昭和2年(1927)
服喪で明けたこの年だったが、大河内伝次郎や林長二郎(のちの長谷川一夫)といった剣劇スターを生 み、パリ仕込みの本格レビュー『モン・パリ』の初演など華々しい話題も多かった。同時に“ぼんやりとした不安″をかかえて自殺した芥川龍之介がインテリに 与えた衝撃は大きかった。
座談会
菊池寛の発案により、この年の『文藝春秋』3月号誌上に初めて「座談会」が登場。出席者は菊池のほか徳富蘇峰、芥川龍之介、山本有三であった。
以降、「座談会」は雑誌誌上欠かせないものとなった。
イット
性的魅力のこと。可愛くて、エロティックな、という意味合いをもつ。
アメリカの肉体派女優クララ・ボウが主演した映画『イット』がこの年に公開され、映画のヒットとともに流行語化した。
シャン
美人、美しいという意味で、ドイツ語のschönに由来したもの。もとは学生言葉であったが、次第に一般でも使われるようになった。
とても美人を「トテシャン」、不美人を「ドテシャン」「ウンシャン」、後ろ姿美人を「バックシャン」といい表す。
岩波文庫
岩波書店がドイツの「レクラム叢書」にならって、7月、「岩波文庫」を発刊。世界の名著が廉価で買えると、大評判となった。
これに続いて、改造社(4年)、春陽堂(6年)、新潮社(8年)がそれぞれ「文庫本」を発刊し、世に「文庫本」ブームを生んだ。
ぼんやりした不安
7月24日、東京・田端の自宅で服毒自殺した芥川龍之介が遣した『或る旧友へ送る手記』の中の言葉。
「僕の場合は唯ぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりした不安である」と書かれていた。
モラトリアム
ダルマ大臣といわれた高橋是清により発せられた“支払猶予令”のことを英語で「モラトリアム」という。
〈渡辺銀行休業〉に端を発した取付け騒ぎが全国に及び、世にいう“金融恐慌”を引き起こしたのだが、高橋是清の「モラトリアム発令」でようやく事態は収束した。
荻野式避妊法
大正12年、産婦人科学者荻野久作が発表した月経と排卵に関する学説。これを利用すると、容易に避妊が行えると、昭和2年『主婦の友』に掲載、広く一般に知られるようになった。
モガ・モボ
モダンガール、モダンボーイの略。モガは、断髪で洋装、モボは、ラッパズボンにオールバックの髪が特徴。評論家の新居格の命名による。
チャールストン
’20年代にアメリカで大流行した踊り。軽快なテンポに合わせて、膝下を跳ね上げるのが特徴で、「砂蹴り踊り」ともいう。
日本では、この頃、モガ・モボたちの間で流行した。
丸ビル○○
東京・丸ノ内にある丸ノ内ビルヂング(通称丸ビル)は、当時のモダンを象徴するものであり、ここに勤める人を、「丸ビルマン」「丸ビルガール」といい、モダンなサラリーマンを憧憬の意を込めて「丸ビルタイプ」と呼んだ。
おらが大将
元陸軍大将、政友会総裁の田中義一首相のこと。
自分のことを「おらが…」というのが口ぐせだったことからついた愛称。