全性に配慮したサービス展開

しかし、「実際に対面で会わなくてもいいのか」と疑問に思う人もいるだろう。現在、パソコンやスマホなどのICTを利用した「オンライン診療」はいくつかの病気について許可されており、2018年4月からは診療報酬も設定されている。

ただし「初診は原則として直接の対面診療」「3カ月に1回は対面診療をする」などの条件もある。一方、そもそも「診療」ではなく「相談」であるため、こういった条件が不要という解釈なのが、小児科オンラインのような健康医療相談だ。

「弊社のサービスについては、開発段階から都度、監督官庁に相談のうえ、問題がないという判断をいただいて、運営しています」と橋本医師。安全性にも配慮し、見逃しなどがないかについても、実証実験を行っている。

同社は100人の保護者を集めて、サービスを利用してもらった。このうち「念のために病院に行ってください」というアドバイスをしたのは3人。24時間後にメールアンケートを取ったところ、回収率は86パーセントで、見逃しは0件だった。

実際の相談には「泣き止まない」などの内容が多い。もちろん、これが重篤な病気のサインということもあり得るし、日常診療と比較しても、できるだけ大事を取るアドバイスをしているという。

スマホから動画を送ってもらったり、テレビ電話で話したりすれば「ある程度の判断はできる」と橋本医師。登録ユーザは2018年4月現在までに数千人にのぼるが、大きなトラブルが起きたことは未だに1件もないという。

小児科オンラインに参加する医師は現在、首都圏を中心に37人。医師相手のビジネスは、to B(usiness)やto C(onsumer)をもじってto D(octor)といわれるほど特殊で、難しい。どのように参加を促しているのだろうか。

「小児科は相手が常に子どもであるという特殊な科です。社会的構造の影響を受けやすい存在と常に関わりを持つことになるため、より社会とのつながりを意識する医師が多い。子どもの健康を守るという理念に共鳴してくれやすいのです」

同サービスでは、親の不安を解消することで「その地区における子育ての不安が減った」「必要がない緊急受診が減った」など、自己満足ではなく結果の評価にこだわるという。そのために、医師もモチベーションを保ちやすい。

 

 

「小児科オンライン」利用者は、トップページからまず予約日時を選択。フォームに基本情報を入力し、時間になったら電話やLINEメッセージ、LINE音声/動画通話で相談を開始する。同様のシステムで試験運営する「産婦人科オンライン」(終了時期未定)は、連絡手段はLINEのみだが、産婦人科医だけでなく助産師にも相談可能だ。 【URL】https://syounika.jp/

 

 

医師不足解決につながる可能性

また、医師不足・偏在が大きな社会問題になる中、このようなサービスは「相談という限界はあるが、小児科医へのアクセシビリティを補完する可能性があるかもしれない」と橋本医師は語る。現在はその実績を積み上げている段階だ。

例として、2018年5月から開始される鹿児島県錦江町と連係した実証実験がある。同町は20年以上、小児科医が不在の自治体で、町民は車で30分ほどかけて最寄りの小児科クリニックを受診していた。

この実験では、同じく小児科医不在の埼玉県横瀬町とも連係。一定期間、自治体が費用を負担する形で住民に同サービスを利用してもらい、相談内容やニーズを分析。同サービスにより地域住民の健康に良い影響があるかを調べるという。

とはいえ、定額制というビジネスモデルでは、相談件数が多ければ多いほど利益を上げにくい。継続性はどう担保するのか。橋本医師は「エンドユーザである親御さんからお金を集めたいというモデルではない」と断言する。

収益化のモデルはB to B to C。初期から提携したのは健康保険組合で、同サービスを導入している健保加入者は、無料で小児科オンラインを利用できる。また、企業の福利厚生として、小田急電鉄などと同様に契約する。

「派手なビジネスではないが、なんとか実績を積み上げ、継続性を持たせることができている」と橋本医師はいう。医師不足・偏在だけでなく、受診する必要のない子どもが受診しなければ、医療費の抑制につながる可能性もあるサービスだ。

「私が研修医のときに、先輩から“子どもたちが医者のところに行くんじゃなくて、子どもたちがいるところに医者がいつもいるべきなんだよ”といわれました。今はその環境がスマホによって実現できる時代。積極的に活用していきたいです」

一方で、橋本医師は「今後は既存医療の連係をさらに強めていきたい」という。「対面が最強の医療である」という想いは変わらず、「対面診察までのタッチポイントを増やす」というところに、このサービスの意義があると強調した。

「医療崩壊」への危機感が叫ばれて久しいが、医師不足・偏在といった問題にも、医療費高騰に対する問題にも、未だに有効な手は打たれていない。本来、そのための実験や研究というのは、国が率先して行うべきだろう。

そうなっていない現状を、小児科オンラインのように、民間から好転させる兆しが見え始めている。「子育ての不安」という少子化傾向にある国の未来に直結する問題を、スマホというテクノロジーが解決する可能性に、私は望みをつなぎたい。

 

 

公式WEBページでは、小児科オンラインに寄せられる相談の例が掲載されており、親が気になる内容をきめ細かくサポート。また、登録医師は首都圏中心に2018年4月現在で37人。利用者数が増えると医師数も多く必要になるため、バランスを取りながらメンバーを集めている。

 

 

事前に予約を行うことで、平日18~22時で待ち時間なく相談を受けられる。LINEのメッセージ機能を使うことで、子どもの容態を写真で送ることも可能だ。

 

小児科オンラインのココがすごい!

□LINEのメッセージや通話機能で小児科医にオンライン医療相談できる
□健康保険組合や企業の福利厚生としても利用できる
□小児科医ゼロの自治体と提携して親の悩みに応える