アピロス落合さんを訪ねる|MacFan

アラカルト アップルのミカタ

世界品質の先端テクノロジーをiPhoneアクセサリに込めて

アピロス落合さんを訪ねる

文●栗原亮

なぜ、アップルのミカタをするのか? アップル製品を手厚くサポートするハード&ソフトウェアメーカーの担当さんに、その理由を聞いてみた!

 

落合謙次郎(おちあい・けんじろう)

株式会社アピロス・営業部。文房具の販売店で万年筆などの文房具や雑貨の買い付け・販売を担当し、その後携帯電話・固定通信網の販売支援会社にて営業を担当、同社へは2015年6月に入社した。「まったくの異業種からの転職ですが、もともとものづくりに興味があって、企画やアイデアの部分から関わりたいと思い入社しました。実際に作る側に回ってみると大変ですが、製品に深い思い入れが湧きます」。趣味は、子どもと遊ぶことと、休日の雑貨探し。【URL】http://www.apeiros.jp

 

アピロスはiPhoneアクセサリの世界にメイド・イン・ジャパン品質のモノづくりで挑む、2011年設立の新しいメーカーだ。「本当に良いものは値段が高くても売れる」、そう断言するのは代表取締役の政岡健太郎さん。

政岡さんは商社時代に半導体や電子部品製造装置のマーケティング業務を経験。その過程で現在のアピロスの事業の核となるコーティング技術に出会い、薄膜コーティング装置(スプレーコーター)をBtoBで販売する事業を営むために同社を設立した。そして現在はコーティングテクノロジーを応用したコンシューマ向け事業(iPhoneアクセサリの企画・開発・製造)も行っている。

「最先端の精密機械を開発しているので、技術には自信がありました。この自分たちの優れた技術を一般の人たちにも使って喜んでもらいたい。純粋にそう思い、コンシューマ向け事業を始めたのです。最初に販売したのは、塗るだけで指紋や油汚れを防げるタッチパネル用のフッ素コーティング剤でした」

タッチパネルのフッ素コーティング加工はiPhone 3GSから導入されたことでも知られており、今では一般的なスマートフォンでも普及している。アピロスは当時からスマートフォンを製造する多くのアッセンブリメーカーにコーティング塗布用の機械そのものを製造販売してきた。現在のスマートデバイスの基幹技術を支えてきたといっても過言ではなく、その世界トップレベルの品質の技術を惜しみなく盛り込んだのが同社のコンシューマ向けプロダクトなのだ。

「iPhone 3GSの頃は、保護フィルムを貼るのが邪道というこだわりの“裸族”も多くいたのですが(笑)、やはり彼らも時間が経つとコーティングが剥がれて指紋が付くのが気になったのだと思います。フッ素コーティングはアップルも採用している加工方法ですから、それと同じ方法で作ったことで、皆さん納得して喜んでもらえました」。

ちなみに、このフッ素コーティングの品質を評価する基準はアップル自身が定めたものが業界のデファクトスタンダードになっているそうだ。検査方法は目の細かい0000番というスチールウールを1センチ角に切り、1キロの荷重を掛けて3000~5000回の往復運動を行い、その後ガラス表面に水滴を垂らした際の接触角度が何度以上という実に厳格な基準。品質が悪いとコーティングが剥がれて撥水性がなくなってしまうという。その点、アピロスの製品は折り紙付きだ。

 

 

同社でロングセラーを続けている製品といえば、液晶を保護する強化ガラスフィルム「クリスタルアーマー」シリーズだろう。ガラス加工技術の向上により、当初は0.5ミリ厚程度であった製品も、現在はもっとも薄いもので0・15ミリとなりタッチパネルの感度がさらに良好になっている。だが、ガラスを薄くすることでそのままでは強度が落ちてしまうので採用する素材も進化していったという。

「強化ガラスの素材には大きく分けてソーダライム(石灰)ガラスとアルミノシリケート(珪酸塩)ガラスというのがありまして、後者は強化ガラス専用の組成で非常に硬く強いことで知られています。一般的には“ゴリラガラス”の名前で知られていて、我々のフラッグシップモデル(クリスタルアーマー True RoundEdge 3D)ではこの薄くて強いガラスを採用しながら、iPhone 6の曲面に合わせるためにゴリラガラスの表面を切削しているんです」

同社の技術力の高さはすさまじいが、ガラスフィルムの素材開発に限っていえば限界近くまで来ており、今後はまったく新しい発想の製品開発が必要だという。

「今後有望と考えているのが“抗菌”など特殊な付加価値を持ったガラスフィルムです。すでにある抗菌フィルムは素材が柔らかいPETのため抗菌コーティングがすぐに剥がれてしまいます。我々はガラス自体に抗菌作用のある素材を練り込むなどして“取れない抗菌”ガラスを研究開発しています」

また、コーティングとは別にバックプロテクタやiPhone全体を囲む強固なアルミプロテクタ、さらには機能性の高い革ケースなどを開発し、製造販売を行っている。

「ケースは機能性だけでは売れないので、デザイン性やファッション性も大切だと思っています。外部のデザイナーにも依頼しますが、最終的には自分たちでデザインを完成させます」

そうした新しいジャンルの製品開発や企画・営業に参加したのが今回カバンの中身を披露してくれた落合謙次郎さんだ。文具系の営業を経験してきた落合さんは、スマートフォンの周辺機器に限らずさまざまな雑貨や文房具の知識やセンスを備えた人物だ。

「この仕事は、メーカーとしてすべてゼロから企画・開発することが求められます。ですから、モノづくりの大変さと楽しさ、完成したときの達成感など毎日新しい発見があります。モノが溢れている時代だからこそ、多くの人に納得してもらえる、高い価値のある製品づくりをしていきたいです」

 

 

高い技術力が光るアクセサリ

「クリスタルアーマー True RoundEdge 3D」(左)は、ゴリラガラスの表面を切削してiPhone 6の曲面に合わせるという世界初の工法を採用したフラッグシップモデル。「普通は熱をかけて曲げますが、ガラスを常温で切削しています。加工に1枚あたり1時間程度かかってしまいますが品質は最高級です」。写真右の「フルメタルジャケット」はメタルケースの新製品。

 

スプレーコーティング事業

アピロスは新潟県長岡市に自社工場があり、独自開発のスプレーコーティング技術をバックボーンに持つ。大手のデバイスメーカー向けに、専用の機械を販売するビジネスを行っている。「スマートフォンの液晶パネルやタッチパネル指紋認証センサの製造工程で使っていただいています」。

 

世界で1台のフィルム貼りマシン

iPhoneに均一にフィルムを貼るために開発されたオリジナルマシン。炭酸ガスのボンベの圧力で駆動するため、電動ポンプのような騒音や振動もないのが特徴。「AUGMなどでフィルムを買ってくれた人にその場で貼ると大変好評ですね。こうした機械も自分たちで作ってしまいます」。

 

湾岸にオフィスを構える理由

東京湾岸地区にオフィスを構える。都心とほどよい距離にあるだけでなく、都立の産業技術研究センターなど製品試験や検査などが行いやすい環境が整っているのが設置の決め手となった。

 

落合さんの鞄の中!

 

 

❶業務で利用する13インチのMacBookエア、ビーツのヘッドフォン「Solo HD」とソニーのレンズスタイルカメラ「QX10」を持ち歩く。「やはり、無印良品とかシンプルなデザインのプロダクトがもともと好きなのでアップル製品は大好きです」。

 

❷開発用と営業用の2台のiPhone 6およびiPadミニ2を所持。革ケースは現在開発中のもので、浅草で見つけたイタリアンレザー素材を使っている。「ICカードとか小物入れとかシステム手帳的にカスタマイズできるというコンセプトです。このクリップ部分の素材や形状をどうするか手作りで試行錯誤しています」。

 

❸ライトニングケーブルやモバイルバッテリはケースに整理して持ち歩く(左)。試作品のアップルウォッチ用革ケース(右)は普段はケーブルの収納に使えるが、丸めることで充電スタンドにもなるという優れもの。「Watch OS 2になったら、横置きのナイトスタンドモードに対応するので枕元にも置けます」。

 

【取材後記】
アピロスの工場がある新潟県長岡市はかつて石油の産出が行われた土地柄、機械メーカーが数多く存在する。また、金属加工に強い新潟市や燕三条とも距離的に近く、世界水準のモノづくりの伝統が根付いている。

 

【取材後記】
AUGM(アップルユーザグループミーティング)などにも積極的に参加し、2015年10月開催のAUGM東京へも参加予定だという。秋に向けて販売を予定している各種革製品など新アイテムの実物を目にする貴重な機会だ。