【第2回】小学校の教師になるんだ | マイナビブックス

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 自分はこれから、子どもたちと関わりを持たなくてはならない。それが自分の使命だと感じた。

 子どもたちと関わりを持つと言ってもどうすればいいのか。車掌をしていると遠足等で子どもたちが乗ってくることもあるが、関わりなどはほとんどない。ユースホステルのペアレントになれば、1年に数回は子どもたちを呼んでクリスマス会やそれに似た行事が行われているところがある。しかし今回と同じように1泊だけで子どもたちとお別れになってしまう。

 学校の先生だったらほぼ1日中、そして1年を通して子どもと関わりを持つことができる。私は教師の仕事に魅力を感じ、クリスマス会で関わった子どもたちが小学生だったのもあって、小学校の教師をすることに決めた。

 しかし簡単に小学校の教師になれるわけがない。しかも最終学歴は高卒だ。今から教育大学を受験して合格する必要がある。もともと先生という仕事はいちばんきらいだったからそれに必要な学習はどれも1から、いや0からのスタートになる。高校の学習もまともにやっていなかったから0どころかマイナスからと言ってもいいぐらいだ。また、たとえそれがスムーズにいって教員免許を取得できても、教員採用試験に合格しなければならない。教育大学に入るのも高い倍率だし、教員採用試験に合格するのはもっと高い倍率で、もともと教師になりたい人が計画的に勉強していってもかなりの難関である。しかも私が小学校の教師になりたいと思った昭和50?年の後半は、子どもの数が減ってきて採用が激減していた。

 それでも私は教師をすることに決めていたので、それに向かってスタートした。私には2歳上の姉がいる。姉は神戸大学の教育学部を卒業し、卒業と同時に小学校の教師になっている。昭和?57年(1982年)の10?月に姉からの紹介もあって、京都にある佛教大学で通信教育の教育学科に入学した。通信教育は4月だけでなく10?月にも入学ができる制度になっている。通信教育は入学試験がない。入学金を納めると全員が入学できる。しかし卒業できる10人は?人に1人ぐらいだ。ただし科目別履修の登録をしていると、2年で教員免許を取ることができる。私はもちろんその登録をした。うまくいくと2年したら教壇に立てる。

 通信教育は自分で教科書等を見て学び、科目ごとにレポートを提出しなければならない。そのレポートが合格ならば修了試験が受けられ、それも合格するとその科目の単位がもらえる。それに通信教育でも年に20?日ぐらいはスクーリングと言って、学校に行って受講しなければならない。それに教員免許を取得するには教育実習も必要だ。私の場合は他に教員免許が無いから4週間、小学校で学ぶことになる。

 車掌をやめたわけではない。今まで通り続けている。教科書が届くととりあえずひと通り読み、レポートは勤務明けや休みの日に書いた。レポートはABCDで評価される。Dは不合格なので再提出しなければならない。しかしそれ以外はAでもBでもCでも合格なので単位はいただけるから、がんばってAを取っても自分にとってあまり意味は無いので、Cでもいいから早く合格してどんどん単位を取っていった。教科や先生によってなかなか 合格できないのもあって、図工では課題が難しく5回目でようやくCで合格した。

 スクーリングが第1の関門であった。夏季か日曜日か選ぶことができるが、最初のスクーリングは集中してするほうがいいと思い夏季にした。8月に2週間ほど連続であり、そのためには年休を取らなければならない。5日に1回ぐらい公休日もあるので?10日ほどの年休ですんだ。

 スクーリングは全国からたくさんの、そしてさまざまな人が来ていた。外国の人。車イスに乗っている人。高齢の人。赤ちゃんをおぶっている人。私のように会社等に勤めている人もいて、その中には重役クラスの人もいる。みんな同級生だ。どの人からも通信教育で自ら学ぼうとする意欲が感じられた。

 同じ教室で学習している人に話を聞いてみると、教壇に立っている人もいる。

「中学校で教師をやっているんだけど、どうしても小学校の教師をやりたくて、その免許を取るために学んでいます。」

 また、佛教学科で東南アジアから来たという外国人は日本語がほとんど分からないが、それでも教授の話に真剣に耳を傾けている。みんなから

「すごいね。私たちは日本語が分かっていても難しいからあきらめようと思ったことが何回もある。だけどこれであきらめるわけにはいかないわ。」

 とあちらこちらからこのような声が聞こえてきた。私もこれで、ますます目標に向かって進んで行く足取りが軽くなったような気分になった。

 夏季の暑い期間で、特に体育実技は冷房の無い体育館で汗が流れ落ちたが、第1回目のスクーリングも全日程が終了した。1科目だけテストの成績が悪かったようで単位を落としたが他はなんとか合格し、単位を落とした科目も後に行われた追試で単位を取得することができた。