シリコンバレー式トップレベルの幼児教育にICTは欠かせない|MacFan

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シリコンバレー式トップレベルの幼児教育にICTは欠かせない

文●神谷加代

世界有数のテック系企業が本社を構え、トップレベルのビジネスパーソンや最先端の技術が集まる米シリコンバレー。同名を冠する幼児教育施設「シリコンバレーアカデミー」は、そこで実践される最先端教育を取り入れ、子どもたちが社会の「今」に触れる機会をふんだんに提供している。

感性を広げるためのiPad

東京都目黒区にあるシリコンバレーアカデミーは、2016年4月にオープンしたばかりのバイリンガル幼児教育施設だ。“0歳から世界で通用する人材を育てる”をミッションに掲げ、6カ月から就学前までの子どもを対象にシリコンバレー流の幼児教育を提供する。

シリコンバレー流とはどういうものか。いわゆる英語のバイリンガル教育を取り入れた幼稚園や保育園はあるが、それらとシリコンバレーアカデミーは一線を画す。同施設では、世界トップレベルの技術者や経営者、投資家が集まるシリコンバレーの精神や文化を重んじ、彼らの子どもが実際に受けている幼児教育を日本でも展開することにこだわる。

「一流と呼ばれる成功者やビジネスパーソンが価値を認めた最先端教育を日本の子どもにも与えたいのです」。そう話すのは、シリコンバレーアカデミーを創立した増田雅俊氏と豊島弘次氏。

 

 

同施設を運営するSVAホールディングス株式会社、代表取締役社長の増田雅俊氏(左)と代表取締役副社長の豊島弘次氏(右)。教育については「まったくの素人」だったというが、同施設にかける2人の情熱はとても大きく、構想からわずか半年で開設に漕ぎ着けた。

 

シリコンバレーアカデミーはもともと、保育園を作るのが夢だった増田氏の妻・朱子さんが、豊島氏に相談を持ちかけたことから始まる。何か特色のある保育園を作ることができないかと考えていた増田夫妻は、当時、日本企業のアメリカ現地法人代表として、シリコンバレーに在住していた豊島氏にアドバイスを求めた。

豊島氏は、シリコンバレーで実践されている幼児教育を日本に持ち込むことを提案。当時から、現地で働くトップレベルのビジネスパーソンらと交流があった豊島氏は、彼らの子どもたちが幼いうちから優秀であることに気づく。いったい、どんな幼児教育を受けているのか。現地の幼稚園を訪問したり、教育関係者に話を聞いたりしながら、“新しい保育施設”の構想を練っていったという。

「簡単にいうと、シリコンバレーでは非常に無駄のない、効率的な教育がなされていました。適切な時期に適切な教育・環境を与えるよう、新しいものをうまく取り入れながら、子どもたちの人生の土台作りが行われています。日本とはまったく違うと思いました」(豊島氏)

たとえば、日本では教育現場で子どもたちがデジタルデバイスに触る機会が少なく、昔ながらの紙の本が良いものだと思われがちだ。しかし、シリコンバレーでは幼少期からiPadなどのコンピュータに触れることは当たり前。質感に抵抗感を持たない3歳までに、紙とデジタルの両方に触れさせることが重要だと考えられている。

「大人目線でデジタルと紙を区別して与えるのではなく、子どもの感性を広げるためには、デジタルも早くから与えるほうがいいという考えがシリコンバレーでは定着していました」(豊島氏)

豊島氏はほかにも、自分の意見や意志を、自分の言葉で相手に伝えることができる子どもがシリコンバレーには多いことに気づく。そんな子どもを育てるため、シリコンバレーアカデミーでは、子どもの意志や意見を尊重しながら、集団の中で“個”を表現することができる教育を実践している。

 

 

閑静な住宅街にある一軒家を改築して造られたシリコンバレーアカデミー。アクセスの良い駅ビルなどに教室を構えず、一軒家にこだわったのは「家庭的な雰囲気の中で、日常を感じる保育を実現したかったから」(豊島氏)。

 

 

外国人講師とiPadで遊ぶ子どもたち。iPadを選んだ理由は、起動の速さ、安全面、教育系のアプリが充実していることを挙げる。基本的に、子どもがiPadを使用するときは、1人で使うことを認めておらず、講師の見ている前で使うことをルールにしている。

 

 

意識的にデジタルに触れさせる

シリコンバレーアカデミーの1日の流れは、年齢によって異なるものの、基本的に午前中は外国人講師によるオールイングリッシュの「英語タイム」が設けられている。0歳~3歳児までは、遊びや会話をとおして自然に英語が体得できるようにし、3歳以降はカリキュラムに沿って英語の学習が行われる。午後からは、「運動タイム」と「五感タイム」がメインだ。世界で活躍できる人材になるためには、人間のセンスを形成する運動や、数・文化・五感などの感覚を鍛えることも必要と考えているからだ。

英語タイムでは、iPadやアプリを積極的に活用している。外国人講師が英語の絵本を読み聞かせたり、実物を見せることが難しいものを写真で提示するなど、聴覚と視覚を刺激する場面での使用が多い。基本的に英語タイムで使うアプリは海外のものを選ぶが、アプリ内の英語の音声(自動的に英語を読み上げるなどの機能)に頼ることはしないという。英語タイムの間は、子どもが外国人講師の顔を見ながら生の声を聞くことを重視している。

「アプリ内の英語の音声は、英語を話せない保護者が家庭で使うのには便利でしょう。しかし、英語タイムではアプリはあくまでも、子どもと講師のインタラクティブなやりとりを促す手段だと捉えています」(増田氏)

ほかには、英単語の発音の仕方の練習として、iBooksも活用している。フラッシュカードの要領で、外国人講師がページをめくり、その発音を聞きながら子どもは練習する。

「この程度の活用であれば、わざわざiPadを使わなくても紙で良いと思われがちですが、幼い頃からデジタルに慣れさせるためにも意識して使用しています」(増田氏)

大人が“紙でいいだろう”と思ってしまうと、子どもはデジタルに触れる機会が減ってしまう。そうでなくても、子どもの生活には紙が多い。デジタルに触れる機会は、大人が意識する必要があるというのだ。

 

 

英語タイムで使うアプリは、すべて英語圏のものを使用。たとえば、上の写真の「Monsters」は動く塗り絵アプリで言語は関係ないが、子どもたちをワクワクさせるアプリのバリエーションが日本のアプリにはまだ少ないという。

 

 

デジタル化で効率重視は当たり前

シリコンバレーアカデミーでのICT活用は、教育だけにとどまらない。一般的に保育園、幼稚園における保護者とのやりとりは、紙の連絡帳で行うことが多いが、同施設では、こうした紙でのやりとりをできる限り減らし、デジタル化を進めている。そのメインツールとして使用しているのが保育園向けICT支援システム「コドモン」だ。

「コドモンを導入した結果、入園申込書以外の書類をすべてデジタル化することができました。それは業務の効率化にもつながっています」(増田氏)。

コドモンは、子ども1人に対して1つのアカウントが作成でき、出欠管理、健康管理、連絡事項の伝達、子どもの様子の記録などができる。保護者はiPhoneやiPadの専用アプリからコドモンにアクセス可能。思い立ったときにすぐ、保育園に連絡したり、連絡事項の確認ができる。「保護者も忙しい方が多いので、効率的で円滑なコミュニケーションができる環境を整えるのは当然」と増田氏は話しており、時間や場所に制約されないICTのメリットを最大限に活かそうとしている。

ほかには、安心・安全面でもICTを活用する。同施設では、すべての保育室に米Nest Labsの家庭用無線監視カメラ「Nest Cam」を整備し、保護者や保育士がiPhoneやiPadから子どもの様子をいつでも確認できる環境を整えている。

「保護者の方に保育中の子どもの様子を見て安心してもらうことはもちろん、子どもが怪我をしたときの状況を確認したり、誰が子どもを迎えに来たのかチェックするといった使い方もできます」(豊島氏)。

Nest Camで配信される映像・音声は録画・録音が可能なため、遡って子どもの状態を確認することが容易だという。

今後はさらに、ウェアラブル端末を使って子どもの体調管理を行うなどの取り組みも計画している。最先端のテクノロジーやデバイスのメリットを見極めて、教育現場で最大限に生かすシリコンバレーアカデミー。新しいものを取り入れたからこそ、見える子どもの変化も多くあるはずだ。2人は次のように語る。

「今私たちの理念を理解してくれるのは、一部の人たちだけかもしれません。でも、それが日本の幼児教育のスタンダードになっていく自信はあります」

 

 

保育園向けICT支援システム「コドモン」。出欠管理、健康管理、連絡事項の伝達、子どもの様子などが簡単に記録できる。iPhone/iPadの専用アプリがあるほか、Macではブラウザ上でアクセス可能。シリコンバレーアカデミーから発信される情報は、コドモンに一元化され保護者はいつでも確認できる。

 

 

すべての保育室には、米Nest Labsの家庭用無線監視カメラ「Nest Cam」が整備されている。保護者のiPhoneやiPadから、専用アプリをとおしていつでも子どもの状態が確認できる。音声や映像の録音・録画も可能であるため、子どもが怪我をした瞬間などを遡って確認することも可能だ。配信される映像は、3秒ほどの遅れが生じるものの、かなり鮮明。

 

 

【一流】
シリコンバレーアカデミーの教育の柱には、英語、デジタル以外に「一流の人に学ぶ」というのがある。毎週プロの指導のもと、ダンスやかけっこの練習を行うのだ。子どもたちは、そうした「本物」に素直に反応するという。

 

【物販】
運営サイドとしてコドモンを利用するメリットはほかにもある。コドモンのサイト内では、クレジット決済による物販が可能で、たとえば遠足の写真や園内の玩具を販売できるのだ。わざわざ“おつりのないように現金を封筒に入れて持ってきてください”と保護者に伝える手間もなくなる。