「ITで何をするか」を重視する学園が選んだMacでWinの仮想化|MacFan

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「ITで何をするか」を重視する学園が選んだMacでWinの仮想化

文●木村菱治

東京・町田市にある私立玉川学園は幼・小・中・高・大・院の総合学園だ。小学生から高校生までの12年間の教育に、MacBookプロと「パラレルス・デスクトップ」を組み合わせて導入し、授業内容に応じたOSを自由に使える環境を構築しつつ、同時に管理の手間も削減している。

ノートや鉛筆のように

玉川学園は、約61万平方メートルの広大なキャンパスに幼稚部から小・中・高、さらに大学・大学院までを内包している、約1万人の学生が学ぶ私立の総合学園だ。同学園では小学生・中学生・高校生の12年間の教育を「K−12教育」と称し、一貫教育を行っている。

K−12教育では1992年にMacを導入し、早くから教育の現場にコンピュータを取り入れてきた。社会とテクノロジーの変化に合わせて情報教育を進化させ続けており、現在は低学年用にiMac・MacBookプロを40台、図書館の生徒貸出用にMacBookプロを90台、合計250台のMacを導入している。子どもたちがいつでもコンピュータに触れられる環境で、テクノロジーを「道具」として使いこなすことを学べる環境が整っている。

同校の情報教育における重要な拠点が、「マルチメディアリソースセンター(MMRC)」だ。2006年に建てられたこの施設には、図書館に加えて大型プロジェクタのあるシアター、音楽・映像制作用のコンピュータがあるメディアラボなどの設備が揃う。センターの入り口には、専用のラックに収められた70台のMacBookプロが並び、生徒たちが図書と同じように借りていく。MacにはOS Xとウィンドウズがインストールされ、OSを自由に切り替えて使えるようになっている。

玉川学園学園教学部学園情報システム課・課長の波里純次氏は、Macの導入についてこう語った。

「デュアルブートができ、なおかつ教育現場で使える堅牢なマシンが必要だったので、導入するコンピュータにMacを選びました。OS Xでもウィンドウズでも、生徒たちが必要だと思うOSを自由に使えるようにするのが我々のスタンスです。MacBookプロは頑丈で、大きな故障はほとんどありません。子どもたちにとっても大切な道具になっていますし、自由に使えるようにしておくと、かえって乱暴には扱わないものです」

授業でのMacの使い方は実践的だ。250台のMacにはマイクロソフト・オフィスやアドビ・クリエイティブクラウドのフルバージョンがインストールされており、生徒たちは早い段階からこれらのソフトを駆使して課題制作を行う。小学校の社会科では、授業で学んだ問題について、要点をパワーポイントでまとめて発表する。高校2年生では映像作品を作るまでになるそうだ。

「たとえば、『ワードの使い方』を教えることが情報教育の本質ではありません。それはソフトの使い方を教えているだけで、大事なのはそのソフトで『何をするのか』です。コンピュータはノートや鉛筆と同じ『道具』です。情報を集め、まとめて、プレゼンをできるようになることがゴールなら、コンピュータをどのように利用してゴールに辿り着くのか。それを教えるのが情報教育だと思います」

 

 

玉川学園のマルチメディアリソースセンター。図書室とコンピュータルームが一体化している。

 

 

巨大なイントラネットを構築

学園での生活に不可欠なのが、学内コミュニケーションネットワーク「チャットネット(CHaTNet)」だ。チャットネットは、生徒・保護者・教師が互いに連絡を取り、情報を共有するために使われるイントラネットで、生徒が小学3年生になるとアカウントが発行される。

チャットネットでは学内のあらゆる連絡・報告ができるようになっている。教員は生徒の出席状況や成績を管理し、生徒への連絡事項をチャットネットの掲示板に掲載する。教室で配布したプリントもPDF版をアップロードする。生徒たちが宿題をチャットネットから提出することも可能だ。インターネット経由で保護者もアクセスでき、宿題の有無や健康診断の結果などをネット上で確認できる。

チャットネットは98年のスタート時からオープンテキスト社のグループウェア「ファーストクラス(FirstClass)」を使って運用されている。クライアントソフトは無料で、子どもにも使いやすい直感的な操作感が魅力だ。導入から十数年かけてシステムを拡張しており、今では生活に欠かせないネットワークになっている。

 

 

学内イントラネット「チャットネット」の画面。生徒、先生、保護者といった、ユーザの属性ごとに権限が付与されており、利用できる機能も変わる。

 

 

煩雑な管理はパラレルスで解決

OS Xとウィンドウズが同時に起動する環境は仮想化ソフト「パラレルス・デスクトップ」によって構築している。以前はアップル純正ユーティリティであるブートキャンプを使用していたが、大量のMacを管理する現場ならではの苦労が絶えなかったという。学園情報システム課係長・岩澤孝徳氏は語る。

「ブートキャンプを使用していた時代は、Macの不調や、OSのアップデート時に大変な思いをしていました。作業時にはMacを一度リストアし、その後システム課で構築したマスターOSをインストールするのですが、2つのパーティションをコピーする作業は手間がかかり、ストレージの初期化から、ディスクユーティリティによるOS X環境の復元、さらに各MacのMACアドレスに応じたコンピュータ名の設定や無線LANへの接続といった一連の作業を含めれば、150台ほどあるMacのすべての環境をリフレッシュするのに1週間ほどかかっていました。その後、HDDを物理的にクローンする装置を導入してコピーは楽になりましたが、今度はMacがフラッシュストレージを採用して、取り外しが不可能になってしまったので、この方法も使えなくなりました」

環境を簡単に構築する方法を探し、たどり着いたのが、パラレルスによるウィンドウズ環境の仮想化だった。固有パーティションを必要とするブートキャンプと異なり、パラレルスをインストールしたマスターOSをつくっておけば、OS Xのパーティションを1つ複製するだけで、同時にウィンドウズ環境もインストールできる。スタッフがつきっきりでやっていた諸作業はオートメータによって自動化した。約1時間半かかかっていたMac1台の整備時間は、パラレルスの導入後、15分程に短縮したという。

特筆すべきは、こうしたIT環境の構築を外注に頼らず、学内のシステム課で構築・管理していることだ。サーバの管理はもちろん、ファーストクラスとデータベースの連携機能や、オートメータのスクリプトなどもすべて内製だという。教育機関では珍しい専任のシステム部門がこうした内製化を可能にしている。

「基本的に、外の業者に頼らずに自分たちで解決しよう、という方針でやっています。自分たちのニーズに合ったシステムを外注で作るのは難しく、時間もかかります。我々にも知識が身に付きません。結局は自分たちでやったほうがコストも安くなると考えています」と波里氏。

システム課では現在ウィンドウズ10への移行に取り組んでおり、今年の4月にはパラレルスで使えるようにする予定だ。

 

 

専用ラックに収められた、貸し出し用のMacBookプロ。ラックの位置やMacの取りやすさによって使用率に差が出てしまうことを避けるため、適宜位置を変えている。図書と同じ扱いでバーコード管理しており、生徒たちが自由に借りて使うことができる。

 

 

右は玉川学園学園教学部学園情報システム課・課長・波里純次氏、左は係長・岩澤孝徳氏。チャットネットやサーバの管理、教員用コンピュータの保守、そしてK-12用Mac250台の保守など、業務内容は多岐にわたる。

 

 

【MACアドレス】
無線LAN機器に付けられているユニークナンバー。ハードウェアに付けられているので、OSを入れ替えてもこの番号は変わらない。玉川学園では、MACアドレスに対応したコンピュータ名を使い、各コンピュータの特定を容易にしている。

 

【オートメータ】
OS Xにプリインストールされている自動化ソフト。ソフトウェアの操作手順をワークフローとして記述しておくと、自動でそれを実行してくれる。標準でさまざまな操作がライブラリとして提供されているほか、アップルスクリプトやジャバスクリプトと併用することで、より高度な処理が可能となる。