2016.03.08
知的財産権にまつわるエトセトラ Web Designing 2016年3月号
人工知能に著作権は認められるのか? ~青山ではたらく弁護士に聞く「法律」のこと~
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
靴屋が眠っている間に靴を作ってくれる、“こびと”の登場する『こびとのくつや』というお話がグリム童話にあります。自分にもそんなこびとがいてくれたら‥‥と夢見たことのある人も少なくないのではないでしょうか。
2015年末、読売新聞にある短い物語の一部が掲載され、話題となりました。ショートショートで有名な星新一風の作品だったのですが、実はこれはコンピュータが自動的に創作したものだったのです。この作品を生み出したのは、はこだて未来大学によるプロジェクト「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」です。星新一作品の文章を解析し、新たな作品を生み出すプロジェクトで、現在、星新一賞の受賞を目指しているそうです。
また、今年発売予定の新型ドローン「Lilly」には、自動追尾機能があり、空中に放り投げるだけで被写体を追尾し、動画や静止画を自動撮影します。つまり、一度放り投げさえすれば、自動的に移動しながら滑走中のスノーボーダーや登山家、さらには動物などの極めて鮮明な画像・映像を撮影するのです。
音楽の世界はさらに進んでいます。私が東京藝大音楽学部の学生に、自動作曲プログラム「エミー」の作曲した曲とバッハの曲を聞かせたところ、3分の1くらいの学生がエミーの作品をバッハと間違えました。音楽作品としてのクオリティはまだまだという方もいますが、少なくともBGMに使う程度ならまったく問題はなさそうです。しかも1987年当時、エミーの制作者であるデイヴィッド・コープがランチに出かけている間に、エミーは自動的に5,000曲もの合唱曲を作曲したそうです。
このように、人工知能は今後さまざまな作品創作の場面で“こびと”となって働いてくれそうです。では、このような人工知能の作品に著作権は成立するでしょうか?
現在の著作権法では、著作権が成立するのは「著作物」、すなわち「人の思想・感情を創作的に表現したもの」とされています。そう考えると、人工知能が自動的に作り出したものについて「人の思想・感情」が表現されていると評価するのは難しそうです。今のところ日本でも海外でも、著作権は成立しないという考えが主流です。
ところが、イギリスは1988年に人工知能の創作物に著作権を認める法改正を行いました。改正法では権利者は「necessary arrangement(必要な手配)を行った者」で、保護期間は創作から50年とされています。“necessary arrangementを行った者”が誰なのかは問題ですが、この場合はシステムの開発者や運用者となる可能性が高そうです。
これから日本でも従来の考えを見直すべきかが問題となりそうです。もし人工知能の制作物の著作権が成立しないとなると、特許権などで保護するのでしょうか。そうすると文科省文化庁(著作権法)と経済産業省特許庁(特許法)の所管争いにも発展するかもしれません。“こびと”の作品は、これからいろいろな物議を醸しそうです。