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日本人の“生きがい”を世界へ

文●三橋ゆか里

米国LA在住のITライター・三橋ゆか里氏の最新テックトレンドウォッチ!

新年明けましておめでとうございます。2018年は、いつにも増して変化の年になりそうです。

その変化のひとつが、英語で本を出版すること。きっかけは、イギリスの公共放送局である「BBC(英国放送協会)」で執筆した記事でした。そのタイトルは、“Japanese Concept to improve work and life”。日本人にとっての「生きがい」について書いたものです。

読者からの記事への反響は大きく、それを読んだロンドンの独立系出版社の編集者からお声がかかりました。お声がかかるといっても、正式な契約に至るかどうかは著者の企画書次第。20~30代の若い世代に向けた本であるという点を除いては、その内容のすべてが著者に委ねられていました。寝かせる期間も含めて1カ月ほどかけて準備した企画書が無事とおり、今年中旬に出版を控えています。

さて、日本人なら誰でも知っている「生きがい」という概念。テレビや雑誌などのメディアでも、生きがいという言葉を見聞きします。日常的に「わたしの生きがいって何かしら?」と問うようなことはなくても、その言葉自体は日本人の生活に深く根づくもの。ところが、「生きる価値」「生きる甲斐」を表現するこの言葉は、日本語にしか存在しないんだそうです。

本の中で、複数名の日本人に彼・彼女の生きがいを紹介します。日本の伝統工芸を活かし、0から6歳までの子ども向けオリジナル商品をつくる「和える(aeru)」の矢島里佳さんにもお話を伺いました。国際的なカンファレンスに参加した際、生きがいという概念に感銘を受けて「生き甲斐」と足の甲に刺青を入れている男性がいたという興味深いエピソードを教えてくれました。

同様の概念はあったとしても、他言語にはそれを一言でピシャッと言い表す言葉はない。そのため、英語圏を中心にここ数年で「生きがい」という言葉への注目が高まっているのです。生きがいをテーマにした英語本は、2017年だけでも何冊か出版されており、たとえば、脳科学者の茂木健一郎さんも著者のひとり。ほかにも、日本在住のフランス人著者など、世界の視線が「生きがい」に集まっていることを感じさせます。

生きがいという言葉とその概念がここまで広く認知されることになった明確な経緯は、残念ながら不明です。ただ、それに少なからず貢献したであろう、とあるベン図があります。英語で “ikigai venn diagram”と検索してみてください。生きがいという言葉を中央に据えたベン図が、インターネット上でたくさんシェアされていることがわかります。

実際のベン図を見てもらうとわかるように、そこには生きがいの4つの条件が描かれています。意訳すると、「心底好きなこと」「世界が必要とすること」「得意なこと」「対価を得られること」です。この中で、日本人として違和感を覚えるのが「対価を得られること」という条件ではないでしょうか。ところが、現状多くの西洋人が、生きがいを「なんらか仕事に関わるもの」という風にとらえているのです。

人によっては、このベン図にぴったり当てはまる生きがいを持っているかもしれません。そもそも、生きがいは教科書から学ぶものではなく、日々を生きていくうえで見つけていくもの。そのため、同じ日本人だとしても、その捉え方は十人十色です。とはいえ、多くの日本人にとって、生きがいは「日常や生活に根づいたもの」ではないでしょうか。

矛先が仕事に限定された狭義の生きがいを改め、日本人にとっての本来の生きがいについて伝えたい。生きがいという言葉を未知とする外の人に伝えることの難しさと面白さを味わう日々が、まだしばらく続きそうです。

 

 

 

 

Hironori Fukuda

企業や教育機関向けのApple製品の活用提案や導入・運用構築を手がける株式会社Tooのモビリティ・エバンジェリスト。【URL】www.too.com/apple




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