「マリー。ベッドの場所変えた?」
俊は、その脇にトートバッグを立て掛けて尋ねる。久し振りに訪れた彼女の部屋は、様変わりしていた。
「変えた」
と、廊下の方で彼女が言った。ピッ、ピッと、クッキングヒーターの作動音が聞こえる。俊は立ち尽くし、一人暮らしの狭いリビングを見回した。ベッドだけではない。テレビの位置も角にあったものが壁際の中央に、カーテンの色はピンクからグレー調に変わっている。変わっていないのは、新しい洋服棚の上に乗った、動物の小さなフィギュアたちぐらいだった。
皿を出す音が聞こえたので、直にできるかと思い、俊はやはり見たことのない脚の太い大きな座卓テーブルの前に座る。何だか飾り気のない部屋になったな、と少し戸惑いながら、そっとベッドの側面に背を預けた。
俊は、間仕切りで垂れ下がる薄い布の向こうにいる彼女を見つめる。肉付きのない、とても細い素足がヒーターの前に直立している。スパイスの香りが流れて来て、リビングの中に広がる。優しく、仄かに甘い香り。懐かしいな、と俊は思った。