「……もう、諦めたわけ?」
ぼそりと病室の入り口から声がした。
「あ、陸兄!」理奈が嬉しそうに入り口を向いた。その驚きが茶番かは分からないが、真っ青だった理奈の顔にほんの少しだけ力が戻ったのは事実のようだ。
「なんだ、いたのかよ……。別に諦めたわけじゃない。ただ、現状は手詰まりで、安易な行動を取れる相手ではなかった」
俺は陸とは目を合わせずにつぶやいた。
陸と話すのはあまり好きではない。それでも、今は不思議なことに嫌悪感はなかった。
あれだけの恐怖を経験したばかりだ。形はどうあれ、兄弟四人が一か所に固まれるのは安心感があった。リンチを思い出す度震え出した体も、理奈と陸がいてくれるだけで、少しだけ落ち着いた。