2018.02.14
暗くて深い“立場の溝”を埋める チーム作りの極意 同じ目標に向かっているのになぜ話がかみあわない!?
同じビジョンを持ってゴールに向かって走っていた仲間のはずなのに、なぜだか、いつの間にか生じてしまう「溝」。その溝の正体と溝発生の回避策について、(株)グッドパッチの土屋尚史さんが教えてくれます。
Illustration:カトウキョーコ
溝には“種類”がある!
意思決定者とのタテの溝
たとえば、UXデザインに不可欠なユーザー調査を行いたいというフェーズでの話。制作現場としては必要なプロセスなのだから、当然、実施の決済が下るだろうと思っていたのに、意思決定者からの答えは「NO」。「コストも時間も掛かる調査が必要な根拠を、データで示せ」などといわれ現場は困惑したという経験はないだろか。仮説を検証するためにすぐにでも動きたい制作の現場と、明確な判断基準をもとに慎重に動きたい意思決定者。明らかに存在するこの“大きな溝”、どうやったら埋めることができるのか? 土屋尚史さんは、「意思決定者の“主観”に訴える」方法を考えてみてはどうかと提唱する。
「人間は原則、主観の生き物です。体験したことがないものに関しては、主観がないため判断することができません。そこで判断材料として、客観的なデータで補完しようとするわけです。意思決定者は客観的なデータを求めはするけど、それをやる・やらないの最終的な意思決定は、結局のところ彼らの主観で行っています。この主観を構成するのは“体験”でしかありません。主観に訴えるとはつまり、意思決定者にも最初からプロジェクトにかかわってもらい、体験を積んでもらうということです」(土屋尚史さん)
最初の段階でチームのメンバーやパートナーなどに触れ、プロジェクトが好転する様を体験することがとても重要だと土屋さん。そうやって小さな成功体験を積み重ねていくことによって、体験が判断基準となり、その延長線でプロジェクトに寄り添った意思決定をするようになるというわけだ。そのためにも、まずは意思決定者も含めたチーム全員で、サービスのユーザーになること。そしてユーザーインタビューの場に意思決定者を連れ出し、ユーザーが使っているところを実際に見てもらうこと。この2点が、意思決定者とのタテの溝を埋める解決のために最も重要なファクトなのである。
現場上司とのタテの溝
デザイナーをマネジメントするポジションに、営業出身の上司がつくケースも少なくない。こういった時にもタテの溝が深く刻まれる。この場合の多くは、営業とデザイナーとの“共通言語”がつくれずにプロジェクトが進行することになるのだが、「この人はやっぱり営業だから、話が通じない…」など感情論で片付けようとすると溝は拡大してしまう。
「日本の場合、デザイナーや営業はそれぞれの世界で知見を深めていきます。そのため、相手の背景にあるものを理解できなくなることも少なくありません。海外だと、ある1分野を深堀りしつつもあらゆるジャンルに広く知見を持てる人材になるよう“T字型人材”の教育が行われています。私は、営業もして、デジタルコンテンツのディレクションもしていた経験があるので、数字で語る営業の話も、右脳で考えるデザイナーの言葉もどちらも理解できる。そういった意味では、2つの分野を橋渡しして整合性を図っていくことができる“ブリッジ型人材”です。どちらの型も、相手を思って考えられることです。相手にどんな心理背景があるのかなどを理解することが大切。チーム内での仕事にも“ユーザー視線”を取り入れて、相互理解に取り組んでみてはどうですか?」
制作VS営業のヨコの溝
制作と営業でいえば、それぞれの立場で「ユーザー体験のゴール」「ビジネスのゴール」を目指そうとするなど、並列関係の溝が生じやすい。
「それぞれのゴールの発端となるスタート地点へとさかのぼっていくと、最終的には同じことを達成しようとしているんですよね。ただプロジェクトの各論の話をする際に、それぞれが持っている言葉を使って話をするので、バラバラのことを言っているように見えてしまいます。そんな時には、『なぜ』を問い続けることです。『それをやりたいのは、なぜですか?』と、お互いに問い続けることで、実はゴールは一緒だったねと、気づけることが多いはずです」