旅先から友人を残して帰宅
ドイツ文学の竹内康男先生とは専門を異にしながら、大学で唯一心許せる友人であった。いつの頃からか、一年に一度、二人で箱根にでかけては、二晩語り明かすのが恒例になっていた。旅行嫌いの彼も、竹内先生とだけは楽しそうに出かけていく。
毎年行く先は箱根、同じ宿、行く時間、乗る電車も同じ。これこそ彼らしい旅であるが、その年の旅は少し違った。
竹内先生の定年退職祝いにと、彼がお招きしたのだ。
ところが、出かける前日から「歯が痛いから行くのをやめる」と言い出した。
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ドイツ文学の竹内康男先生とは専門を異にしながら、大学で唯一心許せる友人であった。いつの頃からか、一年に一度、二人で箱根にでかけては、二晩語り明かすのが恒例になっていた。旅行嫌いの彼も、竹内先生とだけは楽しそうに出かけていく。
毎年行く先は箱根、同じ宿、行く時間、乗る電車も同じ。これこそ彼らしい旅であるが、その年の旅は少し違った。
竹内先生の定年退職祝いにと、彼がお招きしたのだ。
ところが、出かける前日から「歯が痛いから行くのをやめる」と言い出した。