2023.08.23
特別企画 [PR] Web Designing 2023年10月号
これからの企業に求められる情報発信の鍵はエクセレントサービス
4コマ漫画から学ぶ伝わる情報発信のあり方
Photo : 黒田 彰
人々が取り扱う情報量が猛烈な勢いで増加している現代において、必要な情報を必要な人に的確に届ける行為は、知識とスキルが必要なものとなっている。特に企業からユーザーへの情報発信は、お互いが持つ背景や状況といったコンテキストにギャップが生じがちで、それを埋めなければ正しく伝えることは難しい。そこで求められるのが、両者の間に立ってギャップを埋める方法論や技法だ。新生コミュニケーションデザイン策定委員会では、前回に引き続き4コマ漫画の制作技法を参考にしながら、情報の発信者と受信者のギャップを埋める役割とそのフローについて考えていくこととなった。
ユーザー理解を深めることで、適材適所に情報を届ける
新生コミュニケーションデザイン策定委員会が、必要な情報だけを適材適所に届けるために4コマ漫画の技法に注目したのは、限られた枠の中で起承転結を付けつつ、バランスの取れた情報量を盛り込んでいるからだ。4コマ漫画の場合、作者が伝えたいことである「根っこ」と、ストーリーラインとなる「幹」を定めた上で情報を絞っていくが、さらにその前提として、ユーザーになりきることでその目線と感情を理解し、ユーザーが本当に求めているものや実は嫌がっているものを理解する「憑依」をしておくことで、より刺さる作品をつくりあげることが可能となる。
憑依は、ソフトウェア開発現場で用いられる「ユースケース」に近い技法だ。ユースケースとは、ユーザーがツールを使うタイミングやその使い方に関するデータを収集・解析することで実情を把握し、ユーザーに対してより的確な使い方を提案したり、課題の改善に活かしたりできる。
憑依は主観的な視点を盛り込むもので、ユースケースはデータに基づいて客観的な視点で物事を考えていくものという違いこそあるが、このふたつを組み合わせていくことでユーザーに対する理解の深化が可能となる。その上で、起承転結を伴った情報を発信することが、必要な情報を適切に届けるための近道となる。
「コンテキストのギャップ」が真の理解を妨げる
ただし、情報が発信者から受信者に届いたとしても、その理解までもがスムーズに進むとは限らない。それは、両者が持つリテラシーやコンテキストに違いがあり、ギャップが生じてしまうからだ。コミュニケーション中に何らかのギャップが生じた際、対策として推奨されるのは傾聴することだが、傾聴が有効なのは両者が持つリテラシーやコンテキストが同等の場合に限られる。
そこで必要となるのが、媒介となる存在だ。新規事業創出や人材育成を手掛けるとともに、ビジネスシーンを題材とした4コマ漫画作家として活躍する瀬川秀樹氏は、その重要性を説明してくれた。
「幼稚園くらいの子どもたちが遊んでいる時、一見すると会話が成立しているように思えても、よくよく聞いてみるとまったく意味が通じ合っていないということがありますよね。そういったことは実は会社の中でもよく起きています。例えば若手社員と経営層の対話などはその最たるもので、それぞれのリテラシーやコンテキストが大きく異なるため、話が通じているように見えてまったく通じていないということが起こりがちです。その間を埋めるためには誰かが間に立ち、両者が理解していないこと、勘違いしていることを察知し、合いの手を入れたり解説をしたりすることでコミュニケーションを正しい方向に導いていく必要があります」
実践アプローチ/ユーザー個々のコンテキストを狙え!
個人の状況や要求が多種多様であるなら、それぞれのユーザー自身やその状況・要望を理解して狙い撃ちをすることを考えよう。そのためには、企業とユーザーの間で「導く存在」が必要だ。
求められる「コミュニケーションを正しい方向に導く存在」
瀬川氏の言うコミュニケーションにおけるギャップは、発信者が企業、受信者がユーザーである場合はより顕著に生じる。かつて企業は自社の商品やサービスの魅力や特徴を、マスメディアなどを使って一様に伝えていればよかった。しかし現代社会は数多の情報が溢れ、ライフスタイルも多様化している。その中で企業が自社にとって都合のいい情報を一方通行的に伝えていても、ユーザーが持つコンテキストには刺さらず理解もされにくいため、購買などの成果にはつながりにくい(P013 図02)。
そこで求められるのが、瀬川氏が口にしたような「コミュニケーションを正しい方向に導く存在」だ。アドビの安西敬介氏は、その役割を担うのは、専門的な情報を専門家以外にもわかりやすく伝えることに長けたテクニカルコミュニケーター(TC)や、自社の製品やサービスの魅力や特徴を社会に発信する能力を持つマーケターだと言う(図03)。
「TCやマーケターのようなコミュニケーションに関するスキルを持った存在が企業とユーザーの間に立ち、企業が発信する情報を正しい方向へ軌道修正することで、次のコミュニケーションへと繋げていけるでしょう。この時、ユーザーが企業側のコンテキストを理解し、あわせてくれるということはないので、その点にも注意が必要です」
また、安西氏によれば、コミュニケーションを正す存在には発信者そのものを理解していることも求められるため、できる限り企業の内部にいる人材が望ましいともいう。
顧客体験アプローチ/体験価値を追究し競争力を高める
ユーザー個人レベルのコンテキストを理解し、企業とユーザーの正しいコミュニケーションを実現させることはすなわち、ユーザーの体験価値の質的向上につながる。それが今後の企業の競争力になっていくと黒田氏は語る。
ギャップを埋めることでエクセレントサービスを実現する
では、TCやマーケターはどのように情報を正しい方向へと軌道修正するのか。ユーザーがどのような状況にいて、何を考え、どんな商品やサービスを求めているのかを前述の憑依やユースケースといった手法で理解し、4コマ漫画の技法に則って根っこと幹を定めて情報を絞り、必要に応じて中身を調整した上で、ユーザーの「ストライクゾーン」に向けて情報の軌道を調整する。こうしたフローで情報を発信していくことで、企業とユーザーのギャップは埋まり、情報が届きやすくなっていく。
企業がユーザーのことをしっかり考えて活動することで、ユーザーは「自分は大切にされている」「期待を超えてくれた」といった感情を抱く。こうしたサービスは「エクセレントサービス」と呼ばれ、今後国際競争力を高めるために求められる。今回紹介した複数のポイントは、企業が情報を発信し、魅力を高めていく上で重要なキーワードとなっていくだろう。
企画協力:一般財団法人テクニカルコミュニケーター協会