日本人、外国人すべてのお客様のためのインバウンド対応|MacFan

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日本人、外国人すべてのお客様のためのインバウンド対応

文●牧野武文

ブライダルジュエリー専門店「アイプリモ」は、iPadで利用可能な「テレビde通訳」サービスを導入している。この狙いは、増加する訪日外国人へ対応するためだけではない。ブライダルジュエリー専門店として大事にしているのは、接客の質全体を向上することだ。

仕上がりイメージをiPadで

プリモ・ジャパン株式会社は、ブライダルジュエリーの専門店「アイプリモ」を日本国内に63店舗、台湾11店舗、香港3店舗展開しており、ダイヤモンド専門店「ラザール ダイヤモンド ブティック」を日本国内に15店舗展開している。

日本最大規模の店舗数を誇るアイプリモは、お客様の理想を形にする「セレクトオーダースタイル」を主な販売方法とし、婚約指輪は、リング枠とダイヤモンドをそれぞれ幅広いラインアップから選ぶことが可能で、さらに婚約指輪・結婚指輪ともにさまざまなカスタマイズができるため、多くの花嫁の人気を集めている。オンラインショップも展開するアイプリモだが、顧客の多くは店頭に訪れ、販売スタッフと相談しながら、満足のいく自分だけの指輪を選ぶ。

そんなプリモ・ジャパンでは、201 5年2月から、接客にiPadを活用し始めた。接客の質を高めることが目的だ。

アイプリモのセールスポイントは指輪をカスタマイズして、自分の好みのものをオーダーできることにある。しかし、問題は、その仕上がりイメージを顧客に伝えづらいことだった。カスタマイズメニューを順列組み合わせすると、膨大な数になる。たとえば、リングだけでも約150種類のバリエーションがあり、そのほとんどに素材が3種類ほどある。そのすべてのパターンを店舗に見本として用意しておくことはできない。

以前は顧客から「ブルーダイヤとイエローゴールドのこのデザインのリング」という注文があった場合、それにあてはまる指輪を複数見せて、「ダイヤはこのような感じに、リングはこのような感じになります」と伝え、あとは仕上がりを顧客に想像してもらうしかなかった。

婚約指輪や結婚指輪は、原則一生に1回の買い物だ。そこでは「仕上がりがイメージと違った」という不満をもたれることはあってはならない。

そこで、アイプリモでは、指輪の仕上がりイメージを画像で表示するアプリを開発した。カスタマイズメニューを選んでいくと、それを組み合わせた指輪の高解像度の画像が現れ、同時に見積書も作成される。画像から特定の部分だけ別のパーツに変えてみることも可能だ。接客は店内の各ブースでの1対1が基本で、各ブースにiPadが用意されている。現在、全店舗合計で500台ほどのiPadが活用されているという。

「接客時間は1時間から2時間ほどです。じっくりと時間をかけて、納得のいく指輪をご提供したい。ですから、インテリアにも非常に気を配っています。iPadは接客の質を高めるだけでなく、店舗の高級感を演出するためにも役立っています」(営業企画部マネージャー・清水伸哉氏)

 

 

高級感溢れる店舗。アイプリモでは、iPadを用いたブースによる1対1の丁寧な接客が行われる。一般的な接客時間は、1時間から2時間。このような密な接客では、言葉の壁が大きな課題になっていた。

 

 

アイプリモの専用アプリ。アイプリモの概略や製品カタログ&動画、そしてオーダーする指輪のカスタマイズが行える。

 

 

プリモ・ジャパン(https://www.primo japan.co.jp)株式会社営業本部 営業企画部 マネージャー・清水伸哉氏。各店舗から挙がるさまざまな課題に対応する。

 

 

コールログが情報源

iPad導入の背景にはもう1つの事情がある。それは、訪日外国人への対応だ。香港、台湾にも店舗を展開しているため、外国人にもブランドが認知され始め、「日本の本店で買いたい」「円安という為替状況を利用して、安く買いたい」という訪日外国人顧客も増え始めているのだという。

そこでまず問題となってくるのが、言葉の壁だ。カスタマイズメニューが多いアイプリモの指輪の場合、コミュニケーションが取れなければ、理想の指輪を作っていくことが難しい。そのために昨年の夏から、iPadのテレビ電話機能を利用して通訳を呼び出せるサービス「テレビde通訳」を導入した。

「英語と中国語に対応できるスタッフは店舗にいますが、すでに接客中で、他のお客様の対応ができないこともあります。そういう場合に、テレビde通訳を活用しています」

指輪のカスタマイズを行えるアプリは多言語対応しているので、顧客の国籍に合わせた言語表示にすれば言葉が通じなくても基本的な接客は可能だ。しかし、「免税手続きはどうするのか」「商品を香港の店舗で受け取ることは可能か」という質問になると難しい。そういう場合に、テレビde通訳を呼び出して同時通訳してもらうのだ。通訳はiPadの向こう側にいるわけだが、ブースでの接客なので、スタッフ、顧客、テレビde通訳と三者で会話をしている感覚で利用できるという。利用料は分ごとの従量制課金を選択している。

「銀座本店などは海外のお客様のご来店が多いのですが、ほとんどいらっしゃらない店舗もあります。そのような店舗では万が一に備えてセーフティーネットのような感覚でご準備しています」

また、通訳を利用した場合は、テレビde通訳側から、コールログが提供される。それには時間だけでなく、通話の主な内容も含まれている。そのログが、接客改善の情報として役立っているそうだ。外国人に適した接客方法は何か、外国人がどのような点に不安を感じるのかといった情報がそこから読み取れるからだ。

「テレビde通訳の導入効果は、そのような貴重な生の情報が提供されるということだけでも、費用以上の効果は確実に上がっていると感じています」

 

 

スマート・ナビ(http://www.smartnavi.co.jp)が提供する通訳サービスのテレビde通訳。英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・ベトナム語、フィリピン語に対応している。利用方法は、Wi-Fiに接続している状況でアイコンをタップ、希望する言語を選択して、オペレーターからのコールバックを待つだけ。コールログを記録することができ、プリモ・ジャパンにとっては、これが価値ある情報となっている。

 

 

店舗の雰囲気を保つiPad

テレビde通訳の導入を考えた直接のきっかけになったのは、東京銀座本店と大阪心斎橋店だったという。いずれも目抜き通りに面していて、訪日外国人が多く、観光のついでに訪れることがたびたびあった。中には、ジュエリー店だとわからずに来店する人もいるそうだ。

しかも、そういう場合は大人数のグループであることが多い。入口付近でスタッフが「当店はこのようなスタイルのジュエリー店です」と伝えてブースに誘導するのだが、それがうまく伝わらずに入口付近に滞留し、スタッフと互いに通じない会話が続いてしまうことがあった。すると、これが店内の雰囲気を壊してしまうことにつながる。ブース内ですでに応対してもらっている顧客にすれば、「入口付近がガヤガヤうるさい」と感じることになってしまうのだ。

そのため以前から、「訪日外国人をスムースにブースに誘導すること」が店舗の大きな課題になっていた。それが、iPadの導入と、多言語対応したアプリの開発、そしてテレビde通訳でうまく対応ができるようになった。

「店内の落ち着いた雰囲気を保つことができるようになり、スタッフのストレスも大きく減りました」

非常に興味深いのは、この対応が「インバウンド客の確保」ではなく、「店内の接客スタイルの維持」に重点が置かれている点だ。

「インバウンドのお客様がお求めになるのはブライダル関連品ではなく、圧倒的にネックレスなどの宝飾品です。現在のところ、私どもの事業はブライダルに特化しており、インバウンドを積極的に取り込む施策は行っていません」

テレビde通訳のようなサービスの名前を聞くと、反射的に「インバウンド対応」という言葉が出てきてしまう。しかし、そのすべてが「外国人の爆買いを取り込もう」というようなものだけではないことがわかる。

ブライダルジュエリーブランドとして、アイプリモがもっとも大事にしているのは接客の質の向上である。そこには日本人客も外国人客も含まれる。一生の大事な買い物に際して真摯に顧客と向き合い、満足度を高めること。そうした目的を見失わない一貫したiPad導入からは見習うべきことが多い。

 

 

【ブランド】
プリモ・ジャパンでは、インターネット通販限定のブライダルジュエリーブランド「セレシア(SELEXIA)」も展開している。店舗まで行く時間が取れない、何を購入していいのかわからないといった人のために、人気のブライダルジェリーを取りそろえている。

 

【ブライダル】
現在のブライダル関連品業界では、婚約指輪で30万円前後、結婚指輪(ペア)で20万円前後の商品が一番人気だそうだ。これだけの高額商品、しかも原則一生に一回の買い物なので、接客の質はとても重要になる。