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就活すごろく、上がりはイタリア 上

【第0回】まえがき

2015.10.06 | 吉原みどり

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まえがき


昨年(二〇一二年)、私は後期高齢者になった。本物の老人に指定されたのである。
そういえば思い出した。むかし、音楽で生業を立てていた頃、オーケストラの楽員たちがくり返しが多くやたらに長い曲を演奏するとき、譜面上の演奏指定記号などを確認しながらうんざりしてとなえていたざれ歌を。


「悪漢レピート(くり返す)、ダルセーニョ(印のところまで引き返せ)、正義の味方コーダ(しっぽ)マーク。(ここからカットしてマークへ飛ぶ)」
とにかくこのコーダに入ると、曲はどんどんテンションを上げつつ、もう繰り返しはなし。終息に向かって一直線。そう、後期高齢者は人生のコーダに突入したってことなのだ。

******

それが起こったのはある冬の夜だった。そのとき私は三十七歳。四畳半の畳の部屋に座ってごはんを食べながら、ふと目の前にブラ下がっている鏡を見て愕然とした。何故か七十五歳の老婆になっているのだ。なんで? 鳥肌がたつ。小さく丸まってしわだらけ、白髪の私……。思わずぞっとして頭を強く振ると我に返った。〈ああ良かった、錯覚だったわ。未だ三十七よ〉。全身から力が抜けたあのときのほっとした感じは今でも鮮明だ。
しかし今日この頃、今度こそ白昼夢ではない。ウソでしょと言いたいが現実である。だけどこうなったのなら毎日鳥肌だってもいられない。しょうがない。それより今をどう生きるかだ。

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