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就活すごろく、上がりはイタリア 下

【第1回】どうして暮らしていく?

2015.10.06 | 吉原みどり

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どうして暮らしていく?
 

ロンドン経由で帰国し、新宿でアパートの一部屋を借りた。それはミラノの家のバスルーム位、部屋というより納戸の隠し戸棚みたいだった。ずっとこの中に閉じこもって居たい。しかし、隠れて居られる場合じゃないのだ。まず仕事を探すこと。何でもいいからすぐに働かなければならない。この歳になって一文無しどころか借金持ちになってしまったのだもの。とにかくまず生活を成り立たせ、その上借金を返せるような仕事があるのだろうか。仕事はどうやって見付けるのだろうか? 以前の打楽器に復帰するのは不可能だと思う。マドリッドでのピアノ弾きは番外として、五年以上全く楽器から離れたら、一寸やそっとでは元に戻らない。やり直す時間もないし、第一、楽器を買うお金も置く場所もない。それにこの期に及んでも尚僅かに残る虚栄心が邪魔をする。みっともない。昔の仲間の前に顔を出したくない。だとすれば何をする? 事務は全く知らないし、ミラノでの五年間は夫の仕事の単なる助手であった。何の特技も無い人が経済的に生活を成り立たせ、その上借金の返済までするなんて……。

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