【第10回】 | マイナビブックス

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今宵、虫食いの喪服で

【第10回】

2017.01.20 | 柏原弘幸

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横山は尻を持ち上げ、体の向きを百八十度回転させると、今度は汗ばんだ背中に扇風機の風をあてた。喉が渇いたが、冷蔵庫がないので冷たい飲み物はない。四畳半の一角に設けられた極小の流しにある水道の蛇口を捻って、生ぬるい水を飲む気はしなかった。
――並外れた大食漢だった五郎さんと一緒の頃は、ずいぶん旨いものを食ったな・・・・・・
横山の脳裏に柴田五郎との出会いのシーンが浮かんできた。
総務部で鬱屈した毎日を過ごしていた横山だったが、入社三年目にチャンスがやってきた。人事異動があり、マネージャーとして現場に出ることになった。その時に担当になったのが、タレント、俳優として活躍していた柴田五郎だった。柴田五郎は三十八歳、横山健は二十七歳になる年の春だった。
「俺はお前をどんなことがあっても守ってやる。だから、お前は俺をどんなことがあっても守るんだ。いいな」
柴田五郎はそう言って初対面の横山に握手を求めた。そして大げさなハグをしてきた。最初からフランクにも程がある、そんなノリだった。対人関係の距離感などというものは、最初から無視をする男だった。マネージャーの横山に、お互い隠しっこなしのズブズブの人間関係を求めた。

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