あのiPhone|MacFan

アラカルト Tales of Bitten Apple

Tales of Bitten Apple

あのiPhone

文●藤井太洋

第46回星雲賞日本長編部門を受賞したSF作家、藤井太洋氏のApple小説です。

「夜明けのデッキでクパチーノ・キャンパスの中庭を見たことはあるかい? 金色に輝く、ジョブスが残した最後の宝物。そんな色だ。iPhone 6だね。Sじゃない」

ポエムに顔を上げると、薄青色のポロシャツに麻のジャケットを羽織ったトビー・早志(はやし)が小さな目を細めていた。入店に気づかなかったのは、ホーチミンのスコールから湿気をとりいれようと扉を開けてあるせいだ。作業台に帯電防止の不織布をかけ、手元を隠す。

笑ったトビーは不織布を指さした。

「蜂谷(はちや)くん、それ、黒海でサルベージされたiPhone 6でしょ」

血の気が引いた。北の大国が作ったハイジャック用iPhone 6。その現物を世界中のテロリストと諜報員が血眼で探している。それを高値で摑まされてしまったおれはシリアルを削り、MACアドレスの埋め込まれたモジュールを入れ替えて、ようやく好事家達へ売り始めたところなのだ。




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