【第12回】 | マイナビブックス

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今宵、虫食いの喪服で

【第12回】

2017.02.08 | 柏原弘幸

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だが一方、溺愛している奈美恵という高校生のひとり娘のガードは鉄壁だった。門限厳守、成人するまでのヴァージン死守を厳命し、同級生の男子生徒から電話があると、「二度と電話を寄こすな!」と威嚇した。柴田五郎は横山によく、こうも話していた。「もし、俺と誰かがいて、どちらかひとりしか命が助からない状況があった場合・・・・・・無条件で俺の命を差し出す相手がいるとすれば、それは奈美恵だ」そして常日頃から「二十歳までに奈美恵の純潔を奪う奴がいたら、その場で殺す」と公言していた。親バカには違いないが、それも無理はないと思わせるほどの美少女だった。一度、横山は柴田五郎の家に招かれて、家族ともども食事をしたことがあったが、翌日、仕事に向う柴田五郎の運転するバカでかい年代物のアメ車の中で、「横山、お前、うちの娘をいやらしい眼で視てたな。俺は見逃さなかったぞ」と睨まれ、肘打ちを食らったことがあった。冗談めかした口調ではあったが、眼の奥には憎しみの翳かげを宿らせていた。「横山、世の中には節度というものがあるぞ。そんな奴だから、飼い犬にも手を噛まれるんだ。犬だって嗅ぎ分けるんだよ、悪い奴は。調子に乗るんじゃないぞ」そのセリフを吐く同じ男が、夜毎街に繰り出しては他所よそ様の娘にむしゃぶりつき、胸を揉みしだき、舌を這わせ、股ぐらに顔を埋めていた。
狂瀾怒濤の柴田五郎の薫陶を受けながら、刺激的で豪勢な日々を重ねるうちに身の程知らずになった横山は、単独行動でも金使いが荒くなった。忙しい毎日だったが少しでも空き時間ができると、勤務時間中であっても一攫千金を狙って競艇場や競馬場に頻繁に姿を見せた。
柴田五郎とタッグを組んで一年が過ぎたころだった。その当時リボルバー・エンタテイメントでは、所属タレントの給料は現金を封筒に入れて、マネージャーがタレントに直接手渡していた。