【第13回】 | マイナビブックス

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今宵、虫食いの喪服で

【第13回】

2017.02.10 | 柏原弘幸

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横山は歯を食いしばり、身構えた。
だが、柴田五郎は意外な反応を見せた。
横山の弁明を表情ひとつ変えることなく聞くと、いつになくやさしい眼差しを向けながら、こう言ってのけたのだった。
「この件は誰にも言うな。言ったらお前はクビになる。その代わり、時間をかけてもいいから必ず返せ。いいな」
横山は眼を見開き、「このご恩は一生、忘れません!」と上擦った声で言いながら、楽屋の畳に額を擦り付けた。柴田五郎はにやりと笑い、「さあ、お前は俺のマネージャーだ。仕事を再開だ」と言ったのだった。
横山は二十八歳にして社会的に抹殺される危機を、柴田五郎の度量の広さによって救われた。始めて会った時に、「俺はお前をどんなことがあっても守ってやる。だから、お前は俺をどんなことがあっても守るんだ、いいな」と、C調な口ぶりで言った柴田五郎のセリフは嘘ではなかった。身勝手で、いいかげんで、気に食わないことがあると、ほんのささいなことでも〈怒りの肘打ち〉を見舞ってきた柴田五郎の、意外とも思える人間的魅力に横山は心底感服した。
その一件から、女性問題と度重なる仮払金の未精算を咎められ、会社を去ることになった三十九歳までの十一年間で味わった貴重な人生経験は、いわば、柴田五郎のおかげだった。

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