2016.08.18
目指す道に繋がった「考え続ける」という学び わたしたちのターニングポイント
(株)ロフトワークのディレクターとして働く金指了(かなざし りょう)さんにターニングポイントが訪れたのは、今から2年と少し前、26歳の頃のことだ。何か「強み」を身につけたいと通ったデザインの学校で「ソーシャルデザイン」を体験した。「やりたかったことの輪郭が見えてきた」と話す金指さんが、当時を振り返る。
Photo 五味茂雄(STRO!ROBO)
“もう一つのデザイン”とは
「数年社会人をやってきて、自分は強みとなる特徴がないと感じていました。良い仕事をしている人は、何かしら強みを持っているもの。自分もプラスアルファを身につけたいと考えました」
当時、不動産関連の会社で働いていた金指さんが目指したのは、以前から興味があったというグラフィックデザインの技術を身につけることだった。社会人向けの学校で学ぼうと考えたのだ。そのとき、選定の決め手となったのが、“もう一つのデザイン”だった。
「ある学校の目録で『ソーシャルデザイン』という言葉に目が止まったんです」
ソーシャルデザインとは、デザインの世界で用いられる思考法やノウハウを、広く社会の課題解決に役立てようという考え方のこと。その言葉を教育コンセプトの一つに掲げていたのが、金指さんが通うことになる、東京デザインプレックス研究所※1だ。大学でメディア学を専攻し、卒業後には仕事の傍ら、宮城県気仙沼市でのNPO活動に関わってきたという金指さんは、その考え方に強く共感した。
「環境問題や地方の人口減少のような問題、さらにはローカルの魅力をどう発信していくかといった課題に、デザインの力を活かして貢献をしていくことができたら、と感じていました」
技術とその向こう側にあるもの
東京デザインプレックス研究所に通いはじめた金指さんは、グラフィックとソーシャル、二つのデザインの世界に触れていく。専攻した「グラフィック/DTPデザイン」の授業では、技術のみならず、デザインの構造的な考え方や現場での実践を重視したノウハウを学んだ。その一方で「ソーシャルデザインラボ」と呼ばれる学内プロジェクトに参加し、ソーシャルデザインの実践に挑戦した。
「ラボでは、学校と、学校のある渋谷との間により良い繋がりをつくるのがテーマでした。課題を見つけ出し、解決策を模索することが目標だったのですが、成果を導き出すどころか、課題を明確にすることがもっとも難しかったです」
それまでも地域の課題に目を向け、自分なりに向き合ってきたつもりだったが、「まだまだ考え方が甘いと思い知らされた」という。ただ、その試みの中で、ある大事な気づきを得た。
「ラボの担当の先生と出会い、考え続けることを学んだことが、自分にとってのターニングポイントでした。実際に地域や町の課題に取り組んできた方なのですが、質問をしてもけっして答えを教えてはくれず、『なんでだと思う?』と逆に問われ、さらに考えることを求められました」
その時は「しんどい」と感じていたのだが、今では、「もっと考えておけば、なすべきことが見えたのではないか」と感じているという。
「卒業後に、転職先としてロフトワーク※2を選んだのは、社会的な課題解決にも取り組む会社だったからです。いつかソーシャルデザイン的なアプローチに挑戦できれば、と思っていました」
ソーシャルデザインラボでの経験からおよそ2年。金指さんはこの夏から、ロフトワークで地域の課題解決をテーマとしたプロジェクトに参加することになった。「あの時の経験を活かせるように」。金指さんは、考え続ける。
※1 東京・渋谷にあるグラフィックデザイン・Webなどのプロを育成する社会人向けのデザイン学校。「ボーダレス思考」「経済合理性」「デジタル環境対応力」などの考え方とともに、「ソーシャルデザイン」を教育コンセプトとする。http://www.tokyo-designplex.com/
※2 Webサイト、空間・スペース、映像など多様なジャンルの企画・制作を手掛けるクリエイティブエージェンシー。デジタル工作機械を備えるものづくりカフェ「FabCafe」も運営する。http://www.loftwork.jp/
企画協力:東京デザインプレックス研究所