【第11回】 | マイナビブックス

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今宵、虫食いの喪服で

【第11回】

2017.01.25 | 柏原弘幸

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苦み走ったマスクと、ひょうきんさをあわせ持つキャラクターに目を付けたリボルバー・エンタテイメントの幹部にスカウトされ、芸能界入りをしたあとは、あっという間に売れっ子になったが、俳優としても、タレントとしても主役の次の二番手というポジションだった。だが時代が良かった。仕事はいくらでもあった。とりわけ俳優、司会、バラエティと何でも器用にこなせる柴田五郎の歩合制の給料は、毎月、少なくとも五百万円以上、CM収入があった月には一千万円を超えた。レギュラー番組が十本を超え、芸能界で一番忙しい男、ともてはやされたこともあった。
柴田五郎は仕事が終っても、マネージャーを引き連れて毎晩飲み歩いた。人と騒ぎ、大酒を食らい、眼をひんむいてボリュームたっぷりの料理をこれでもかとがっつき、美女を口説くのが何よりも好きだった。本能を放し飼いにして、フルスピードで走らせる男だった。
並外れた身体能力とスタミナを持つ柴田五郎の遊びかたは、エネルギッシュで迫力があった。狙いを付けられた美女は、ストレートに言い寄られ、気がついた時には裸にされ、身体の上に乗られていた。勢いにまかせた問答無用のナンパだった。欲望を暴走させるガソリンは、常に満タンにしていた。ジーパンの尻ポケットに、放蕩の燃料である万札を百枚以上捩じ込んで、新宿や赤坂や六本木に出撃した。名声という翼を広げ、キャッシュという燃料をふんだんに積み込んだ飛行機は、欲望の大空で自由気ままな曲芸飛行を繰り返した。柴田五郎は鬼のように散財した。高級寿司店や、焼き肉屋で腹ごしらえをし、常連のたむろするしゃれたバーや、行きつけのライブハウスを徘徊し、ナンパをした。柴田五郎の妻はとっくにあきらめていて、「外で子供をつくらなければいい」らしかった。

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