【第7回】幸せ
2016.06.23 | 山下大輔
幸せ
秋の母親が昨夜に亡くなった。俊がその一報を受けたのは、午後の講義中でのことだった。教授の語る言葉など余所に、この先の秋との関係を思案していたまさにその最中に、彼女からメールが届いたのだ。今更、昨日の謝罪のメールでも送って来たのだろうと思い、メールを開けると、違った。
『昨日の夜、お母さんが天国にいっちゃった』
たったのそれだけだった。でも俊はそれで全てを理解した。秋は、昨日連絡を寄越さなかったのではない、危篤の母親の側にいて、連絡を取ることができなかったのだ。
「嘘だろ……」
と、構わず呟いてしまった。頭を抱える。母親に腎臓の持病があるのは知っていた。それでも、そこまで重篤であるとは露ほどにも思わなかった。日頃の秋を見ていても、そんな様子は見えなかった。実際は、命に関わるほど重い疾患に苦しめられていたのか――。
俊は、返すメールに困惑する。
『辛かったね』
『きっとお母さんも幸せだったと思うよ』