子ども達の「伝えたい物語」がブロックで形になる|MacFan

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子ども達の「伝えたい物語」がブロックで形になる

文●山脇智志

「物語を創る」。これは一見簡単そうだが、実は多くの人ができないこと。レゴの新教材「ストーリー・スターター」はブロックとアプリを使って物語を作ることで、子ども達の思考力、表現力、言語能力、クリエイティブな才能を育てる。

 

ストーリー・スターターを使った授業では、与えられたテーマに基づきグループで物語を設定。それをレゴブロックで組み立てていく。完成したらカメラで撮影し、「ストーリービジュアライザ」というiPadのアプリに読み込み、物語を完成させていく。

 

国語の授業でレゴブロック!?

とある小学校での国語の時間。小学校3年生のクラスでは、全4時間の「お話をつくろう」という単元の2時間目の授業が行われていた。児童は前回の授業で作成した「物語の設定」を書いたプリントを取り出して確認する。その設定は、「2名以上の登場人物、それぞれの職業と特徴」だ。そして今回は、その設定に基づき、実際に物語を作る段階に入る。机の上に広がるのは色とりどりのブロック、そしてiPadだ。児童はブロックを組み合わせ、その登場人物を配したシーンを組み立てていく。そして完成したらiPadで撮影し、これという1枚の写真を先生に提出する。

これは東京学芸大学附属小金井小学校で実際に行われた国語の授業の風景である(授業・東京学芸大学講師・細川太輔氏)。国語の授業なのにブロック?と不思議に思う人がいるかもしれない。ここで用いられたのは「レゴブロック」で知られるレゴ社の新教材「ストーリー・スターター(Story Starter)」だ。レゴブロックを用いてストーリーのシーンを組み立て、「ストーリー・ビジュアライザ(Story Visualizer)」というMac/iPadに対応した専用ソフト/アプリに写真として取り込み、物語を作ることで、児童の創造力や言語能力を育てるための教材である。アプリにはあらかじめコミック風や新聞風などのテンプレートがあり、ここに写真を読み込んだうえで自由にセリフを追加したり、アイコンを挿入したりしてストーリーを創造できる。

レゴブロックを用いた教材として広く知られるのは、コンピュータプログラミングによって動作する「レゴマインドストーム」や、そのエントリー版である「レゴエデュケーション WeDo」などのロボティクス教材である。

「マインドストームやWeDoなどは、主に理数系教育に利用されています。しかし、そもそもレゴブロックを使って遊ぶことはとてもクリエイティブな活動です。人文科学の教育、つまりレゴの本質である創造的活動を教育の現場で活用してもらうことを目指して開発されたのがストーリー・スターターです。現在は主に国語や英語などの授業で使われています」(レゴエデュケーション・中野晋介氏)

ストーリー・スターターは2013年にアメリカとロシアで先行発売され、2014年から日本を含む世界14カ国へと広がった。対象は小学校以上の生徒で、販売は教育機関向けのみ。物語に登場する人や動物などのキャラクターをはじめとする1000ピース以上のブロックが入ったコアセットが1万9800円(5人1組用)、そしてストーリー・ビジュアライザ(カリキュラムガイド付き)が1万5800円となっている。

 

 

アプリにはあらかじめさまざまテンプレートが用意されており、ここに写真を取り込むなどしてストーリーを組み立てていく。さまざまな吹き出しやイラストで物語をアレンジできる。

 

【HP】
レゴエデュケーションのホームページ(http://www.LEGOeducation.jp)では、ストーリー・スターターの紹介ムービーが閲覧できる。また、授業カリキュラムの例などが掲載されているので参考にしてみよう。

 

身につけられる3つのスキル

ストーリー・スターターの最大の特徴は、アナログのブロックとデジタルのアプリの融合にある。そこで得られるのは3つのスキルだ。

1つ目は、「コミュニケーションスキルの向上」である。ストーリー・スターターは基本的にグループワークを前提にしており、数名のグループによってストーリーを組み立てていく。そのため自分の意見を明確化し、他のメンバーの意見も理解しながら意見を集約する必要がある。ここで大事なのは、それに用いるのがアナログのブロックであること。つまり、特別なスキルやリテラシーによって個人差が生まれるものではなく、誰もが扱える表現手段で構想力と創造力を具現化しながら、同時にコミュニケーションスキルも身につけられる。

2つ目は「論理的な思考能力の形成」だ。ストーリー・スターターにおいては、who(誰が)/what(何を)/when(いつ)/where(どこで)という「4W」を確実に設定することを求められる。自由な発想で組み立てた創作物といえども、最終的には物語へと落とし込む必要があるため、論理的な思考が不可欠となる。

また、それをどのように表現するかも学ぶことができる。4Wに基づいていかに写真を撮影するか、さらにアプリ上でどのように表現するかなど、文章力と一緒に表現力やデザイン力を試行錯誤を繰り返しながら磨けるのは、アプリならではだろう。

「あらかじめアプリ内に用意されたテンプレートには新聞風や紙芝居風などもあるのですが、やはり日本の場合はコミック風のものが人気があります。取り込んだ写真内のキャラクターに、吹き出しを挿入してセリフを語らせることができるため、ストーリー展開をしやすいようです」(レゴエデュケーション・北川佳代氏)

そして3つ目は「プレゼンテーションスキルの獲得」だ。完成させたストーリーは、必ず最後にみんなの前で発表することが推奨されている。自分が創造したのものが大勢の前で客観的に評価されるという部分が大きな意味を持つ。

これらのスキルの獲得は今の日本の子ども達に求められていることであり、それらを楽しみながら身につけられる点が、何よりもこのストーリー・スターターの醍醐味といえる。

 

 

東京学芸大学附属小金井小学校での授業では、レゴブロックで作成したシーンの写真に合わせて、手書きで文章を作成。完成したらそれを生徒同士で共有し、コメントを記入してもらう。

 

正解は子どもの数だけ

では、冒頭に戻り、小金井小学校での授業の続きを見てみよう。実際の授業は以下のカリキュラムで行われた。

・1時間目=グループでストーリーの要素を考える(構想力、コミュニケーション力)

・2時間目=レゴブロックでシーンを作成、iPadで写真を撮影して先生に提出する(創造力、構成力)

・3時間目=写真入りのプリントアウトに作文する(文章力)

・4時間目=作品を発表し、生徒同士で読み合う(コミュニケーション力)

この授業でのゴールは「構成を意識して書く」能力を身につけることにあったため、先生は児童に3枚の写真を提出させ、それを1枚ずつプリントアウト、それぞれに対して文章を書き入れるように指示(iPadアプリは用いていない)。これによって、「はじまり→中→終わり」という論理構成を意識しながら話を組み立てる力を身につけさせることを狙っていた。

これは単純にえんぴつで「作文を書く」授業でも養えるものだが、ストーリー・スターターを用いるほうがより効果的だ。これまで、この「お話をつくろう」という単元は6時間かかる授業だったが、ストーリー・スターターを利用することで4時間で行えるようになったという。

ストーリー・スターターが誕生した背景には、教材としてのレゴブロックが新たなフェーズを迎えていることとも無関係ではない。

「手を使って何かを作るというレゴブロックの価値はこれまでと変わらないのですが、レゴブロックを組み立てるという行為自体が『目的』から『手段』になってきています。つまり、レゴブロックを組み立てて、それをどう教育に活かすかがこれからは重要となると考えます。ストーリー・スターターが効果を発揮するシーンはたくさんあると思います。例えば、英語を学ぶためのツールとしてもすぐに使えることが想像できますよね」(北川氏)

「レゴエデュケーションとしては、ストーリー・スターターを通してアナログなブロックとデジタル端末を用いたアプリによって、話を『創る』、そして『伝える』という両方の能力を育成する手伝いをしていきたいと思います」(中野氏)

創造力を刺激するブロックで生まれる物語は子どもの数だけ無限大にあり、その表現方法も星の数ほどある。まさにアナログとデジタルの合作ともいえるストーリー・スターターは、「正解は1つしかない」という画一的な従来の教育方式から子ども達を解き放ってくれるに違いない。そしてそれは、日本の次世代の人材育成に新しい風を吹き込んでくれることにつながるはずだ。

 

 

東京・愛和小学校では「物語を作ろう」という授業で利用された。通常、作文で起承転結を考えようといってもわからない子どもがいる中で、ストーリー・スターターを用いた場合はそれが自然と理解されやすい。

 

【声】
先生からのコメントには、「これまでの授業ではなかなか表現できなかったり、皆の前で簡単に表現するというのができなかったのが、ストーリー・スターターであれば簡単に、繰り返し使うことによって、表現力がつけることができます」などがある。

 

文●山脇智志

ニューヨークでの留学、就職、起業を経てスマートフォンを用いたモバイルラーニングサービスを提供するキャスタリア株式会社を設立。 現在、代表取締役社長。近著に『ソーシャルラーニング入門』(日経BP社)。【URL】http://www.castalia.co.jp/