価値・ニアゼロ|MacFan

アラカルト Tales of Bitten Apple

価値・ニアゼロ

文●藤井太洋

第46回星雲賞日本長編部門を受賞したSF作家、藤井太洋氏のApple小説です。

「ジャンボ、後金だよ」

マシャマ・カンジャンガは運転席のサンバイザーから輪ゴムで丸められた緑色の紙幣の筒を取り出して、おれの膝に投げた。

その筒を葉巻よろしく口に咥(くわ)えて笑ってみせる。火までつければドン・コルレオーネ気分が味わえるかと一瞬思ったが、こんな紙くずで粋がっても仕方がない。史上最高額が印刷された一〇〇兆ジンバブエ・ドル札だ。通貨として有効だった頃の価値は二十円ほど。

「冗談が言えるのか。安心したよ」

カンジャンガは親指を立ててみせた。

「土産だ。コレクターに売るといいよ」

滑らかな漆黒の肌と、丸みのある筋肉が紫色のカーディガンごしに盛り上がる体格はアフロ・アフリカンのものだが、話す英語と仕草はカリフォルニアの起業家と変わらない。それもそのはず、カンジャンガはGPUプロセッシングでビットコイン採掘(マイニング)の先頭を走っていたプレイヤーだったのだ。




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