イメーションで働く伊藤さんを訪ねる|MacFan

アラカルト アップルのミカタ

アップルのデザイン哲学<フィロソフィー>に共感

イメーションで働く伊藤さんを訪ねる

文●栗原亮

なぜ、アップルのミカタをするのか? アップル製品を手厚くサポートするハード&ソフトウェアメーカーの担当さんに、その理由を聞いてみた!

 

伊藤研二(いとう・けんじ)

イメーション株式会社コンシューマー商品事業本部マーケティング部部長。TDKブランド製品のスピーカ、ヘッドフォンなどの国内マーケティングを担当する。ちなみに愛用の鞄は奥さんから最初の結婚記念日に貰ったプレゼント。

 

記録メディア事業で名高いTDKブランド。「超硬DVD−R」のように個性的で信頼性の高いメディアを発売してきたことをご存じの読者も多いだろう。2007年には新たなオーディオブランドとして「TDK Life on Record」が登場し、オーディオアクセサリー分野に参入を果たした。このコンシューマー事業を取得したのが米国イメーション社で、今回アップルのミカタに登場する伊藤研二氏は、同社マーケティング担当の責任者である。

国内のマーケティング動向とグローバルの方針との橋渡し役として多忙な毎日を送る伊藤氏だが、もともとはグラフィックデザイナー志望でTDKデザイン(当時)に入社し、仕事人生をスタートしたという異色のキャリアの持ち主だ。

「今から20年以上前の話ですが、グラフィックデザイナーとして入社し、販促物のデザインや自社WEBサイトのキャンペーンページのデザインなどをしていました。家ではその頃からMacを使っていて、黒いPerforma 5440が最初だったのかな。当時からデザインの仕事にはMacというのが当たり前でしたので、それから現在までずっとアップル製品を使っていることになりますね」

 

 

 

デザインからマーケティングの仕事に就くことになったのは入社後3年ほど経ってからのこと。TDKの記録メディア事業のヨーロッパでの拠点であったルクセンブルクへ出向した伊藤氏。さまざまな国のスタッフが集まるオフィスでは公用語の英語を駆使し、パッケージのデザインのディレクションやPCスピーカなど現在の事業につながる製品開発にも関わった。

4年半後、29歳で日本に戻った伊藤氏はTDKマーケティング(当時)への出向となり、2008年の正式統合に伴いTDKデザインを退職して現職となる。

「いろいろ紆余曲折を経ましたが、これまで自分のやってきたことには大きな違いはありません。よい音を楽しめる製品を作り、店頭のパッケージを通じて我々の製品に気づいて手に取ってもらい、最終的には購入してもらうことです。中・長期的には蓄積されたTDKブランドのイメージを感じ取っていただければと思います」

イメーション統合後のTDKブランド製品は、スピーカやハイエンドヘッドフォンのようにグローバル(主にヨーロッパやオーストラリアなどが中心)向けの製品と、普及価格帯のイヤフォン・ヘッドフォンのように国内市場を強く意識した製品に大きく分けられる。伊藤氏がマーケティングを担当する日本向け製品は、他の地域と比べても特にディティールに対する要求が強いという。

 

【取材後記】
国産初のカセットテープ「シンクロカセット」を1966年に発売し、世界にその名を轟かせたTDKブランド。その後も音楽用カセットテープで業界を席巻し、デジタルが普及した21世紀に入ってからもMD、CD、DVD、ブルーレイといった記録メディアの分野で確固たる地位を築いてきた。

 

「例えば、『CLEF−Lite』というイヤフォンのシリーズがあるのですが、これは付け心地のような装着感のディティールにこだわっていくうちにとても細くて丈夫なケーブルを採用することになり、とても軽いユニークな製品となりました。ところが、これは海外では軽快さの部分が着目され、スポーツ用として人気が出るといったこともありました。日本市場の特殊性が背景にあるといっても、 日本ローカル向けに作られた製品が結果的にヨーロッパなど異なるリージョンで売れて、グローバルに展開されることもあるのです」

また、製品そのもののデザインにおいても、製品スペックだけでは語れない独特な感性が求められるという。

「スピーカは比較的個性を出しやすいのですが、イヤフォンのようにより身近な製品で競合も多いカテゴリではなかなか差別化は難しいものです。ですが、それでも皆さんが日常生活の中で音楽をどのように楽しみたいのかということに目を向け、『聴く、をデザインする』をコンセプトに、音楽を楽しむ阻害にならないような“さりげない”デザインを心がけています」

各社がしのぎを削るオーディオアクセサリーのマーケティングにおいても、常にデザイナーとしての繊細な感性を忘れない伊藤氏、ブランドとしての立ち位置は違ってもアップルのデザイン哲学について共感する部分はかなり多いという。

「アップルというと印象的なデザインばかりが取り上げられがちですが、実はデザインを意識せずに生活の一部になっていることこそがすごいところなんです。アップルの製品は家の中に飾るインテリアなどではなくて、それを使っている人を主役にするデザインです。我々が作ってきた記録メディアも、記録する人と記録されるコンテンツこそが主役であって、メディア自体は脇役です。オーディオアクセサリーも同様に、モノとして主張するデザインではなく、音楽を素直に楽しめるデザインであること、あるいはそのような製品のあり方こそが大事なのではないかと考えています」

 

 

重低音にフォーカスした新シリーズ

 

スマートフォンに対応したヘッドフォンの新ラインアップ。40ミリドライバの迫力あるサウンドが響くワイヤレスヘッドフォン「WR780」(手前右)、手元で音楽と通話が切り換えられる「ST560s」(奥)、快適な装着感の「ST460s」(左)。いずれも音楽と音声通話という2つの楽しみ方を手軽に切り替えられる。

 

スインナーイヤータイプのイヤフォン「CLEF-X」も13.5ミリの大型ドライバの採用で重低音再生を実現している。フォームチップにハイエンドイヤフォンにも用いられる低反発性ポリウレタン素材の「コンプライ」を採用し(Mサイズ)、ワンランク上の遮音性と装着感を備える。

 

店頭パッケージの解析はiPadで

iPadでは3MのVAS(ビジュアル・アテンション・サービス)を業務に使用しているという。VASは撮影した商品棚などをどのパッケージに視線が集まるか、最初に見られるのかといった簡易的なアイトラッキング調査ができるというもの。「流通の協力を得て、店頭で撮影して分析しています。もちろん理論値なので最終的には人間の目でチェックしますが、分析の目安になるので便利ですね」。

 

伊藤さんの鞄の中!

 

?最近一番仕事で使っているのがWi-FiモデルのiPadミニだという。会社のメールがWEBベースになっているので、外出先でも連絡が取りやすいのが一番便利とのこと。「残念ながらスマートフォンはXperiaです。当時カメラ機能が優れていたので購入しました。仕事柄、街中のショーケースや看板が気になるのでメモ代わりに使っています。モバイルバッテリも欠かせないアイテムですね」

 

?会社支給のウィンドウズPCに加え、デザイン業務で13インチのMacBookエアも使う。フォトショップやイラストレータでビジュアル素材を作成し、ウィンドウズでプレゼンするというパターンが多い。Macで社内プレゼンすることもあるのでDVIの変換コネクタとデータのやりとりにUSBメモリは欠かせない。

 

?メモは手書き派という伊藤氏。企画やアイデア、会議の内容などをグリッドのメモ用紙に記録していく。必ず持ち歩くという小型定規はパッケージの仕事に欠かせないアイテムだという。「店頭棚に商品を置くと値札のレールの高さが店ごとに違ったりするんです。そうした細かな部分を測るのに使います」。

 

?音楽は第6世代のiPodナノで楽しむという。イヤフォンはカラーリングを合わせたブルーの「CLEF-X」。「コンプライの低反発素材が耳にフィットして感触がいいんです。これに慣れてしまうとシリコン素材に戻れないんですよね。温度によって固さが変わるので、季節によって調整するともっと快適ですよ」。

 

【取材後記】
TDKブランドのスピーカはユニークな製品が多い。タイトル写真のポータブルワイヤレススピーカ「TREK Micro」は防塵・防水設計のブルートゥーススピーカでアウトドアでの利用に最適。カラビナでバッグなどにぶら下げて音楽を楽しめる。