教育・医療・Biz iOS導入事例

iPadで実現する、生徒の「個」にこだわる学び

文●神谷加代

Apple的目線で読み解く。教育の現場におけるアップル製品の導入事例をレポート。

どんなに優れたツールでも、それを教科書の内容を教えるだけの授業で使ってしまっては活かされない。教育現場においてテクノロジーが最大限の効果を発揮するためには、学びのゴールを変えることが重要だ。同志社中学校の反田任教諭は、“生徒のオリジナリティ発揮”をゴールに、「個」を重んじた学びに挑戦している。

 

“教科”で終わらせない

「英語の教師がこんなことを話すのはダメかもしれないけど、私は英語が教科だと思っていません」

そう話すのは、私立同志社中学校(京都府)で英語を教える反田任教諭だ。

「英語は言葉なので、それを通じて何を学ぶかが大切ですし、生徒には英語はツールであることを知ってほしいです。それに今の生徒たちは、生涯学び続ける『Lifelong Learner(生涯学習者)』になることが大事だと言われていますし、そうした人を育てるためにも、英語を“教科”で終わらせてはいけないと思います。生徒にもテストで点数を取るだけの学習をしてほしくないですね」

人生100年時代と言われるようになった今、過去に身につけた知識やスキルだけで一生食べていくことはできない。生徒たちは、自分の人生を豊かにするために、新しいことを学び続ける力が必要であり、そのために“学び方を学ぶ”ことが重要だ。同志社中学校のiPad導入も、そうした未来を見据えて始まった。

同志社中学校は、2014年度から中学1年生を対象にiPadミニを導入し、1人1台体制をスタートさせた。反田教諭はその2年前から同校のICT担当として導入準備に携わり、実証研究、端末選定、ICT環境整備、活用コンセプトなど、iPad導入に関わるすべてを進めてきた。反田教諭は「これからの時代は、デバイスを学習に活用するのは当たり前で、これを使って教師が今まで教えられなかったことに挑戦していくことに価値があると考えています」と語る。同志社中学校は今年度からiPadミニをiPadへ変更し、現在は約900台の端末が稼働しているという。

 

 

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Apple Distinguished Educator 反田任教諭

私立同志社中学校教諭。EdTech Promotions Manager。2014年度から同校における1人1台のiPad導入を推進し、Wi-Fiネットワークや学習ポータルサイトの構築・運用なども担当している。最近はAI英語学習ロボット「Musio」やオンライン英会話を授業で活用し、アウトプット重視の英語4技能統合型の授業を実践している。Apple Distinguished Educator Class of 2015。

 

 

個に応じた学びを

そもそも反田教諭がiPadに惹かれたのは、なぜか。

「初代iPadを初めて見たときに、“これは授業で使える!”と思いました。操作性が良くて、授業でいろいろなことができるとイメージが広がりましたね」

その後、同志社中学校は2012年にiPadを20台導入し、試験的に授業での活用をスタートさせた。反田教諭は、学習ポータルで動画教材を使った授業や、電子書籍アプリ「iBooks」を使って、教科書の題材に基づいた音声やデジタル教材・小テストなどの活用を始めた。すると、試験導入2カ月後のアンケート結果で、97%の生徒から「iBooksを使った授業が良かった」との回答が得られた。その理由として、“自分のペースで勉強できる”、“何度もわからない部分を聞くことができる”“授業の途中でわからなくなっても諦めることがなくなった”という意見が寄せられたという。

反田教諭は、こうした生徒たちの反応は予想外だったと話す

「“iPadでいろいろな動画教材を見られて楽しかった、面白かった”という意見が多いと予想していました。ところがこのアンケート結果を見たときに、生徒たちは自分のペースで学習を進められることに価値を感じているとわかりました。そんな経験からiPadはひとりひとりの学習を創り出すツールで、個に応じた学びを実現するために活用していくことが大切だと思ったのです」

それからというもの、反田教諭はよりiPadを活用して、さまざまな授業を実践した。授業支援ツールを活用した英語プレゼンテーション、音声認識アプリを用いた発音練習、ネット上の動画やニュースを活用した授業など、英語学習と親和性の高いiPadのメリットを授業に取り入れて、生徒たちの学びの選択肢を広げた。

そして現在は「iTunes U」の利用が多いという。具体的には、ひとつの単元を生徒が自分で学習を進められるようコースが作られている。教科書の音読から始まり、単語クイズと単語の発音練習、文法の解説、ワークシート、さらにはプレゼンテーションや調べ学習など、基礎知識の内容とアウトプットの活動が体系的に網羅されたコースが提供されている。たとえば、キング牧師の単元であれば、生徒たちは教科書の内容を学んだあとに、キング牧師について調べ、その内容を発表するプレゼンテーションに取り組む。その際の参考資料として、実際のスピーチ動画やキング牧師の人物像がわかるURLをiTunes Uに載せておき、生徒たちの知的好奇心も刺激する。

 

学びのゴールが変わった

反田教諭はiPadを活用した授業を振り返って、「学びのゴールが変わった」と述べた。これまでの授業は、教科書の内容を教えることが中心で、生徒たちが英語を理解することに重きを置いていた。しかし今では、生徒がiPadで学習を進めたり、わからないことを調べたり、さらには自分の考えや意見を共有・表現しやすくなったため、“生徒たちのオリジナリティ”を学習のゴールにできるようになった。プレゼンテーションや動画作成、グループ討論やフリーライティングという具合に、教科書の内容を学んだあとに、生徒たちがオリジナリティを発揮できるアウトプットをゴールにするような授業デザインにしているそうだ。

それだけではなく、反田教諭の授業は今もなお進化している。企業と協力してオンライン英会話の教材開発に取り組んだり、英語学習AIロボット「ミュージオ(Musio)」を使った授業にも挑戦したのだ。同志社中学校では、ミュージオを20台導入して専用教室を作り、生徒が2人1組で英会話学習ができる環境も整えた。ちなみにミュージオは、ネイティブ英語で自由な会話ができるチャットモードと、専用教材を使ってレベル別に学ぶチューターモードがある。反田教諭は「ロボット相手だと生徒たちが失敗を恐れず、通じるまで何度でも挑戦するのが良いですね」と話す。ほかにもシンキングツール「E-VOLVOX」を活用し、「スマホの良い点・悪い点」を考える授業を実施した。出来上がったシンキングマップを見ながら、オンライン英語の先生とディスカッションをするなど、多様なアウトプットを実践している。

「生徒たちには、テクノロジーが普及して誰もがデバイスを持つようになると、知識を覚えていることよりもコラボレーションや、人間にしかできないことは何かを知っていることのほうが大切だと気づいてほしいです。ADEの研修でも、そうした内容のことが取り上げられており、我々が目指す方向性は間違っていないと確信しています」

iPadやほかのテクノロジーの活用をとおして、生徒たちには未来に対するマインドセットを持ってほしい。英語の授業に込められた反田教諭の想いは深い。

 

 

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シンキングツール「E-VOLVOX」を活用して、「スマホの良い点・悪い点」に関する自分の考えをまとめ、それを元にオンライン英会話でディスカッションする授業の様子。「E-VOLVOX」は、情報を平面的に広げていくのではなく、階層ごとにまとめられるのが特徴だ。

 

 

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動画作成アプリ「Clips」を活用した英語プレゼンテーションの作品。生徒が話す英語に対して、リアルタイムでキャプションが付けられる。生徒はそれを見ながら、自分の英語が通じたかどうかを確認し、正しく英語のテキストが表示されないときには、自分の口の形を見ながら発音をチェックするという。

 

 

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反田教諭は、授業の内容は体系的にまとめやすい「iTunes U」を活用し、生徒や保護者との連絡は教育用SNS「Edmodo」を利用しているという。

 

 

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英語学習AIロボット「Musio」を使った授業風景。ロボット相手の英会話は、人間が相手するときと比べて、生徒が失敗を恐れたり、恥ずかしがらずに話せるのがメリットだという。オンライン英会話の前に練習で使うとのこと。

 

反田任教諭のココがすごい!

□英語を教科として捉えず、あくまでもツールとして教えている
□iPad1人1台のメリットを最大限に活かして、個に応じた学びを重んじている
□常に最新のテクノロジーを取り入れて、生徒に未来への考えを持つよう促している

 

Apple Distinguished Educator(ADE)…Appleが認定する教育分野のイノベーター。世界45カ国で2000人以上のADEが、 Appleのテクノロジーを活用しながら教育現場の最前線で活躍している。



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