【第1回】パドルビー | マイナビブックス

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新訳・ドリトル先生物語

【第1回】パドルビー

2014.12.02 | ヒュー・ロフティング

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第1章 パドルビー

 

昔々、何年も前。
おじいさんやおばあさんがまだ小さい子供だったころ、ジョン・ドリトル先生という医学博士がおりました。
医学博士というのは、りっぱなお医者さんで、いろんなことを知っているという意味です。
ドリトル先生は沼のほとりのパドルビーという小さな町に住んでいました。
町の人はだれもが先生のことをよく知っていて、先生の背高帽子(せいたかぼうし)を見かけると、「あ、ドリトル先生だ! すごく頭のいい先生なんだよ」と口々にほめました。
イヌや子供は、かけだしていって先生の後をつけて歩き、教会の塔のカラスまで「カア」と鳴いて首をふります。

先生の家は町はずれにある、ちっぽけな家でした。
けれども庭はちがいます。
芝生がしかれ、石のベンチがおかれ、しだれ柳が何本もゆれている、とても大きな庭です。
家の中のことはサラ・ドリトルという先生の妹が切り盛りしていましたが、庭だけは先生が自分で手入れをしていました。
先生は動物が大好きで、ペットをいっぱい飼っていました。
池に金魚。
台所にウサギ。
ピアノの中に白ネズミ。
タンスにリス。
地下室にハリネズミ。
子持ちのウシに、よれよれの25歳のじいさんウマ。
たくさんのニワトリと、ハトと、2匹のヒツジと、他にも色々。
けれども先生のお気に入りは、『ダブダブ』というアヒルと『ジップ』という犬。
それから、『ブウブウ』という子ブタとオウムの『ポリネシア』。
そいでもって、『ホーホー』という名前のフクロウでした。
先生の妹のサラは、「動物のせいで家がぐちゃぐちゃになるわ」と、いつもブツクサいってました。

そんなある日のこと。
「ひゃあ!」
リューマチ患者のおばあさんが、ハリネズミの寝ているイスに腰を下ろしてしまい、二度と来なくなってしまいました。
15キロ先のオクセンソープという町の別のお医者さんに毎週土曜日、車で通うようになったのです。
妹のサラはいいました。
「兄さん、こんなに動物だらけで患者さんが来るわけないでしょ。診察室にハリネズミやネズミがあふれてるなんて、ありえないわ! 動物のせいで来なくなった人はこれで4人目よ。地主のジェンキンスさんも牧師さんも『病気になってもこの家には近づきたくない』ってよ。もう、
毎日、貧乏が止まらない! こんなことしてたら、金持ちは誰も来なくなるじゃない」
「金持ちより、動物のほうが好きなんだ」
「この、変人!」
妹は部屋から出て行きました。

それからも、先生のペットはふえる一方で、患者さんはへる一方です。
とうとう最後には、動物のことを気にしないペット・ショップ『ネコマンマ』の主人以外、だれも来なくなりました。
そのネコマンマの主人にしても金持ちじゃありません。
年に一度、クリスマスの時だけ病気になり、薬をひとビン600円で買うだけです。
いくら昔のことといっても、1年に600円では生活できません。
もし先生が貯金箱に貯金していなかったら、どうなったことでしょう。
それでも、先生はペットをふやすのをやめませんでした。
えさ代が大変です。
貯金はどんどん減っていき、ピアノを売ったので、中に住んでいたネズミは机の引き出しに引っ越しました。
そのお金もなくなると、日曜日に着る用の茶色の服も売り、もっともっと貧乏になってしまいました。
今では、先生が背高帽子をかぶって歩いていると、村の人はこういいます。
「あ、ドリトル先生だ! 医学博士様だ。前は、ウエストカントリーで一番有名な先生だったのに、今は落ちぶれて、クツ下も穴だらけだって!」
だけど、イヌやネコや子供は今もかけより、先生の後について町を歩きます。
それだけは貧乏になっても変わりません。