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解析ツールの読み方・活かし方 Web Designing 2018年10月号

戦略的販売シナリオで、ECサイトの売上を向上!

ECサイトの売上を向上するためには、「リピーター戦略」は重要な要素の一つである。2回目購入・3回目購入・優良顧客へと購入を重ねてもらうための具体的な販売シナリオや、具体的な施策など、マーケティング戦略や販売戦略立案のヒントになる事例を紹介する。

 

良いものをつくれば売れる!?

生活雑貨のEC事業を営んでいるA社。ここ数年、売上がゆるやかながら徐々に低迷しており、なんとか売上を伸ばすために新しく戦略的なアプローチを検討したいということで、ご相談を頂いた。

A社はこれまで、特にマーケティング戦略や販売戦略を考えるようなことは行っておらず、「良い商品をリリースし続け、自然に認知したお客様からの購入を待つ」というスタンスでEC事業を展開していた。商品企画やデザイン、生産技術などに強みを持っている企業によくあるケースだが、「良いものをつくれば売れる」という信念を持っているために、商品を売るための戦略=マーケティング戦略に関しては、特に何も考えてはいないという状況だった。

もちろん「良い商品である」ことはビジネスにおいて絶対に重要なことであり、それがもっとも大切なことであると言っても過言ではない。お客様に喜んでもらえないような商品を「ブランディング・マーケティングの力でどうにかしてほしい」と依頼を受けたとしても、それは難しい。やはり「良い商品=お客様に喜んでもらえる商品」であるということは、最重要事項である。

しかし、それだけではなかなか商品が売れない時代になりつつある。魅力的な商品やサービスが身の回りに溢れている昨今、「良い商品」という大前提をクリアした上で、どのような心象を与えるかという「ブランディング戦略」や、いかに売れる仕組みを構築するかという「マーケティング戦略」が重要になってくる。

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01_今回の「戦略的販売シナリオ」の流れ
ECサイトでビジネスを展開するA社をもとにして、リピーター戦略による販売シナリオを展開した今回の事例。図は、A社の状況を把握し、フレームワークにより分析、さらにKPIを立て優良顧客化へとつなげた「戦略的な販売シナリオ」の流れとなる

 

まずはリピーター戦略に取り組むことがオススメ

そこで、最初に弊社がA社に提案して取り組んだのは「リピーター戦略」だった。マーケティングの世界には、「1:5の法則」というものがある(図02)。新規顧客に対して商品を販売する労力は、既存顧客に対して商品を販売する労力の5倍であるという法則のことである。商品やサービスの購入などで一度接点を持ったお客様は、一見さんである初めてのお客様よりも、商品を購入してくれる確率が高いのは、当然と言えば当然の話だ。

A社のように過去数年間の販売実績があり、市場からの認知や既存顧客リストが、ある程度獲得できているような状況の企業においては、「リピーター戦略」に取り組むことをオススメしている。新規顧客の獲得に躍起になって疲弊するよりも、まずはリピーターの育成に力を使うべきであるということである。

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02_1:5の法則
新規顧客に対して商品を販売する労力は、既存顧客に対して商品を販売する労力の5倍という。新規顧客の獲得に躍起になって疲弊するよりも、まずはリピーターの育成に力を使うべきである

 

リピーター戦略の立て方

リピーター戦略を考えるにあたっての分析手法にはさまざまなものがあるが、もっとも代表的なのが「RFM分析」である(図03)。RFM分析とは、過去に販売実績のあるお客様を「最終購買日(Recency)」「購買頻度(Frequency)」「購買金額(Monetary)」で階層分けをして分析する手法のことである。たとえば、最終購買日が最近で、購入頻度が高く、購入金額が高いお客様を「優良顧客」、逆に最終購入日が古く、購入頻度も購入金額も低いお客様を「離反顧客」と考え、それぞれのお客様に対するマーケティング戦略を練るために使用する。

A社の場合、まずは「1カ月以内の再購入率」「3回目の購入に至る割合」「上位10%の優良顧客の年間累計購入金額」というKPI(数値目標)を立て、戦略を立案することにした。各KPIに対して具体的な施策を考え、実行していく(図04)。

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03_RFM分析
FM分析とは、顧客を分類し、売上向上につながる具体的な施策を立案するために使用する。お客様を「最終購買日(Recency)」「購買頻度 (Frequency)」「購買金額(Monetary)」で階層分けをして分析し、「優良顧客」と「離反顧客」を定義し、マーケティング戦略を練る。全顧客に対しての施策をやみくもに考えるのではなく、顧客の分類毎に施策を考えることで、より効果の高い施策立案が可能になる。この事例では、まずは費用対効果の高い「優良顧客」の定義を明らかにし、VIPサービスなどの具体的な施策を考える際に有用であった
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04_優良顧客化に向けた各KPI
リピーター戦略においては、2回目購入・3回目購入・優良顧客へと購入を重ねてもらうための販売シナリオをつくることがキモである。全体的なシナリオを作成することで、それぞれの顧客の興味関心度合い(ファン度合い)のステージに応じて、最適な施策の実行が可能になる。シナリオを考える際には、各ステージにおいて顧客に行動してほしいこと(目的)を明確にした上で、その目的だけに集中をしてプロモーションを行うことが重要となる

 

1カ月以内の再購入率を上げる

A社の過去の販売データを分析したところ、初回の購入から1カ月以内に再購入したお客様は、その後もリピーターになる割合が高いということが判明した。つまり、「1カ月以内に2回目の購入に繋げる」ことに全力を尽くせば、リピーターが増える可能性が高いということである。

そのため、A社は積極的に「2回目の購入」に向けて仕掛けを行った。たとえば、「定番人気商品の5個セット:6,000円」を購入したお客様に、1・2・3週間後に、それぞれメールで「季節のお買い得限定商品:1,000円/個」を提案する施策を実施した。最初の購入時(1,200円/個)よりもお買い得な提案により、2回目の購入のハードルを下げるという狙いである。

これにより、何も行っていなかった頃と比較して、初回の購入から1カ月以内の再購入率が大幅に向上した(図05)。

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05_1カ月以内の再購入率を上げる考え方
初回購入時よりもお買い得な提案をすることで、2回目の購入のハードルを下げ、 1カ月以内の再購入率が大幅に向上。A社に限らず、小売業においては、「1回目よりもお買い得な提案をすることで2回目購入のハードルを下げる」という施策は有用である。ただし、あまりにも1回目の販売金額との乖離(割引度合い)が大きすぎると、心象が悪くなってしまうケースも考えられるので留意が必要。「1回目購入後のお客様に、2回目購入で使える特別クーポンの配布」なども、これと同じ考え方である

 

3回目の購入に至る割合を上げる

マーケティングの考え方に、「3回安定10回固定の法則」というものがある。「3回購入したお客様は、そのお店に安定的に来る「なじみ客」になる。10回購入したお客様は、他店に行くことがない「固定客」になる」という法則である。A社の場合、2回目購入のお客様に対して、冬と夏に特別割引価格で福袋(ハッピーバッグ)の販売施策を実施した。通常においても人気の高い福袋(ハッピーバッグ)を、さらに特別割引で購入できるというものである。

福袋(ハッピーバック)は通常価格でもかなりお得なため、利益率的にも赤字覚悟のかなり思い切った施策だが、「3回目の購入」というハードルを越えるため、思い切って魅力的なプロモーションを行った(図06)。3回目の購入に至る割合を高め、「3回安定10回固定の法則」に則って「なじみ客」になってもらうという狙いである。

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06_3回目の購入に至る割合を上げる
「3回目の購入」というハードルを越えるために、赤字覚悟で魅力的なプロモーションを行う。これにより、顧客の「なじみ客」化を狙う。「3回安定10回固定の法則」に則り、「3回目の購入」というポイントが最も重要であると考え、他プロモーションとはメリハリをつけて、このタイミングで思い切ったプロモーションに踏み切ることがオススメである。3回目の購入まで進めば、そこまでのプロモーションを実施しなくても購入をしてくれる「なじみ客」になってもらうことができる

 

上位10%の優良顧客による年間累計購入金額の向上

A社では、「優良顧客」を「年間累計購入金額が上位10%の顧客」と定義した。もちろん、この「優良顧客」の定義は、その企業の取扱商品や規模、事業形態などによっても大きく変わるので、自社内で検討をする必要がある。

A社は、「優良顧客」の定義に合致する対象者の動向を細かくウォッチして、「年間累計購入金額」が向上するように、さまざまな特別サービスを提供した。例えば、「送料無料サービス」「新商品の優先購入チケット」「季節の挨拶のブランドブック(カタログ)の郵送」などを行い、「優良顧客」に、より気持ちよく購入してもらい続ける仕組みを整えた。航空会社のマイレイージ会員や飲食店のVIPサービスなどもこれと同じような考え方である。その結果、優良顧客の年間累積購入金額を1.6倍へと増やすことに成功した(図07)。

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07_上位10%の優良顧客の年間累計購入金額の向上
優良顧客が気持ちよく商品を購入してもらい続けるためのVIPサービスのような仕組みを整えることで、特別感を感じてもらい、優良顧客の年間累積購入金額1.6倍を実現

 

リピート購入に向けた一連の販売シナリオの重要性

リピーター戦略に取り組むためには、前述のように、2回目→3回目→優良顧客へと購入を重ねてもらうための販売シナリオをつくることがキモである。

「1回購入してもらえれば(商品を一度使ってもらえれば)、商品の良さがわかってもらえるので、後はリピーターになってもらえるはずだ」と考える企業は少なくない。新規顧客向けの格安集客商品や、無料お試しセットの提供など、「初回購入に向けた施策」に熱心に取り組んでいる企業も多いのではないだろうか? しかし、そればかりでは利益を圧迫してしまうので、同時並行で、「2回目・3回目と商品を購入して、リピーターになってもらうための施策」にも取り組むことが大切である。そのためには、事前に一連の販売シナリオをきちんと立てた上で、商品作成と販促施策を連動させていくことが必要になる。

例えば、前述のように、「2回目購入に向けた季節のお買い得限定商品のオファー」「3回目購入に向けた特別価格福袋のオファー」「優良顧客向けの様々な特別サービス」といったように、初回購入から2回目購入・3回目購入・優良顧客化までの一連の販売シナリオを整えることが非常に重要である。

 

顧客の状態に合わせた様々な販売シナリオ

「リピート購入に向けた販売シナリオ」だけではなく、「離反顧客向けの復活シナリオ」や「特定顧客向けの限定シナリオ」など、顧客の状態にあわせた販売シナリオに沿って商品作成と販売施策を行い、A社はさらに売上を伸ばしている。

マーケティングや販売戦略をないがしろにするのではなく、各顧客の状態にあわせたきめ細やかな販売シナリオを考えてみてほしい。そうすれば、御社のつくった「良いもの」を、もっと多くのお客様に提供でき、喜んでもらうことができる。

「何から手をつけてよいのかわからない」という企業は、ぜひ、今回お伝えした「リピーター戦略」から取り組むことをオススメする。きっと、何か新しい気づきがあるはずである。

 

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Text:加藤雄一郎
(株)ピージェーエージェント 代表取締役 NTTコミュニケーションズにて、デジタルマーケティングに関するコンサルタントとして活躍後にスモールビジネス向けコンサルティング会社、ピージェーエージェントを設立。ブランド戦略の立案を強みとして、ブランディング・マーケティングに関するコンサルティング事業を展開している。 https://pjagent.jp/
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Text:一般社団法人ウェブ解析士協会
事業の成果に導くWeb解析を学ぶ機会の創出、研究開発、関心を持つ人たちの交流促進、就業支援などで、Web解析を通じての産業振興やWeb解析の社会教育を推進する。

掲載号

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10月号特集内のP058におきまして、AI Startup Studio by LedgeのURLを誤って記載しておりました。以下に訂正するとともに、読者のみなさまならびに関係者のみなさまに深くお詫び申し上げます。

AI Startup Studio by Ledge
https://www.ai-startupstudio.ai/

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