2022.03.07
知的財産権にまつわるエトセトラ Web Designing 2022年4月号
著作権の相続 ~青山ではたらく弁護士に聞く「法律」のこと~
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
2021年に亡くなった作曲家の小林亜星さんの遺産をめぐり、相続人の間で紛争になっているという報道がありました。
著作権の保護期間は著作者の死後70年で、著作者が死亡すると相続人が相続します。相続人が複数いる場合は、法定相続分に従います。例えば、小林亜星さんの相続人は、先妻との間に生まれた子どもが2人と、その後再婚した後妻の3名です。この場合の法定相続分は、後妻が2分の1、2人の子どもがそれぞれ4分の1です。著作権以外に財産があれば、財産全体を評価して、各々の相続人がこの割合に見合う財産を相続します。
小林亜星さんは遺言を残していたようですが、少し複雑になるので、以下では遺言がなかった場合について説明をします。
遺言がない場合には、相続人が協議をして、誰が、どの財産を相続するかを決めます。これを遺産分割協議といいます。その際には、相続財産全体を評価した上で、例えばある財産を相続人Aが相続すると相続割合に比べてもらいすぎだ、逆に相続人Bが相続割合に比べて少なすぎる、ということになれば、AがBにお金を払ってバランスをとることもあります。
遺産分割協議の時に問題となるのが相続財産の評価額です。預貯金などは簡単ですし、不動産は、国税庁が定めている、路線価や固定資産税を基準に定める方法によって算出されます。では、例えば小林亜星さんの音楽作品の著作権はどのように評価されるのでしょう。
実はこれについても国税庁が、「年平均印税収入の額×0.5×評価倍率」という評価方法を定めています。「年平均税収入の額」は、直近3年間の印税収入の平均額とされています。「評価倍率」は、今後どのくらいの期間その著作物について印税収入が見込めるかを踏まえて、国税庁の定める割合に従って算出されることになっています。小林亜星さんのように亡くなった時点で既に売れている作品の場合は、これで遺産分割協議ができます。
ただ、亡くなった時にはあまり売れてなかったのに、相続後に急に売れたりした場合は、この計算方法だと紛争になることがあります。例えば売れていないときの低い金額の「年平均税収入の額」を基準に相続人Aが著作権を相続する遺産分割協議をしたのに、その後作品が急に売れて印税収入が増えたりすると、相続人Bから、Aが財産をもらい過ぎだから遺産分割協議は無効だというクレームが出ることもあります。
著作者が分割方法についての遺言を残しておいてくれると、こういう紛争もある程度回避することができます。著作権の保護期間は死後70年と長いので、著作者は遺言を残すようにした方がいいですね。