2016.04.13
第46回星雲賞日本長編部門を受賞したSF作家、藤井太洋氏のApple小説です。
「得体の知れない仕事を、またよく請けたもんだな」
茶葉の沈むガラス製の水筒をテーブルに置くと開ききった葉が揺れた。向かいに座った毛丕承(マオ・ピチャン)がすかさずお湯を足してにやりと笑う。世紀が変わって十五年も経つというのに中国人が茶を飲む方法は変わっていない。
「ジャンボさんに言われたくはないね─っと、気を悪くしないでよ」
「するもんか」
暖かくなった茶をもう一度啜ると、再びお湯が注がれた。
「とにかく、来てくれて助かった。おかげで量産の目処もついたからね」
毛がテーブルの中央に顎を振った。
A4用紙ほどの広さの、基板むき出しの装置があった。ゴムベルトが四隅に取り付けられたアルミニウム板が左右に走るレールに取り付けられていて、そのレールが上下に動くレールに載っていた。板の下には縦横二方向のローラーが押し当てられている。アルミニウム板の上部には、下に向けたスタイラスが、四ミリほど浮いて固定されていた。