教育・医療・Biz iOS導入事例

1人1台のiPad Proが促進する創造性教育

文●神谷加代

2016年度より12.9インチのiPadプロ(セルラーモデル)を導入した瀧野川女子学園中学高等学校。中学1年生から高校2年生まで1人1台体制を実施し、計420台のiPadプロが稼働する。起業家精神を育む創造性教育に重きを置く同学園は、iPadプロを通じ生徒たちに将来のキャリアビジョンを描かせている。

iPadプロの教育効果

「この学校にはユニークな授業をする先生が多い。Macを使えばもっと授業が楽しくなるんじゃないか」

そんな思いを持って、2010年に瀧野川女子学園中学高等学校(以下、瀧野川女子学園/東京都北区)に着任したのが理事・副校長の山口龍介氏だ。以来、同学園の教育改革に取り組んでいる。

瀧野川女子学園はもともと、“自分が望む人生を自分で実現できる能力と精神の育成”を目指し、起業家精神を育む校風がある。TEDトークス(TED talks)のようなプレゼンを取り入れたり、社会人のマナーを学んだりといった、実社会で役立つ実践的な授業が多い。

このような授業にMacを使ったら、どんな化学反応が見られるか。iMac40台を導入してキーノート(Keynote)のワークショップを実施したところ、たった2時間で生徒のプレゼンが見違えるほど伸びたという。

期を同じくして、中学3年生の論文発表会はアップルストア銀座のセミナールームで開催するようにした。学校とは違う非日常のステージを用意し、彼女たちのモチベーションアップを図る目的だ。1年の制作期間をかけて取り組む論文は次第に、面白いテーマが集まるようになるとともに、キーノートだけでなくiMovieやページズを使って多様な表現をする生徒も増えてきたという。

その後iPadエアがリリースされた2013年頃から、同学園はiPadを活用して場所を選ばず学習できる環境づくりを検討し始める。学習プラットフォームの「iTunes U」や「Google Apps for Education」の進化にも後押しされ、2015年度にiPadエア2を中学生全員と高校1年に導入した。

ところが、2015年11月にiPadプロ発売のニュースを見た山口氏。A4とほぼ同サイズの12.9インチの大画面に、アップルペンシルで手書きする姿を見て、「これだ!」と思ったという。

「まるで紙に鉛筆書きするかのように、滑らかに筆を走らせる様は、従来のスタイラスペンとはまったく異なるように思いました。実際に使ってみて、その操作性の良さを実感しています。創造性を育む教育の現場に、手書きは欠かせません。イノベーションといえば大袈裟かもしれませんが、将来のインターフェイスとしての可能性を感じました」

すでにiPadエア2を導入していたが、この春、12.9インチのセルラーモデルiPadプロ(128GB)に機種変更した。キャリアはauを選択し、端末は学校がKDDIから購入して、中学1年生から高校2年までの生徒全員に配付。通信費などの一部を保護者が負担する仕組みだ。セルラーモデルにもこだわり、Wi-Fiを探す手間なく、いつでもどこでもクラウドにアクセスして学習できる環境を実現した。デバイスの買い替えにはもちろん費用がかかるが、iPadプロであれば、それだけの教育効果が見込めると思い切った決断を下したのだ。

 

 

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東京都北区にある瀧野川女子学園中学高等学校。全校生徒数は約500名。大正15年の創立以来、「剛く、正しく、明るく」の校訓のもと、起業家精神の育成を目指す。

 

 

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瀧野川女子学園 理事・副校長の山口龍介氏。東京工業大学大学院博士課程在学中の2010年より同学園に着任し、教育改革と経営改革に取り組む。学園創立者の4代目にあたる。専門はロボット創造学と経営。筋金入りのアップル好きで、G4 CubeからのMacユーザ。

 

 

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iPadプロで協働学習を行う生徒たち。12.9インチの大画面は、手書きを活かせるサイズ感。調べ学習のときにスプリットビューを使いながら、ノートに書き込むのも便利だ。

 

 

創造性教育で「生きる力」を育む

山口氏が瀧野川女子学園に着任して以来、もっとも力を入れたのが「創造性教育」と呼ばれる新たなカリキュラムの導入だ。同氏は、それまで教員が工夫を凝らして実施していた学年ごとの協働学習や課外活動などをさらに発展させるべく、東工大の創造教育やスタンフォード大学のデザイン思考などを取り入れた体系的な学びに再構成した。2015年度からは、学校設置科目として本格的に位置づけ、中1から高2までの生徒が学ぶ。

創造性教育とは、キャリアビジョンの発見、起業家精神の育成とプロダクティブな創造性の育成を目指す科目だ。具体的には、中1~中2は街の再デザインや大道芸ロボット作りのグループプロジェクトに取り組み、中3では個別の研究テーマを見つけて論文作成に挑む。高校からは社会とのつながりを重要視し、革新的な商品の企画に挑み、学園祭の模擬店を通して起業を体験する事業化実習が設けられている。

「将来、今の職業の半分がなくなると言われていますが、その代わりに新しい仕事も生まれ、考え方によっては面白いことができる社会です。生徒たちには、そんな社会で自分のやりたいことを実現できる女性になってほしい。そのための授業を創造性教育として実施しています」

実際に取材した中3の創造性教育の授業では、“通学体験をリデザインする”をテーマにした協働学習が行われた。生徒たちは2人1組に分かれて、理想的な通学スタイルについてアイデアを出し合う。アイデア出しには、会議支援アプリ「メタモジシェア(MetaMoji Share for Business)」が用いられている。いろいろなアプリを試した結果、iPadプロが持つ手書きのクオリティを、最大限発揮できたのが同アプリだったという。生徒たちは思考を止めることなく、サクサクとiPadプロに書き込んでいく。ラフな走り書き程度のメモだが、生徒たちが会話を発展させながらアイデアを創出する姿が印象的だった。

一方、同授業を受け持つ山口氏は、その様子を手元のiPadプロで確認する。メタモジシェアでは個々のノートを共有できるため、リアルタイムで話し合いの内容を把握できる。必要があれば、アップルTVを用いて教室前のディスプレイに写し、全員で共有することも可能だ。

 

 

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授業中に配られていた紙のプリントはPDFファイルに置き換えられた。授業前にダウンロードし、予習に活かす生徒もいる。PDFファイルを開くアプリは特に指定していないが、生徒の多くはメタモジシェアを利用しているとのこと。PDFへの書き込みに欠かせないアップルペンシルは、生徒全員が購入している。

 

 

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中学3年生の創造性教育の授業。この日は、「通学体験をリデザインしよう」という課題に協働学習で取り組み、デザイン思考とは何かを学ぶ。アイデア出しで活躍するアプリもメタモジシェア。iPad導入と期を同じくして、従来の机を2人用の長机に変更し、協働学習がしやすい体制を整えた。

 

 

時代の先を行く教育機関として

ほかに、どのようなiPadプロの活用があるのか。取材をした高1物理の授業では、生徒たちがPDFファイルの授業プリントに沿って学習していた。iTunes Uからデータをダウンロードし、メタモジシェアで開いて直接書き込む。これにより授業で配る紙の量が大幅に削減されただけでなく、いつでもどこでも見直せる生徒オリジナルの参考書が出来上がっていく。

この授業では、板書もキーノートにまとめられテンポの良い授業が行われていた。授業で使用したキーノートファイルも、iTunes Uで共有され、生徒のiPadプロからダウンロードできる。

一方で、学校生活に関する連絡事項の伝達や情報共有は、Google Apps for Educationのサービス群にある「グーグル・クラスルーム」を使用している。グループで課題を仕上げる場合など、生徒たちはフェイスタイムやグーグル・ハングアウトを使って家庭から打ち合わせをすることもあり、共同編集がしやすい「グーグル・ドキュメント」などを重宝しているようだ。同学園では生徒の通学範囲が広く、学校に遅くまで残って作業をするのは難しい。「続きはフェイスタイムで」と生徒同士で約束し、学校外の時間も有効に活用する姿が見られる。

「iPadプロは“手書き”、“クラウド”、“いつでもどこでも”という教育利用に必要なタブレットの要素を満たした究極のデバイス。無駄な時間を減らし、授業で生徒と対面しているときにしかできないことに集中できるようになりました」

山口氏は、今後もさらに取り組みを充実させ、時代の先を行く教育機関でありたいと、力強く語る。

 

 

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生徒が書き込んだノートは、リアルタイムで共有。各グループの進捗状況を、教師は手元のiPadで確認できる。作成したノートをメールで送ることも可能だ。メタモジ・クラスルームという教育機関向けのサービスもあるが、よりシンプルで応用範囲の広い有料版のメタモジシェアを選択した。

 

 

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中学3年生は毎年2月にアップルストア銀座のセミナールームにて、TEDトークススタイルの卒論発表会を行う。1年間自分の好きなこと、興味のあることを調べて、その魅力を皆の前で伝えることが目的。生徒の多様な個性が見られる機会だ。

 

 

【学習進度】
生徒のプレゼンだけでなく、教職員の授業運営にも積極的に活用されているキーノート。板書が多い日本史の授業では、キーノートを使用するようになってから板書にかかる時間を大幅に削減し、学習進度が2倍に伸びたという。

 

【マシン】
以前はパソコン室のマシンにウィンドウズPCを使用していたが、2010年にiMac40台とOS Xサーバを導入。iMacのスタイリッシュな出で立ちは、“コンピュータは情報の授業で使うためのもの”という生徒たちのイメージを刷新した。教職員用の校務パソコンも13インチのMacBookプロに変更している。



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