2016.06.18
特別企画 [PR] Web Designing 2016年8月号
ソニー株式会社|顧客視点のサポートコンテンツへと進化する「トリセツ」 トリセツ電子化計画/HTML化で広がる使用説明の価値と可能性
多くの企業がトリセツのWeb公開をPDF ダウンロードで済ませている中で、ソニー(株)は全製品でトリセツのHTML 化を行っている。同社のトリセツの役割は、操作説明のみの役割を離れ、購入前から購入後までをサポートするサポートコンテンツへと進化している。過去4年間ほどのこの取り組みの中で、わかってきたことや実験中の課題などについて、トリセツの制作およびサポートサイトの企画・運用を行うソニー(株)とソニーマーケティング(株)のスタッフに聞いた。
Text:宮下知起(ナレッジオンデマンド)
Photo : 合田和弘
Web時代の企業と顧客の姿
ソニー(株)では、トリセツのWeb化を積極的に推進している。そのきっかけは、ユーザーサポートの軸足をWebサイトに置いたこと、2011年頃からのスマホからのアクセスが急増したこと、だという。同社カスタマーソリューション部の増山龍太氏はデジタルカメラ類のトリセツを担当しているが、同社内のトリセツを担当するメンバーの中でも、Web化への取り組みのリーダーシップをとる存在だ。同氏は、同社がそもそもユーザーサポートにおいてWebを重視する理由についてこう語る。
「Webを手厚くすることで、お客様自身で解決できる機会を増やすことが、Web時代の企業と顧客のあるべき姿だとソニーは考えています」
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クリエイティブセンター 伊東陽子氏
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カスタマーソリューション部 増山龍太氏
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カスタマーサポート本部 市川二朗氏
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カスタマーサポート本部 松田久美子氏
カスタマージャーニーの中のトリセツ
2012年以降、同社ではIT 機器のみならず、AV機器も順次トリセツのWeb化を進め、現在ではほぼすべてのカテゴリでトリセツをWebで公開している。製品添付のマニュアルとは違い、Webはお客様にどうアクセスさせるかも課題のひとつだ。同社では、製品に付属する紙媒体などからQRコードや短縮URLなどを使い、スマホからたどりつけるようにしている。
例えばテニス愛好家のための同社の製品「Smart Tennis Sensor」は、スマホを使ってQRコードを読み、Webのトリセツを閲覧できる仕組みを採用している。製品のサポートコンテンツのデザインを担当する同社クリエイティブセンターの伊東陽子氏は説明する。
「購入前のお客様も意識しています。パッケージの裏面にもQRコードを付けることで、店頭にいながらにして自分が持っているラケットが適合するかを調べられます。加えて、商品の使い勝手も見ることができます」
購入前体験をお客様に提供する、カスタマージャーニーの工夫でもあるわけだ。
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テニスラケットに装着して自分のテニスの上達度をスマホで管理できる「Smart Tennis Sensor」。パッケージの裏面とリファレンスガイドのQRコードから、スマホでWebサイトのコンテンツに誘導する。店頭でスマホからヘルプガイドやスタートガイドを読めば、お客様は自分の持っているラケットに適合するのか、やりたいことにマッチした製品なのかを判断でき、購買の判断が促されることになる。購入後は、テキストのガイドのみならず動画でも利用法が閲覧でき、お客様への丁寧な継続的なサポートとなっている
また、Smart Tennis Sensorは商品の特性にあわせて、トリセツの提供形態を特化した一例でもあるという。スマホがないと使えない商品なので、ガイダンスのコンテンツはすべてスマホ上で見せているわけだ。商品に添付される紙のトリセツは簡単なガイダンスのみとなっている。
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ユーザーが商品やサービスを購入してから使いこなすまでを説明した図がカスタマージャーニーマップだ。従来のトリセツは、商品やサービスを利用(購入)する場面でしか使われなかったが、コンテンツをWeb化することでカスタマージャーニーマップ全体で活用されるコンテンツとなる
一方で、デジタル一眼レフカメラのトリセツのように非常に分厚い紙冊子を提供するケースもある。ソニーのサポートサイトの企画・運用を行っているソニーマーケティング(株)カスタマーサポート本部の松田久美子氏はいう。
「商品性や、商品の対象ユーザーの違いに応じて、紙のコンテンツの分量や内容を変更しています。Web側ではリテラシーにとらわれずに、より詳しい情報を掲載するようにしています」
Webを使いこなしているお客様に対しては、紙は使い出しのガイダンスまでにとどめて、徹底的に使いこなす情報はWeb 側に置く。Webに慣れていない方に対しては、紙も同様に厚くするという考え方である。
ただ、コンテンツの内容に関する方針では、もう1つ考え方の軸がある。
「より深い使いかたを求める方は、メーカーから情報を出さなくても、その製品が好きな人たち同士で、SNSなどで盛り上がって使い方をどんどん自分たちで出しています。そこで、むしろ私たちはベーシックなスキルを持った裾野の広いお客様にいかにお使いいただけるかというところと、より深い使いかたを求める方に楽しみかたを提供するというところと、2つの軸があると感じています」(松田氏)
トリセツとサポートコンテンツは連続した商品情報
紙とWebの棲み分けという観点で、1つ事例がある。「ウォークマン®」では、いちはやくサポートサイトのチームとトリセツのチームの両方を同一メンバーでマネジメントする体制をつくった。これに取り組んだのが、松田氏とソニーマーケティング(株)カスタマーサポート本部の市川二朗氏だ。トリセツ側の部門と協業することで、ウォークマンのトリセツとWebのヘルプガイドをトータルで見直した。これによって、トリセツとサポートサイトの両方にQ&Aがあり、その内容がだぶったり、説明のしかたが異なったりといったことが解消された。Webサイトでは、トリセツを「ヘルプガイド」と名付けている。ヘルプガイドの中から「困ったときは」というメニューを導線にQ&Aに飛べる。
「ヘルプガイドはトリセツのチーム、Q&Aはソニーマーケティングのサポートチームがつくっているコンテンツ。ひとつの製品情報がこの中で回遊できるようになっています。ヘルプガイドはWebの特別なコンテンツではなく、サポートコンテンツのひとつです。日本から、このようにトリセツの情報はサポートと共存するコンテンツという取り組みを始めています」(市川氏)
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このコンビネーションのメリットは、Q&Aがリアルタイムで更新できることだという。Q&Aは、問いと答えをすぐに用意して、最新情報を投入できるというフットワークの軽いコンテンツだ。それに対しては、ヘルプガイドはしっかり時間をかけてつくっている。時間をかけてまとめ上げたフルの製品情報とアップデート可能な情報を組みあわせて、上質な情報に練り上げていく。
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Webトリセツは顧客毎に顔を変えるコンテンツに
Web化に取り組んだ当初は、これまでの紙のトリセツと同様に、全機能をまんべんなく揃えたコンテンツをつくることを方針として進めたという。ところがログを見ると、見られていない項目と見られている項目に大きな差が出ることがわかってきた。
「商品のUIが教えてくれるから、わざわざ調べなくてもいい機能と、製品だけでわからないからWebでもっと詳しく知りたい機能があるということが見えてきました。そこで、必要なものは丁寧に見せ、ニーズがないものはシンプルにしていく。あとは、サポートのQ&Aとのコンビネーションを持たせ、トータルに情報のメリハリをつけるということを考えるようになりました」(松田氏)。
また増山氏は、ログ解析によって、よりお客様視点で考えることができるようになったのが武器だと話す。
「同じ内容でも、機種によってアクセス数に大きな違いがあるので、お客様の視点を考えると同様に書くべきではないことが判断できます。また、アクセス数が非常に多いコンテンツは他機種とあわせた操作説明では満足いただけないだろうということで、濃い内容を入れ込むということが日常的にできるようになりました」
増山氏は「トリセツをWeb化するというだけでは、志が低いと思います」と主張する。
「サポートサイトのコンテンツも含めて、Web上の商品情報の一部としてトリセツを位置付けるべきです。従来のマニュアルというくくりが薄まって、サポートコンテンツ全体の中で、製品の使い方を語るコンテンツに今後変わっていくと考えています。従来のトリセツは語らなかった情報や、商品の楽しみ方の提案が内容の主軸となっていくでしょう」(増山氏)
トリセツのWeb化は媒体が変わることではなく、トリセツそのものが変わっていくということだ。