【第3回】おかずは醤油だけ | マイナビブックス

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 私が初めて仕事をした東灘操車場は、新任がみんなの食事を作っていた。これは本来の仕事ではなくあくまでも慣例であったが、せっかく10人あまりの献立を任されていたのでシェフになったような気になり「おいしかった」と言ってもらうとますますコックの気分にもなった。

 他の職場に配属された同期の人に聞いてみると、あまりこのようなことをしているところはなく、出前をたのむか、そういう店が近くになければ弁当持参で、朝からの泊まり勤務だと弁当を2食分持ってくる人もあるという。

 私が車掌をしていたときもそうだが、大きな駅の近くには職員専用の食堂があり、かなり安い価格であった。乗務行路が複雑なので行路表をにらみながら、どこで食事を取るのかを考えなければならなかった。定休日も頭に入れておかなければ食いっぱぐれになってしまうこともあった。

 正月にも列車は動いている。しかし大きな駅の職員食堂もさすがに営業はしていない。私もそうだったが、職員はそんなとき普通に売っている駅弁を食べている。冷えているうえふだん食べている量を比較するとかなり少ない。しかし、こんなときこそ食べることができる駅弁は数倍おいしかった。

 職員食堂の閉店間際にごはんとおかずを注文しようとした職員がいた。ごはんはまだあったが、おかずがすっかりなくなってしまっていた。そこで、ご飯だけ買って醤油をかけて食べてしまったという。その人はそういう食べ方をよくすると言う。さらに

「にぎり寿司の魚を先に食べてしまって、あとからご飯をゆっくりと食べるような感じです。そのご飯と醤油がよく合うんです。ですから、ご飯と醤油だけでもにぎり寿司を味わえるんです。」

 と得意げに話された。

 小学校の給食はメニューもさまざまで、栄養のバランスも取れているからだれもが満足できるはずだ。しかし好き嫌いが激しい子で、メニューによってごはんだけしか食べないこともあった。醤油もかけないのである。上には上がいたなんか言ってられない。