iOSから広がる医療系アプリ制作のチャンス|MacFan

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iOSから広がる医療系アプリ制作のチャンス

文●堀永弘義

アップルが公開している3つのキット(ヘルスキット、リサーチキット、ケアキット)は、医療関係者にとって常に注目すべき項目である。特にこれから医療系アプリの制作を考えている人にとっては欠くことができないものだ。どのようなアプリにこれらのキットが用いられているのかを詳しく見ていこう。

医療と密接に関わるアップル

近年のアップルは、iPhoneやiPad、アップルウォッチなどの自社製デバイス/アプリだけでなく、サードパーティ製の医療系アプリ/ガジェットも含めて医療と密接に関わっている。

ここ3年間にわたって、アップルは医療系アプリを制作する開発者を驚かせてきた。これは、アップルが医療業界に対して自分たちのデバイスを使ってほしいことの表れである。筆者は米国に在住しており、米国のアップストア(App Store)を日常的に使い、アップルが英語圏へ向けて配信しているアプリを中心に情報をアップデートしている。日本ではまだ事例が少ないケアキット(CareKit)アプリを含め、現在どのような医療系アプリがトレンドなのかを紹介しよう。

前提として、アップルが公開しているヘルスキット(HealtheKit)、リサーチキット(ReserchKit)、ケアキットという3つのキットは、開発者のための「テンプレート」だと思っていただくとわかりやすいかもしれない。

まず、ヘルスキットは健康関係のデータを、アップルの「ヘルスケア」アプリに連係させるための仕組みだ。ヘルスキットには、数々の医療系ガジェットを、メーカーの専用アプリに留まることなく使用できるメリットがある。また、その医療データを他のアプリで使用したり管理できる機能も備えている。

アップルの支配下に入るのを嫌ったメーカーやアプリ開発者がヘルスキットをあえて使わない、という話を以前は耳にした。しかし、現在ではヘルスキットを使用するアプリがほとんどだ。ヘルスキットは「フィットネス/エクササイズ」や「食事・栄養」、「ヘルスケア」などの分野に別れ、さまざまなアプリが「ヘルスケア」アプリと連係している。

ヘルスキットに関してはユーザへの浸透度合いが高く、無意識に使用している人も多いだろう。一度自分のiPhoneから「ヘルスケア」アプリの内容を見てもらいたい。アップルウォッチを使用していたり、運動を記録するアプリを使用している人は、消費カロリーや歩いた距離、運動時間などのログを確認することができるだろう。

日々の運動を記録するアプリでは「ナイキプラス(NIKE+)」や「フィットビット(Fitbit)」といったアプリが、ヘルスキットを用いたものとしてリリースされている。どのようなアプリがあるのか知りたい人は、アップストアの[カテゴリ]タブから[ヘルス&フィットネス]を選択しよう。その中にある「ヘルスケア App」にて、ヘルスキットを用いたアプリが特集として数多く紹介されている。

 

 

アップストアの[カテゴリ]の中にある[ヘルス&フィットネス]を選択すると、「ヘルスケア App」にてヘルスキットを用いたアプリが特集として紹介されている。

 

 

一般企業でも利用可能

医学研究のために作られた仕組みであるリサーチキットは、2015年3月に公開された。

リサーチキットのモジュールには、調査を構築する「サーヴェイ(Survey)」、iPhoneのセンサを使用する「アクティブ・タスク(Active Task)」、試験の説明と同意のテンプレート「コンセント(Consent)」がある。開発者はこれらのモジュールを組み合わせてリサーチアプリを作成。iPhoneには、加速度、カメラ、マイク、GPSなどのセンサが組み込まれているが、これらを上手に利用したアプリが多く作られている。

慶應義塾大学医学部が開発した「ハート&ブレイン(Heart & Brain)」も、加速度センサやジャイロセンサを利用したリサーチキットアプリだ。また、生後間もない新生児の排便を記録するアプリ「Babyうんち」は、聖路加国際大学とウンログ株式会社が共同で作ったアプリだ。このアプリは胆道閉鎖症の早期発見を目的として作られたものである。

また、順天堂大学もリサーチキットを使用したアプリを積極的に開発しており、パーキンソン病QOLリサーチアプリ「iPARKSTUDY」、ぜんそくの実態調査アプリ 「ぜんそくログ」、ロコモティブシンドローム(ロコモ)研究アプリ 「ロコモニター」を日本国内で公開している。

変わりどころとしては、メガネブランドとして有名な「ジンズ(JINS)」が、ストレスやモチベーションなどの精神状態を測定しデータを集めるアプリ「ジンズ・ミーム・メディカル・ラボ(JINS MEME MEDICAL LAB)」を制作している。自主臨床研究という位置づけで、医療機関ではない一企業がリサーチキットを使用できる良い例である。

また国外の事例として、米デューク大学は「オーティズム&ビヨンド(Autism & Beyond)」というアプリを開発。このアプリは、iPhoneで再生する短い動画を見ている子どもの表情を、iPhoneのカメラを使って録画し、その表情を解析し研究に役立てるものだ。

リサーチキットは多くのデータを取得して医療研究に役立てることが目的だが、日本ではまだ認知度が低く、アップストアのランキングでも「メディカル」カテゴリで100位以内にリサーチキットアプリが1つもランクインしていない。これからはアップル・ジャパンの協力も含め、多くの人にリサーチキットを用いたアプリを使ってもらうことが課題となりそうだ。

 

 

Heart & Brain

【開発】KeioUniv
【価格】無料
【カテゴリ】App Store>メディカル

慶応義塾大学が開発したハート&ブレイン。iPhoneに搭載されている加速度センサやジャイロセンサを上手に利用したアプリの一例だ。

 

 

iPARKSTUDY

【開発】順天堂大学
【価格】無料
【カテゴリ】App Store>メディカル

iPARKSTUDYは順天堂大学が開発したパーキンソン病QOLリサーチアプリケーションだ。

 

 

Autism & Beyond

【開発】Duke Health
【価格】Free
【カテゴリ】App Store>Medical

オーティズム&ビヨンドは、動画を再生しながらiPhoneのカメラで子どもの表情を捉え、ありのままのリアクションを分析できる。2016年10月18日時点で日本国内では未リリース。

 

 

効率よくアプリを開発するために

アップルは2016年3月にケアキットを公開し、開発者のためにさまざまなモジュールを用意して、医療アプリを効率よく開発できるものとした。ケアキットには、薬の服用を管理する「ケア・カード(Care Card)」、痛みや血圧などの測定「シンプトン・アンド・メジャーメント・トラッカー(Symptom and Measurement Tracker)」、チャートの表示「インサイト(Insights)」、家族や友人とのデータの交換「コネクト(Connect)」などのモジュールが用意されている。

ケアキットを使用したアプリには、糖尿病患者のためアプリ「ワン・ドロップ(One Drop)」や胎児の授乳、オムツ交換などを記録をする「グロウ・ベイビー(Glow Baby)」、健康を記録するライフログ「ダイアリー(The Diary)」などがある。

また、ケアキットは直接人間の健康管理を目的としなくても使用できる。「ドッグキット(dogKit)」という犬の散歩や排便の記録を取るためのアプリはその一例だ。

 

 

One Drop

【開発】Informed Data Systems, Inc.
【価格】無料
【カテゴリ】App Store>ヘルスケア/フィットネス

ワン・ドロップは糖尿病患者のためのアプリだ。ユーザインターフェイス(UI)も秀逸なので、一度インストールをして試していただきたい。

 

 

The Diary

【開発】The Diary Corporation
【価格】無料
【カテゴリ】App Store>ヘルスケア/フィットネス

健康を記録するダイアリー。こちらもUIが優れており、体重や体温だけでなく、BMIや常用薬なども簡単に記録できるのが特徴だ。

 

 

dogKit

【開発】Matteo Crippa
【価格】無料
【カテゴリ】App Store>ヘルスケア/フィットネス

犬の散歩や排便の記録を取れるドッグキット。直接人間の健康管理を目的としたアプリでなくても使用できる点も、ケアキットが持つ優れた点だ。

 

 

少しのアイデアが命を救う

現在医療系アプリとしてリリースされているものは、一般的な疾患であったり、生活習慣病を対象としたものが多い。これは医療関係者ではないアプリ開発者の頭の中にあるものを形にしているからだ。医療関係者であれば、より自分の専門分野に特化したログの記録や、チェック項目がある。実際、希少な病気のほうがデータやアプリを必要としている度合いが大きいといえる。

医療関係者は今回紹介した3つのキットが登場したことにより、専門分野のアプリを制作するチャンスが広がったと捉えてほしい。もし身の回りにアプリを制作してくれる知人がいない場合や、発注方法がわからない場合は、是非筆者に相談していただきたい(Twitter:@toyaku)。 小さいアイデアが多くの人の命を救ったり、健康を取り戻す例もある。そんな潜在的な力が、この3つのキットには含まれているのだ。

紹介したアプリには、残念ながら日本のアップストアからダウンロードできないものもある。その理由として、リサーチキットであれば、国を限定して対象者を絞りたいからだ。そのアプリの概要を垣間見るには、WEBからアプリ名を検索すれば、より詳しいWEBページやスクリーンショットを見ることができるので、気になる方はチェックしてみてはいかがだろうか。

筆者は今回紹介したような国内外の医療系アプリを集めた著書『絶対使える医療系iPadアプリ300』の続編を出版しようと考えている。しかし前作の出版社が続編の出版を断念したため、クラウドファンディングを利用した自費出版という形を考えている。こちらに関しても興味を持たれた方は、以下のサイト(https://readyfor.jp/projects/iPad_iPhone_medicine/)より購入予約をしていただければ幸いである。